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旅路と再会の章
人は見かけによらない※トーマスの失言③
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キリキリする胃のあたりを片手で押さえたファルファラであるが、このままだと収拾がつかない状況になる予感がして二人に待ったをかけた。
「あ、あ、あのですね、私、馬車はこれで良いんです。すごく……いえ、ものっすごく私はこれに乗りたいんです。ですから他の馬車は要りませんっ。さあさあ、さっさと出発しましょう。ね!」
「ですが!」
「しかし!」
二人同時に反発され、ファルファラはううっと呻いた。しかしどこかホッとしている自分がいる。
心配の種だったラバンとグロッソが意気投合する姿を見ることができて。まさかこんなネタで共感しあうとは思っていなかったけれど。
気分は真っ暗闇の中で一筋の光を見出した気分だ。そしてこの希望が、どうかそのまま消えずに太い筋になってほしいと切に願う。
とはいえ、今は祈りを捧げるよりやるべきことがある。
「ラーバーンー、あのね、私はこれで北方に行きたいの!」
語尾を強めて訴えれば、ラバンはしぶしぶわかりましたと言って引き下がってくれた。残るは、あと一人。
「あ、あ、あの……グロッソさん、その……お、お気遣いありがとうございます。でもですね、私は……その……これが気に入りました。なので、これに一緒に乗ってもらえると嬉しいです。えっと……駄目ですか?」
今度は丁寧に頭を下げたまま、ちろっと上目遣いで訴えてみる。
そうすれば、グロッソはなぜかここでオタオタする。
「あ、そ、そうですが。で、ですが……本当に良いんですか?」
「もちろんです」
食い気味に返答して、ファルファラはさっさと馬車に乗り込むことにする。
こういう時は言葉で説明するより、行動で現した方が話が早く進む。というか不要な会話は避けたい。
ラバンもすぐにファルファラの後を追う。そして踏み台に足を掛けるファルファラを支え、己も車内に乗り込んだ。
「あのう……グロッソさん、の、乗らないのですか?」
着席したままファルファラがおずおずと声を掛ければ、グロッソは弾かれたように馬車へと近付き乗り込んだ。
そうして何事も無かったかのように、馬車が走り出す……と思いきや、ここでこの成り行きをずっと傍観していたトーマスが馬車の扉を閉めながら大変余計なことを口にした。
「いやぁー人は見かけによらないって本当なんですね。都会育ちのお嬢様は、きっとこの馬車を見て嫌味タラタラだと思って」
ーーゴッチン!
「黙れ」
トーマスのお喋りを遮ったのは、グロッソのげんこつだった。
「痛っ……いてて。閣下、ご自分の拳が凶器だといい加減気付いてくださいよ」
「なら、お前も己の口が失言製造機だという自覚を持て」
剃刀のように切れ味良くグロッソが言い返せば、トーマスは「え?失言製造機??」ときょとんとした。
しかし今ここで失言従者に向けて詳しく丁寧に説明できないグロッソは、己の手で扉を閉めることを選んだ。
「あなたの従者さん、ずいぶんと素直な人なのね」
センティッドのように笑顔で人の腹をさぐるような裏表のある人間は、一番ファルファラの苦手とする人種だ。
思ったままを口にしてくれる人の方がよっぽどいい。
そんな気持ちでファルファラがにこっと笑ってそう言えば、グロッソは深く頭を下げた。
「従者に代わり、私がお詫び申し上げます。大変申し訳ありませんでした」
「……っ……??」
ご丁寧な謝罪を受けたが、ファルファラは全く意味がわからない。つい首をコテンと倒してしまう。
そんな中、馬車は動き出す。
「お嬢、首を痛めます」
ラバンからグイっと強引に首の角度を戻されたファルファラは、未だ頭を下げ続けるグロッソを見て思う。
漆黒の髪に青みがかった紫色の瞳。センティッドと真逆で、グロッソは一見を近づけさせない冷たい印象を与える。
なのにセンティッドの悪ふざけにも機嫌を悪くすることは無く、謝る理由はよくわからないがそれでも従者に代わって深く頭を下げることができるなんてーー人は見かけによらないな、と。
「あ、あ、あのですね、私、馬車はこれで良いんです。すごく……いえ、ものっすごく私はこれに乗りたいんです。ですから他の馬車は要りませんっ。さあさあ、さっさと出発しましょう。ね!」
「ですが!」
「しかし!」
二人同時に反発され、ファルファラはううっと呻いた。しかしどこかホッとしている自分がいる。
心配の種だったラバンとグロッソが意気投合する姿を見ることができて。まさかこんなネタで共感しあうとは思っていなかったけれど。
気分は真っ暗闇の中で一筋の光を見出した気分だ。そしてこの希望が、どうかそのまま消えずに太い筋になってほしいと切に願う。
とはいえ、今は祈りを捧げるよりやるべきことがある。
「ラーバーンー、あのね、私はこれで北方に行きたいの!」
語尾を強めて訴えれば、ラバンはしぶしぶわかりましたと言って引き下がってくれた。残るは、あと一人。
「あ、あ、あの……グロッソさん、その……お、お気遣いありがとうございます。でもですね、私は……その……これが気に入りました。なので、これに一緒に乗ってもらえると嬉しいです。えっと……駄目ですか?」
今度は丁寧に頭を下げたまま、ちろっと上目遣いで訴えてみる。
そうすれば、グロッソはなぜかここでオタオタする。
「あ、そ、そうですが。で、ですが……本当に良いんですか?」
「もちろんです」
食い気味に返答して、ファルファラはさっさと馬車に乗り込むことにする。
こういう時は言葉で説明するより、行動で現した方が話が早く進む。というか不要な会話は避けたい。
ラバンもすぐにファルファラの後を追う。そして踏み台に足を掛けるファルファラを支え、己も車内に乗り込んだ。
「あのう……グロッソさん、の、乗らないのですか?」
着席したままファルファラがおずおずと声を掛ければ、グロッソは弾かれたように馬車へと近付き乗り込んだ。
そうして何事も無かったかのように、馬車が走り出す……と思いきや、ここでこの成り行きをずっと傍観していたトーマスが馬車の扉を閉めながら大変余計なことを口にした。
「いやぁー人は見かけによらないって本当なんですね。都会育ちのお嬢様は、きっとこの馬車を見て嫌味タラタラだと思って」
ーーゴッチン!
「黙れ」
トーマスのお喋りを遮ったのは、グロッソのげんこつだった。
「痛っ……いてて。閣下、ご自分の拳が凶器だといい加減気付いてくださいよ」
「なら、お前も己の口が失言製造機だという自覚を持て」
剃刀のように切れ味良くグロッソが言い返せば、トーマスは「え?失言製造機??」ときょとんとした。
しかし今ここで失言従者に向けて詳しく丁寧に説明できないグロッソは、己の手で扉を閉めることを選んだ。
「あなたの従者さん、ずいぶんと素直な人なのね」
センティッドのように笑顔で人の腹をさぐるような裏表のある人間は、一番ファルファラの苦手とする人種だ。
思ったままを口にしてくれる人の方がよっぽどいい。
そんな気持ちでファルファラがにこっと笑ってそう言えば、グロッソは深く頭を下げた。
「従者に代わり、私がお詫び申し上げます。大変申し訳ありませんでした」
「……っ……??」
ご丁寧な謝罪を受けたが、ファルファラは全く意味がわからない。つい首をコテンと倒してしまう。
そんな中、馬車は動き出す。
「お嬢、首を痛めます」
ラバンからグイっと強引に首の角度を戻されたファルファラは、未だ頭を下げ続けるグロッソを見て思う。
漆黒の髪に青みがかった紫色の瞳。センティッドと真逆で、グロッソは一見を近づけさせない冷たい印象を与える。
なのにセンティッドの悪ふざけにも機嫌を悪くすることは無く、謝る理由はよくわからないがそれでも従者に代わって深く頭を下げることができるなんてーー人は見かけによらないな、と。
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