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旅路と再会の章
とっておきの魔法の言葉
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グロッソと旅を初めて早半月。
移動中の車内ではグロッソは始終無口だし、ファルファラも自ら彼に話しかけるような冒険者ではない。
それに宿での食事は部屋で個別に取るし、昼食は馬車を適当な場所に止めて慌ただしく食べるから会話など一切無い。
とどのつまり、親交を深めるようなことは何もしていない。
けれども半月も一緒にいればわかることはある。
たとえば今、グロッソが自分に対してムッとしていることとか。
(グロッソさん、なんで怒っているんだろう……。私、何をしちゃったんだろう)
ファルファラは両手をもじもじさせながら、じっとグロッソを見る。
彼はそっぽを向いて、ファルファラを見ようとしない。否、隣に座るラバンを睨んでいるのだ。
それに気付いたファルファラは、慌てて二人の間に割って入る。
「あ、あ、あの、私の従者がその……し、失礼なことを言って申し訳ありませんっ。でもラバンは悪気は無いんです!……ただ、ちょっと世間慣れしてないだけで……」
「彼は貴方の屋敷の執事と殿下から聞きましたが?」
「あ……それはその……そうなんですが、でも……」
意地の悪い質問にファルファラは、なんとか言い返そうとしたけれど、結局もにょもにょと呟き項垂れる。
「……ごめんなさい」
ファルファラは、謝ることしかできなかった。
ラバンを屋敷全般を取り仕切る執事という目で見られたら、グロッソがこんなに不機嫌になるのも無理はない。
ただ言い訳をするなら、ラバンはグロッソのことをちゃんと人だと認識しているのだ。だから思ったままを口にする。それが良いか悪いかは別として。
言葉を選ばなければ、ラバンにとってファルファラ以外の人間は、コバエと同類。その存在を鬱陶しいと思っても、いちいち感情を向ける必要は無い。
でもグロッソに対しては違う。感情の赴くままを言葉にしているのだ。
ファルファラにとったら、これは喜ばしいこと。
北方到着まで、まだ一ヶ月半もかかる。そんな状態で、グロッソとラバンが仲良くなってくれたら、この旅はとても快適なものに変わるだから。
他力本願だとわかってはいるが、正直そうなってくれたら良いなと思っていた。かなり期待もしていた。
でも、そんなふうに思っていた自分をファルファラは恥じた。
ラバンは見た目だけは完璧な人間だ。従者として連れてきているから、グロッソより身分が低い体になっている。
そんな相手から無礼な言葉を吐かれたのだ。彼の矜持は間違いなく傷付いたはずだ。
「本当に、ごめんなさい」
ファルファラは、もう一度グロッソに謝った。
ラバンが使い魔であることはまだグロッソには話せない。これまでの半月、彼のことを悪い人だと思わないが、人間嫌いで人間不信のファルファラは簡単に誰かを信じることができない。
そんなとき「ごめんなさい」はとても便利な言葉だ。魔法の言葉とも言える。
これさえ紡いでおけば、大抵のことは丸く収まる。人間嫌いではあるが、ファルファラは他人より有利に立ちたいとは思わない。とにかく面倒なことになりたくないだけ。なのに、
「むやみに謝るのはやめてください」
グロッソには魔法の言葉は通用しなかった。
移動中の車内ではグロッソは始終無口だし、ファルファラも自ら彼に話しかけるような冒険者ではない。
それに宿での食事は部屋で個別に取るし、昼食は馬車を適当な場所に止めて慌ただしく食べるから会話など一切無い。
とどのつまり、親交を深めるようなことは何もしていない。
けれども半月も一緒にいればわかることはある。
たとえば今、グロッソが自分に対してムッとしていることとか。
(グロッソさん、なんで怒っているんだろう……。私、何をしちゃったんだろう)
ファルファラは両手をもじもじさせながら、じっとグロッソを見る。
彼はそっぽを向いて、ファルファラを見ようとしない。否、隣に座るラバンを睨んでいるのだ。
それに気付いたファルファラは、慌てて二人の間に割って入る。
「あ、あ、あの、私の従者がその……し、失礼なことを言って申し訳ありませんっ。でもラバンは悪気は無いんです!……ただ、ちょっと世間慣れしてないだけで……」
「彼は貴方の屋敷の執事と殿下から聞きましたが?」
「あ……それはその……そうなんですが、でも……」
意地の悪い質問にファルファラは、なんとか言い返そうとしたけれど、結局もにょもにょと呟き項垂れる。
「……ごめんなさい」
ファルファラは、謝ることしかできなかった。
ラバンを屋敷全般を取り仕切る執事という目で見られたら、グロッソがこんなに不機嫌になるのも無理はない。
ただ言い訳をするなら、ラバンはグロッソのことをちゃんと人だと認識しているのだ。だから思ったままを口にする。それが良いか悪いかは別として。
言葉を選ばなければ、ラバンにとってファルファラ以外の人間は、コバエと同類。その存在を鬱陶しいと思っても、いちいち感情を向ける必要は無い。
でもグロッソに対しては違う。感情の赴くままを言葉にしているのだ。
ファルファラにとったら、これは喜ばしいこと。
北方到着まで、まだ一ヶ月半もかかる。そんな状態で、グロッソとラバンが仲良くなってくれたら、この旅はとても快適なものに変わるだから。
他力本願だとわかってはいるが、正直そうなってくれたら良いなと思っていた。かなり期待もしていた。
でも、そんなふうに思っていた自分をファルファラは恥じた。
ラバンは見た目だけは完璧な人間だ。従者として連れてきているから、グロッソより身分が低い体になっている。
そんな相手から無礼な言葉を吐かれたのだ。彼の矜持は間違いなく傷付いたはずだ。
「本当に、ごめんなさい」
ファルファラは、もう一度グロッソに謝った。
ラバンが使い魔であることはまだグロッソには話せない。これまでの半月、彼のことを悪い人だと思わないが、人間嫌いで人間不信のファルファラは簡単に誰かを信じることができない。
そんなとき「ごめんなさい」はとても便利な言葉だ。魔法の言葉とも言える。
これさえ紡いでおけば、大抵のことは丸く収まる。人間嫌いではあるが、ファルファラは他人より有利に立ちたいとは思わない。とにかく面倒なことになりたくないだけ。なのに、
「むやみに謝るのはやめてください」
グロッソには魔法の言葉は通用しなかった。
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