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旅路と再会の章
人は見かけによらない※トーマスの失言①
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グロッソの従者であるトーマスが都会への呪詛を吐いている頃、ファルファラは自宅の玄関ホールにいた。
「それじゃあ、行ってくるからお利口さんにしててね。お土産買って来るから。あと誰か来ても扉を開けちゃ駄目よ。それと郵便配達員を装った空き巣がいるから気を付けて。万が一、屋敷に入ってきたら、まずは捕縛。次に、地下牢に。折檻は私がやるから。ああ私が帰ってくるまでの間、ご飯は死なない程度にあげておいてね。でも、何かあったらラバンを通して教えて。すぐに駆け付けるから」
最終的に物騒になった注意事項告げたファルファラは、念を押すように「ね?」と笑顔でメイド二人に問いかける。
そうすれば元気な返事が返ってきた。
「はい、わかりました!お任せください!」
「お利口さんにするから、早く帰ってきてくださいね!」
声を発したと同時に、コモンとクラリは片手をビシッと上げた。頼もしい限りである。
ただ主であるファルファラが留守になるのはとっても嫌なようで、二人はさりげなさを装って空いている方の手でファルファラのローブの裾を握りしめている。
死んでも離さないという意思が伝わるほど、二人の指先は力の入れ過ぎで真っ白だ。
「こら、お嬢の大事なローブが皺になってしまうでしょう。手を放しなさい」
気にするところはそこなのか?と思わずツッコミを入れたくなるような窘め方をしたラバンは、コモンとクラりの手をぺちぺちと叩く。反対の手には、ファルファラの旅行鞄が握られている。
使い魔には一応優劣がある。それは主が使役した順番だ。
ラバンはファルファラの最初の使い魔である。そのためコモンとクラリは、ラバンの命令に逆らえない。しぶしぶながらも手を放す。
それから「……うう」と最後の悪あがきで呻き声を上げた後、気持ちを切り替えて大きな玄関扉を開ける。
「ファル様、どうかお気を付けて」
ぺこっとお辞儀をした後、出発を促すコモンとクラリに一つ頷いて、ファルファラはラバンを見た。
「じゃ、行こっか」
「かしこまりました。お嬢、手を」
ファルファラをエスコートするラバンは、今日は燕尾服ではなく簡素な旅服姿だ。
その服装でインテリ片眼鏡は若干浮いているが、それでも人間の枠からはみ出てはいない。
今日から2ヶ月間。ラバンはファルファラの従者として同行する。
結果重視のセンティッドに、魔物調査に同行する者を一々報告する義務は無いが、如何せんこれが自分の婚約破棄がかかった取引の為、念のため許可を求めた。
結果は認められた。ものすごーく嫌な顔をされたが、それでも許可された。
そんなわけでファルファラの悩みは「旅の間、グロッソにどう接するか」から、「ラバンとグロッソの相性は良いのか、悪いのか」という内容に変わった。
ラバンは人畜無害ではないが、好戦的でもない。相手がなにも仕掛けてこなければ、ビジネスライクに接っするタイプだ。
つまりグロッソが癖のある性格ではなければ、北方までの旅路はなんとかいける。
しかし、ファルファラはグロッソのことを何も知らない。知っていることと言えば、5日前、自分と同様にセンティッドの被害にあった一人ということだけ。
北方には魔術師がそれなりにいるから、これまでファルファラは足を運ぶ機会が無かった。
せめて北方の民がどんな人種なのか予備知識があれば良かったのだが、人間嫌いのファルファラがそんなものに興味を持つわけが無い。
「ねえラバン、グロッソさんと喧嘩しないでね」
万が一を考え、ファルファラがおずおずとラバンにお願いすると、彼は爽やかな笑みを浮かべてこう告げた。
「相手次第です」
「……そんなぁ」
へにょりと眉を下げたファルファラを見下ろすラバンの目の奥は物騒に光っている。
……悲しくも、ファルファラはこの旅が前途多難になる予感がした。
「それじゃあ、行ってくるからお利口さんにしててね。お土産買って来るから。あと誰か来ても扉を開けちゃ駄目よ。それと郵便配達員を装った空き巣がいるから気を付けて。万が一、屋敷に入ってきたら、まずは捕縛。次に、地下牢に。折檻は私がやるから。ああ私が帰ってくるまでの間、ご飯は死なない程度にあげておいてね。でも、何かあったらラバンを通して教えて。すぐに駆け付けるから」
最終的に物騒になった注意事項告げたファルファラは、念を押すように「ね?」と笑顔でメイド二人に問いかける。
そうすれば元気な返事が返ってきた。
「はい、わかりました!お任せください!」
「お利口さんにするから、早く帰ってきてくださいね!」
声を発したと同時に、コモンとクラリは片手をビシッと上げた。頼もしい限りである。
ただ主であるファルファラが留守になるのはとっても嫌なようで、二人はさりげなさを装って空いている方の手でファルファラのローブの裾を握りしめている。
死んでも離さないという意思が伝わるほど、二人の指先は力の入れ過ぎで真っ白だ。
「こら、お嬢の大事なローブが皺になってしまうでしょう。手を放しなさい」
気にするところはそこなのか?と思わずツッコミを入れたくなるような窘め方をしたラバンは、コモンとクラりの手をぺちぺちと叩く。反対の手には、ファルファラの旅行鞄が握られている。
使い魔には一応優劣がある。それは主が使役した順番だ。
ラバンはファルファラの最初の使い魔である。そのためコモンとクラリは、ラバンの命令に逆らえない。しぶしぶながらも手を放す。
それから「……うう」と最後の悪あがきで呻き声を上げた後、気持ちを切り替えて大きな玄関扉を開ける。
「ファル様、どうかお気を付けて」
ぺこっとお辞儀をした後、出発を促すコモンとクラリに一つ頷いて、ファルファラはラバンを見た。
「じゃ、行こっか」
「かしこまりました。お嬢、手を」
ファルファラをエスコートするラバンは、今日は燕尾服ではなく簡素な旅服姿だ。
その服装でインテリ片眼鏡は若干浮いているが、それでも人間の枠からはみ出てはいない。
今日から2ヶ月間。ラバンはファルファラの従者として同行する。
結果重視のセンティッドに、魔物調査に同行する者を一々報告する義務は無いが、如何せんこれが自分の婚約破棄がかかった取引の為、念のため許可を求めた。
結果は認められた。ものすごーく嫌な顔をされたが、それでも許可された。
そんなわけでファルファラの悩みは「旅の間、グロッソにどう接するか」から、「ラバンとグロッソの相性は良いのか、悪いのか」という内容に変わった。
ラバンは人畜無害ではないが、好戦的でもない。相手がなにも仕掛けてこなければ、ビジネスライクに接っするタイプだ。
つまりグロッソが癖のある性格ではなければ、北方までの旅路はなんとかいける。
しかし、ファルファラはグロッソのことを何も知らない。知っていることと言えば、5日前、自分と同様にセンティッドの被害にあった一人ということだけ。
北方には魔術師がそれなりにいるから、これまでファルファラは足を運ぶ機会が無かった。
せめて北方の民がどんな人種なのか予備知識があれば良かったのだが、人間嫌いのファルファラがそんなものに興味を持つわけが無い。
「ねえラバン、グロッソさんと喧嘩しないでね」
万が一を考え、ファルファラがおずおずとラバンにお願いすると、彼は爽やかな笑みを浮かべてこう告げた。
「相手次第です」
「……そんなぁ」
へにょりと眉を下げたファルファラを見下ろすラバンの目の奥は物騒に光っている。
……悲しくも、ファルファラはこの旅が前途多難になる予感がした。
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