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本編

王女殿下は2人の関係性の変化を聞きたくて……

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「ねえ? アルバ叔父様おじさま? デリー叔母様おばさまおっしゃっていた言葉、ものすごく気になりますわね? いつからですの? 少なくとも9日前から3日前の間ということには間違い有りませんわね? だって、9日前に例の2家一派が捕縛され、3日前に先ほどお父様がされた発言を公衆の面前でおこなったわけですもの。その間に何があったか問うよりほかありませんわ?」
 ミルフェリアーナ第1王女殿下は首を右にかしげながら、ルバートに問う。ミルフェリアーナ第1王女殿下は母親のチェルリシアーナ王妃殿下仕込みのちょっぴり威圧感のある笑顔だ。

「ああ、まず……、うん、そうだな。ミルフェリアーナ第1王女殿下の問いに答える前にだ、そもそもの話をしなければならないな。そもそも俺たち2人の思いが通じ合ったのは9日前の夜だ」
「すると……、例の2家一派が捕縛された夜ですね。確か、その日パーティで愚かにも・・・・リリアナ様に冤罪を着せて・・・・・・婚約破棄を宣告し、そこをアルバ叔父上おじうえが実権を握っている王国軍第2師団特務憲兵隊の面々と共に殴り込みを掛けた日の夜。確か、その日は散々場を荒らした後に特務憲兵隊の面々に後事の一切を託して、リリアナ様を始めとしたハルブーノ家の面々と共にハルブーノ家の屋敷へ向かったんでしたか。更に言うと報奨に関しては父上からでなくヴェイタ叔父上おじうえからという形で丸投げしたんでしたね。あれは父上でなくヴェイタ叔父上おじうえにする必要があったんですかね? そこらへんの話はまだ教えてもらってないんです」
流石さすがだな。シュテイルファン第1王子。よくぞ知っている。完全に合っているな。報奨の支給がギュスタ兄上でなく、ビタンゴルス大公たるヴェイタ兄上からというのは意味があるぞ? 考えさせるための補助としての言葉をいくつか出すからな。今回の突入等含めて対象とする地域の大きさは? 出動した第2師団からどれだけの規模の人員は? 王国軍の最高司令官は誰? 宰相府の最高司令官たる筆頭宰相は誰? そこから考えてみろ。それと俺もそう遠くない内に王国軍第2師団第1特務憲兵隊長になり、更にシュテイルファン第1王子が王座にく前までには王国軍第2師団長になっているだろう。そろそろ王国軍第2師団首脳にも世代交代の波が来ているからな? それまでに色々と考えてみろ」
「はい。考えてみます。でも、大体は今のアルバ叔父上おじうえの話でわかりました。私からの話はここまで。ミルフェにまた話を握らせますね」
 ルバートがあのパーティの日の晩にリリアナと思いが通じ合ったことを打ち明けると、シュテイルファン第1王子が当時の状況を説明して、自身の疑問をぶつける。それにはルバートとしては完全に教える形ではなく、重要な単語を出してシュテイルファン第1王子に考えさせる方向に舵を切った。シュテイルファン第1王子もよわい13ではあるが、父親や叔父2人、祖父と同様に賢い。大体は察したようだ。

 ちなみに今の王国軍第2師団長はアトキグナス地方の有力貴族の当主だ。歳も40を優に越し、50になるまでに領地の経営に専念したい意向を示している。そして、それに相応しいのはルバートだとも思っている。
 また、王国軍第2師団第1特務憲兵隊長はスイタルオーウド地方の有力貴族の当主であり、年もルバートの2つ上。実はパーティの日にもルバートに絡んだり、オクトルザース処刑の日に鞭を渡していたアレスの実兄だったりする。そんな王国軍第2師団第1特務憲兵隊長もまたルバートと同じく叩き上げの精鋭。彼としてもルバートの実力も権威も知っている。そういうこともあって、ルバートがここまでのし上がって実力を見せた以上は一度ルバートに隊長の座を譲り、自身は特別顧問の座についた上で特務憲兵隊の実力の底上げを図り、ルバートが王国軍第2師団長にく頃に再度、王国軍第2師団第1特務憲兵隊長に戻る。そういう話をルバートや王国軍第2師団長とも話を付けてある。パーティでは第1特務憲兵隊長が姿を見せなかったのはルバートの隊長への昇任試験・・・・とも銘打っていた。全員、怪我もなく戻ってこれたので間違いなく次の春にはルバートは第1特務憲兵隊長になるであろう。これからの半年は引き継ぎ期間だ。

「思いが通じ合ったとは言いますけど、先に思いを打ち明けたのはどちらですの?」
「…………リア? どうする? 経緯を打ち明けても良いのか?」
「ええ? 大丈夫ですわ。ルバート」
 ミルフェリアーナ第1王女殿下は追求の手を緩めない。流石さすがにこれを打ち明けてしまうとルバートとしてはヘタレ・・・扱いされるし、リリアナとしても淑女・・としてどうか? という事を問われそうにならないか心配したルバート。しばしの逡巡しゅんじゅんて、リリアナに経緯を打ち明けてもいいかと問う。リリアナはルバートの膝の上から返事をする。『この会食の席に用意された椅子が肘置きのない椅子で良かった』と内心思いながらもルバートはリリアナの返事を聞いて、笑顔を浮かべる。

「そうだな。いつも『バルガス』『バルガス』と言っていたリリアナに俺の本当の身分を明かしたのはハルブーノ家の屋敷に戻って、ハルブーノ家前当主夫妻、ハルブーノ家当主のシエンタス、リア、俺で密談を始めてすぐのことだ。リアが質問をしてきたから打ち明けたという流れだな。リアも賢い子だ。俺がやんごとなき身分であることを察したからこそ、俺には『今までのリリアナお嬢様・・・・・・・呼びを止めてほしい』『敬語も使ってほしくない』と言ってきてな。でも、俺の中では、流石さすがに打ち明けたことで今までの気安い関係性が失われるのは嫌だと思っていた。だから俺もリアへ、『俺に対し敬語を使わない』、『俺への敬称も使わない』様に念を押したよ。俺が始めて『リリアナ』と呼び捨て出来た時は本当に感動に打ち震えたのは今でも忘れられないな」
 パーティの後の事を思い出しながら語るルバート。そのルバートが出した笑みはあやしさをかもし出していた。

 ――パタン。スタスタ。

「アルバトルガス様、所望の物を用意できましたのでお渡ししますね」
「ありがとう。即座の対応、感謝する」
「いえいえ。これも仕事ですので」

 ――スタスタ。

 王宮の使用人がキンキンに冷えた手巾しゅきんを3つ用意してくれた。それを受け取ったルバートは使用人に礼を言う。使用人も『仕事を終えた』と言わんばかりにその場を離れた。

「ひゃっ。ルバート! 冷たいですわ!」
「甘んじて受け入れろ、リア。愛を受け入れることに耐性がないというのは困りものだな。これは俺からの愛だからな」
「んもう! ルバートったら!」
 受け取った手巾しゅきんを左右の首筋に2枚、額に1枚当てたルバートに抗議するリリアナ。それに対して、『すぐに顔を赤くしてのぼせるリリアナが悪い』と言わんばかりに飄々ひょうひょうと受け流すルバート。はたから見れば、やはり、その空間だけ実に甘い空気が流れていた。

「いやあ、目に毒ですねぇ。本当に」
「イタールもたまに? いえ、しょっちゅう散々・・甘やかしてくれるわよね。そんなイタールがどの口でそれをいうのかしら?」
「ははは。フィアにそれを言われたらかなわないですね」
 ヴェイタロウズ大公殿下、デルフィアーナ大公妃殿下夫妻もそれを見てイチャついているが、子どもたちは慣れているようで生暖かい目・・・・・で両親のイチャつきを眺めていた。

「本当にそこだけ暑いし、見てるだけで砂糖を吐きそうだ」
「スタリー? 貴方も人のこと言えなくってよ?」
「はははは。これもセイルノオーズの男の定めだ。諦めろ。リシア」
「仕方ないわね。だってセイルノオーズの家に嫁いだのですもの」
 ギュスタルボス国王陛下、チェルリシアーナ王妃殿下もまたイチャついている。子どもたちも長年、それを見てるから慣れっこのようである。

「余たちもイチャついたほうが良いか? フィニー」
「まあ、ルッコ? してもいいけど耐えられるかしら?」
「ははは。もう枯れておるからな、穏やかにフィニーをでるのも一興いっきょうよな」
「ふふふ。ルッコったら」
 なんと、マルトルコス先王陛下、アルフィニアーデ王太后殿下もその流れに乗ってしまった。こうなるとどこらへんで収拾しゅうしゅうをつけるべきかが問題である。

 だが、安心してほしい。我らがミルフェリアーナ第1王女殿下がなんとかしてくれるはずだから。
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