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妹リリーナの独白
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アンジェラからセルードの話を聞かされた時、リリーナは彼を押し付けられるのではという予感はあった。
でもセルードは、モノではない。
意思も感情もある血の通った人間だ。
だから”まさか”と思っていた。これは単なる姉妹の会話ーー結婚前の惚気話なのだと自分に言い聞かせた。そして姉を疑う自分を責めた。
けれども、その”まさか”が現実のものになるなんて………リリーナは自分の短絡的な思考を悔やんだ。
ただあの時は姉の言われるがまま、リリーナは未来の義兄と会えるのを楽しみにしていた。
セルードと初めて会ったのは、ネリム邸でのお茶会の席だった。
事前に奇抜な服装と、ぼそぼそとした喋り方をするのは知っていたので、リリーナはさほど気にならなかった。
いや、はっきり言うと他人の視線を気にせず好きな格好をするセルードに好感すら持った。
茶会の席では、アンジェラが率先して会話を盛り上げてくれて、表面上は和やかな雰囲気だった。
でも、アンジェラは用意された菓子に一切手を付けなかった。普段はミルクを好むのに、レモンをスライスしたお茶ばかり飲んでいた。
そのことに違和感を覚えたけれど、姉は気まぐれに食の好みを変えるので、リリーナはあまり気にしていなかった。
でも、今思い返してみるとセルードは厳しい目でアンジェラを見ていた。
……間違いは無い。
レモンのスライスをアンジェラがティーカップに入れる度に、セルードの眉間には皺が寄っていた。
「ーーセルード様は、もしかして廊下で立ち聞きする前から、姉が他の男性と恋に落ちていることをご存知でしたのでしょうか?」
一つの真実に気付いたリリーナは、話を中断してセルードに問うた。
「そうだとしたら?」
問われた側のセルードは涼し気に、質問を質問で返す。
それはすなわち是ということ。
「…………して」
「ん?」
「……どうして、黙っていたのですか?」
震える声で問うても、セルードは低く笑うだけ。
「お答えいただけないのですか?」
リリーナはもう一度、セルードに問うた。
問い掛けながら、リリーナは自分はどんな答えを望んでいるのかわからなくなる。
ついさっき姉アンジェラの部屋の前で立ち聞きしてしまった時、間違いなくセルードは怒っていた。
初めて耳にする言葉に失望し、悔しさを露わにしていた。もしあれが演技だったら、自分が愚かだと笑えるほど真実味があった。
でも……でも、今の彼から伝わるのは真逆のそれ。
低い声で笑う彼は何もかも知っていて、まるで自分を嘲笑っているかのよう。
「セルード様、どうか何か仰ってください」
もしかして自分の早とちりなのかもしれない。そんな懸念が頭の隅によぎったけれど、苛立つ声を抑えることができなかった。
そうすればセルードは笑いを止めて、身体ごとリリーナの方を向く。
そしてゆっくりと唇を動かし、こう言った。
「失礼。貴方が、あまりに愚かで可笑しくて」
でもセルードは、モノではない。
意思も感情もある血の通った人間だ。
だから”まさか”と思っていた。これは単なる姉妹の会話ーー結婚前の惚気話なのだと自分に言い聞かせた。そして姉を疑う自分を責めた。
けれども、その”まさか”が現実のものになるなんて………リリーナは自分の短絡的な思考を悔やんだ。
ただあの時は姉の言われるがまま、リリーナは未来の義兄と会えるのを楽しみにしていた。
セルードと初めて会ったのは、ネリム邸でのお茶会の席だった。
事前に奇抜な服装と、ぼそぼそとした喋り方をするのは知っていたので、リリーナはさほど気にならなかった。
いや、はっきり言うと他人の視線を気にせず好きな格好をするセルードに好感すら持った。
茶会の席では、アンジェラが率先して会話を盛り上げてくれて、表面上は和やかな雰囲気だった。
でも、アンジェラは用意された菓子に一切手を付けなかった。普段はミルクを好むのに、レモンをスライスしたお茶ばかり飲んでいた。
そのことに違和感を覚えたけれど、姉は気まぐれに食の好みを変えるので、リリーナはあまり気にしていなかった。
でも、今思い返してみるとセルードは厳しい目でアンジェラを見ていた。
……間違いは無い。
レモンのスライスをアンジェラがティーカップに入れる度に、セルードの眉間には皺が寄っていた。
「ーーセルード様は、もしかして廊下で立ち聞きする前から、姉が他の男性と恋に落ちていることをご存知でしたのでしょうか?」
一つの真実に気付いたリリーナは、話を中断してセルードに問うた。
「そうだとしたら?」
問われた側のセルードは涼し気に、質問を質問で返す。
それはすなわち是ということ。
「…………して」
「ん?」
「……どうして、黙っていたのですか?」
震える声で問うても、セルードは低く笑うだけ。
「お答えいただけないのですか?」
リリーナはもう一度、セルードに問うた。
問い掛けながら、リリーナは自分はどんな答えを望んでいるのかわからなくなる。
ついさっき姉アンジェラの部屋の前で立ち聞きしてしまった時、間違いなくセルードは怒っていた。
初めて耳にする言葉に失望し、悔しさを露わにしていた。もしあれが演技だったら、自分が愚かだと笑えるほど真実味があった。
でも……でも、今の彼から伝わるのは真逆のそれ。
低い声で笑う彼は何もかも知っていて、まるで自分を嘲笑っているかのよう。
「セルード様、どうか何か仰ってください」
もしかして自分の早とちりなのかもしれない。そんな懸念が頭の隅によぎったけれど、苛立つ声を抑えることができなかった。
そうすればセルードは笑いを止めて、身体ごとリリーナの方を向く。
そしてゆっくりと唇を動かし、こう言った。
「失礼。貴方が、あまりに愚かで可笑しくて」
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