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旅路と再会の章
<慧眼の魔術師>と使い魔の間違った勉強方法
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ファルファラ達を乗せた馬車は街道に添って順調に北上していく。
しかし馬車の中では、魔物調査に向けて心身ともに順調とはいかなかった。
「ーーねえ、ラバン。ここっていつからルゲン帝国の領土になったの?」
「さあ、知りません。ですがお嬢が存じ上げていないなら、この地図が間違っていますね。塗り直しましょう」
「待て待て待て待て待て待て!!」
向かいに並んで座る二人の会話を何とはなしに聞いていグロッソだったが、とんでもない方向に進みそうな予感がして、ファルファラの膝にある地図を取り上げた。
「おい、あんた無礼だぞ」
「……あの……今、私たち北方の予備知識を入れているので……その、邪魔しないでいただけますか?」
「いや、私は邪魔などしていない」
すぐさま否定したグロッソは、そのまま自分を睨み付ける優男ーーラバンに目を向ける。
(無礼なのはお前だ!私は間違った知識に塗り替えようとしていたのを阻止しただけだ!!)
グロッソはそうラバンに怒鳴りつけたかった。
……いや、ファルファラがいなければ絶対に怒鳴っていた。
しかし彼女にそんな乱暴な姿を見せたくない気持ちが強くて、ぐっと堪える。しつこいが自分は、暴走しようとする二人を止めただけ。
なのに、4つの目は思いっきり自分を非難している。
(くそっ。とんだ、濡れ衣だ)
グロッソは地図で顔を隠して溜息を吐いた。
***
ファルファラは<慧眼の魔術師>の二つ名を持つ稀代の魔術師だ。
だがしかし人生のほとんどを魔法の勉強と研究に捧げてきたせいで、人間関係スキルは恐ろしいほどポンコツである。
それに加えて、実は国外情勢についてもからっきしだったりもする。
もちろん近隣諸国の魔法情勢には詳しいし、魔法史限定なら自信はそこそこある。
しかし「どこそこの国の国王が変わった」とか「○○のせいで貿易摩擦が起きている」などと言った政治にはとことん無頓着である。
「恐れながらファルファラ嬢、あの……差し出がましいようですがルゲン帝国について、必要情報だけ抜粋して私が説明しましょう」
取り上げた地図をずっと睨めっこしていたグロッソは、ファルファラにそれを返却しながら提案する。
「そうね。そうしてもらえるなら」
「お嬢、あれの教えてもらうなら、私が」
「ラバン」
ファルファラは割って入ったラバンの膝を軽く叩いて制した。
ラバンは見た目は人間だが、実際は人間の寿命より遥かに長い時間を生きる生き物だ。
当然、色んなことを知っている。しかし長く生き過ぎている分、10年20年など僅かな誤差でしかない思っている。しかも少々記憶が曖昧なところがある。
なのでラバンから知識を得ようと思うと、後で自分で修正しなければならないデメリットがある。
今、ファルファラが苦手な国外情勢に目を向けているのは、北方の魔物調査をする上で必要だから。つまり悠長にラバンから教えて貰った知識に修正を入れる時間は無い。
「お嬢は、私よりこの男を選ぶんですか?」
聞きように寄っては、二人の男を手玉に取る悪女のようだ。
しかしラバンは使い魔で、グロッソはただの同行者。ここから痴情のもつれに発展する要素は皆無だ。
「何言ってんの、ラバン。北方のことは北方の住民に聞くのが手っ取り早いだけじゃない」
「それだけですか?」
「当たり前じゃない」
「本当ですか?アイツが北方の人間だから……だけですか?」
「そりゃあ、そうよ」
「……なら、良いです」
疑いの目を向けるラバンをなんとかラバンを引き下がらせたファルファラは、グロッソに目を向ける。
向かいの席に座る彼は、なぜか不満そうな顔をしていた。
しかし馬車の中では、魔物調査に向けて心身ともに順調とはいかなかった。
「ーーねえ、ラバン。ここっていつからルゲン帝国の領土になったの?」
「さあ、知りません。ですがお嬢が存じ上げていないなら、この地図が間違っていますね。塗り直しましょう」
「待て待て待て待て待て待て!!」
向かいに並んで座る二人の会話を何とはなしに聞いていグロッソだったが、とんでもない方向に進みそうな予感がして、ファルファラの膝にある地図を取り上げた。
「おい、あんた無礼だぞ」
「……あの……今、私たち北方の予備知識を入れているので……その、邪魔しないでいただけますか?」
「いや、私は邪魔などしていない」
すぐさま否定したグロッソは、そのまま自分を睨み付ける優男ーーラバンに目を向ける。
(無礼なのはお前だ!私は間違った知識に塗り替えようとしていたのを阻止しただけだ!!)
グロッソはそうラバンに怒鳴りつけたかった。
……いや、ファルファラがいなければ絶対に怒鳴っていた。
しかし彼女にそんな乱暴な姿を見せたくない気持ちが強くて、ぐっと堪える。しつこいが自分は、暴走しようとする二人を止めただけ。
なのに、4つの目は思いっきり自分を非難している。
(くそっ。とんだ、濡れ衣だ)
グロッソは地図で顔を隠して溜息を吐いた。
***
ファルファラは<慧眼の魔術師>の二つ名を持つ稀代の魔術師だ。
だがしかし人生のほとんどを魔法の勉強と研究に捧げてきたせいで、人間関係スキルは恐ろしいほどポンコツである。
それに加えて、実は国外情勢についてもからっきしだったりもする。
もちろん近隣諸国の魔法情勢には詳しいし、魔法史限定なら自信はそこそこある。
しかし「どこそこの国の国王が変わった」とか「○○のせいで貿易摩擦が起きている」などと言った政治にはとことん無頓着である。
「恐れながらファルファラ嬢、あの……差し出がましいようですがルゲン帝国について、必要情報だけ抜粋して私が説明しましょう」
取り上げた地図をずっと睨めっこしていたグロッソは、ファルファラにそれを返却しながら提案する。
「そうね。そうしてもらえるなら」
「お嬢、あれの教えてもらうなら、私が」
「ラバン」
ファルファラは割って入ったラバンの膝を軽く叩いて制した。
ラバンは見た目は人間だが、実際は人間の寿命より遥かに長い時間を生きる生き物だ。
当然、色んなことを知っている。しかし長く生き過ぎている分、10年20年など僅かな誤差でしかない思っている。しかも少々記憶が曖昧なところがある。
なのでラバンから知識を得ようと思うと、後で自分で修正しなければならないデメリットがある。
今、ファルファラが苦手な国外情勢に目を向けているのは、北方の魔物調査をする上で必要だから。つまり悠長にラバンから教えて貰った知識に修正を入れる時間は無い。
「お嬢は、私よりこの男を選ぶんですか?」
聞きように寄っては、二人の男を手玉に取る悪女のようだ。
しかしラバンは使い魔で、グロッソはただの同行者。ここから痴情のもつれに発展する要素は皆無だ。
「何言ってんの、ラバン。北方のことは北方の住民に聞くのが手っ取り早いだけじゃない」
「それだけですか?」
「当たり前じゃない」
「本当ですか?アイツが北方の人間だから……だけですか?」
「そりゃあ、そうよ」
「……なら、良いです」
疑いの目を向けるラバンをなんとかラバンを引き下がらせたファルファラは、グロッソに目を向ける。
向かいの席に座る彼は、なぜか不満そうな顔をしていた。
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