22 / 38
旅路と再会の章
貴方は人生で、二人目
しおりを挟む
「ご、ご、ごめんなさい」
ファルファラは、うっかりまた謝ってしまった。
だってポンコツの自分が口にできる言葉は、これしかないから。
そうすればグロッソは、額に手を当て俯いてしまった。所謂「駄目だコイツ」のポーズである。
「……ラバン、ねえ……どうしよう」
ファルファラは小声で使い魔の袖を握って助けを求める。
人の心に鈍感な使い魔に縋る内容ではないとはわかっているが、悲しいことに人間スキルはラバンの方が上だ。
あと情けないが、こうやって彼に助けを求めるのは、今が初めてじゃない。
なのに、いつもは救世主のごとく自分を救ってくれる使い魔はすんっと鼻を鳴らした。
「知りません」
「……そんなぁ」
まさか主従関係を結んでいる使い魔に見放されるなんてと、ファルファラは涙目になった。もうお手上げだ。
ちなみに”気まずい空気を変える魔法”は、ナラルータ国には無い。あったらもうとっくに使っている。
「あの……グロッソさん……あ、あの……」
経験上、こういう時に黙っていると余計に空気が悪くなるのを身を持って知っているファルファラは、一先ず話しかけてみた。
しかし後に続く言葉が見つからない。
いや、あることはある。だが、それは「ごめんなさい」で、それを口にするのは愚かの極みだということくらいはファルファラだってわかる。
とどのつまり、不本意ながらだんまり決めてしまう結果となってしまった。
(ああ……消えたい)
使い魔にも見放され、同行者には完全に嫌われてしまった。
ならもう、残る手段は一つしかない。
「馬車を止めてください!!」
追い詰められたファルファラは、窓を開けて御者席に向かって叫んだ。
「はぁ!?」
「お嬢!?」
ラバンとグロッソが声を上げたと同時に、馬車が急停止する。
ガックンと大きく揺れて、ファルファラは床に転がりそうになるのを何とか踏ん張って扉を開けた。
「お待ちくださいっ。どこに行こうとしているのです!?」
グロッソはファルファラの腕を掴んで問いかける。その口調は尋問に近い。
「御者席です!」
ファルファラは真っ青な顔で返答した。
すかさずグロッソは「なぜ!?」と大声で聞き返す。彼は怒っているわけじゃない。焦っているだけ。焦り過ぎて、声を張り上げてしまっただけなのだ。
でもそれは、完全にパニックになっているファルファラにとって、更なる恐怖でしかなかった。
「……だ、だって……」
口を開いた途端、嗚咽まで零れる。目頭が熱い。ああ、泣きそうだ。
そう思った時にはもう涙が頬に滑り落ちていた。
「だって……グロッソさんが……ぅうう……ふぇ……ううっ」
堰を切ったように零れる涙と、ひりつく喉で上手く喋れない。
ファルファラは、馬車の床にしゃがみ込んで子供みたいに泣きじゃくってしまった。
こうなってしまったらもう、<慧眼の魔術師>然なんかしできないし、感情だって制御不能だ。
みっともなく泣く自分をラバンとグロッソが見下ろしているのが気配でわかる。少し空いた扉からトーマスが顔を覗かせているのも。
でも「見ないで」と訴えることも、逆切れして反論することもできない。
もう嫌だ。全部、嫌だ。本当に消えてしまいたい。
そんなふうに絶望に近い感情に覆われてしまったファルファラを救ったのは、ラバンではなくーーグロッソだった。
「無礼は承知で失礼します」
固い声が振って来たと同時に脇に手を入れられ、ファルファラの身体がふわりと浮く。
足をばたつかせる間もなく、お尻が座席に着地する。
予想外の展開にファルファラが目を丸くして顔を上げたと同時にグロッソと目が合った。
「すみませんでした」
グロッソは眉を下げて謝ると、上着のポケットからハンカチを取り出し、ファルファラの濡れた頬を拭く。それは優しく丁寧に。
対して、された側のファルファラはぽかんとする。
泣いている自分にこんなふうに優しくしてくれる人間に出会ったのは、人生で二人目だったから。
ファルファラは、うっかりまた謝ってしまった。
だってポンコツの自分が口にできる言葉は、これしかないから。
そうすればグロッソは、額に手を当て俯いてしまった。所謂「駄目だコイツ」のポーズである。
「……ラバン、ねえ……どうしよう」
ファルファラは小声で使い魔の袖を握って助けを求める。
人の心に鈍感な使い魔に縋る内容ではないとはわかっているが、悲しいことに人間スキルはラバンの方が上だ。
あと情けないが、こうやって彼に助けを求めるのは、今が初めてじゃない。
なのに、いつもは救世主のごとく自分を救ってくれる使い魔はすんっと鼻を鳴らした。
「知りません」
「……そんなぁ」
まさか主従関係を結んでいる使い魔に見放されるなんてと、ファルファラは涙目になった。もうお手上げだ。
ちなみに”気まずい空気を変える魔法”は、ナラルータ国には無い。あったらもうとっくに使っている。
「あの……グロッソさん……あ、あの……」
経験上、こういう時に黙っていると余計に空気が悪くなるのを身を持って知っているファルファラは、一先ず話しかけてみた。
しかし後に続く言葉が見つからない。
いや、あることはある。だが、それは「ごめんなさい」で、それを口にするのは愚かの極みだということくらいはファルファラだってわかる。
とどのつまり、不本意ながらだんまり決めてしまう結果となってしまった。
(ああ……消えたい)
使い魔にも見放され、同行者には完全に嫌われてしまった。
ならもう、残る手段は一つしかない。
「馬車を止めてください!!」
追い詰められたファルファラは、窓を開けて御者席に向かって叫んだ。
「はぁ!?」
「お嬢!?」
ラバンとグロッソが声を上げたと同時に、馬車が急停止する。
ガックンと大きく揺れて、ファルファラは床に転がりそうになるのを何とか踏ん張って扉を開けた。
「お待ちくださいっ。どこに行こうとしているのです!?」
グロッソはファルファラの腕を掴んで問いかける。その口調は尋問に近い。
「御者席です!」
ファルファラは真っ青な顔で返答した。
すかさずグロッソは「なぜ!?」と大声で聞き返す。彼は怒っているわけじゃない。焦っているだけ。焦り過ぎて、声を張り上げてしまっただけなのだ。
でもそれは、完全にパニックになっているファルファラにとって、更なる恐怖でしかなかった。
「……だ、だって……」
口を開いた途端、嗚咽まで零れる。目頭が熱い。ああ、泣きそうだ。
そう思った時にはもう涙が頬に滑り落ちていた。
「だって……グロッソさんが……ぅうう……ふぇ……ううっ」
堰を切ったように零れる涙と、ひりつく喉で上手く喋れない。
ファルファラは、馬車の床にしゃがみ込んで子供みたいに泣きじゃくってしまった。
こうなってしまったらもう、<慧眼の魔術師>然なんかしできないし、感情だって制御不能だ。
みっともなく泣く自分をラバンとグロッソが見下ろしているのが気配でわかる。少し空いた扉からトーマスが顔を覗かせているのも。
でも「見ないで」と訴えることも、逆切れして反論することもできない。
もう嫌だ。全部、嫌だ。本当に消えてしまいたい。
そんなふうに絶望に近い感情に覆われてしまったファルファラを救ったのは、ラバンではなくーーグロッソだった。
「無礼は承知で失礼します」
固い声が振って来たと同時に脇に手を入れられ、ファルファラの身体がふわりと浮く。
足をばたつかせる間もなく、お尻が座席に着地する。
予想外の展開にファルファラが目を丸くして顔を上げたと同時にグロッソと目が合った。
「すみませんでした」
グロッソは眉を下げて謝ると、上着のポケットからハンカチを取り出し、ファルファラの濡れた頬を拭く。それは優しく丁寧に。
対して、された側のファルファラはぽかんとする。
泣いている自分にこんなふうに優しくしてくれる人間に出会ったのは、人生で二人目だったから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
303
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる