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旅路と再会の章
一番とばっちりを喰らった人
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「ファルファラ嬢。本当に、すみません」
ピシッと固まり自分の殻に閉じこもってしまったファルファラを、怯えと受け止めたのだろう。グロッソは更に申し訳なさそうに言う。
「……」
(違う。グロッソさんは、何も悪くないのに)
馬車を止めてもらったのは、ラバンと一緒に御者席に移動しようと思っただけ。
狭い空間で不快の塊である自分達と一緒にいるのはきっと苦痛だろうと自分勝手に行動しただけ。だから、あなたは謝らなくていい。
そう伝えたくても、喉が震えて声が出ない。
申し訳なさと驚きと、満足に口も開けない不甲斐なさで、ファルファラの身体がカタカタと小刻みに震える。
それを間近で見ているグロッソは、血の気が引いた。
「......すみません。何とお詫びすれば良いのかわかりませんが……でも、聞いてください。私は貴方に対して怒りを向けていたのではないんです。まして責めていた訳でも」
ここで中途半端に言葉を止めたグロッソは、おもむろに自分の上着を脱いでファルファラの肩にかけた。
次いで、座席の端に畳んで置いてあったブランケットを掴むと、それまでファルファラの膝にかける。
どうやら寒くて震えていると思われたらしい。
ちなみに本日は晴天、春真っ盛り。風を遮る車内はむしろ暑いくらいだ。
そんな中、男物の上着とブランケットが巻き付いているファルファラは、控えめに言ってかなり暑い。
でも不思議と不快ではない。むしろ、
「......へへっ」
こんなに手厚くされるのはものすごく久しぶりで、くすぐったくて嬉しくて照れくさくてーー泣いたことも忘れて年甲斐もなく子供みたいな笑い声が出てしまった。
「えっと......あの......ファルファラ嬢、いかがなされました?」
今しがた号泣したかと思えば、ヘラヘラ笑い出す自分はさぞかし気味が悪いだろう。
でもグロッソは奇っ怪なものを見る目付きではない。むしろホッとした様子だ。
「ファルファラ嬢、改めてお詫び申し上げます」
「え?」
表情を生真面目なものに変えて頭を下げるグロッソに、ファルファラは首をコテンと倒した。若干、まだ引っ張るのかという気持ちで。
「そんな......むやみに謝らないでください」
奇しくもそれは、ついさっきグロッソの口から紡がれた言葉と同じものだった。
言われた側のグロッソは、言葉にできないほど複雑な表情をしている。言っておくがファルファラに悪意はなかった。
そもそも上手に言葉選びができるのなら、人間関係がポンコツだと自分で太鼓判を押したりなんかしない。
とはいえ微妙な空気になってしまったものは変えられない。そんな中、これまで傍観者でいたラバンが、ぶはっと豪快に吹き出した。
「あははっはははっはは! お嬢は罪な女だ」
腹を抱えて大爆笑するラバンに、そもそもの原因はお前だと言いたい。
でも人ならざるものに、それを言ったところで返ってくるのは「で?」の一言だ。
硬い主従関係を結んだとて、その性格も思考も変えることはできない。いや、そもそもラバンは自分のポリシーを変える気などこれっぽっちもない。
そんなわけで騒ぎの元を作った使い魔は、ひとしきり笑うと今度は飄々として口を開いた。
「なあ、あんた。謝るのはその辺にしといて、そろそろご自慢のルゲン帝国の知識を披露して貰おうじゃないか」
急に仕切り出したラバンに、グロッソの表情が険しくなる。
しかし先程の二の舞にならぬよう、ぐっと堪えて立ち上がると着席する。
そして、すぐに気を取り直してルゲン帝国の講義を始めると思いきやーー開け放たれた扉の向こうでオタオタする従者に声をかけた。
「トーマス、扉を締めてさっさと馬車を出せ」
「......へい」
急に馬車を停めろと言ったり、さっさと出せと言われたり。
今回、一番とばっちりを喰らったのは、おそらく御者役兼護衛騎士のトーマスだろう。
だがしかし悪しき都会から離れた彼は、分別ある大人に戻っている。
腑に落ちない顔をしつつも文句を飲み込みそっと扉を締めた。すぐに馬車は動き出した。
ピシッと固まり自分の殻に閉じこもってしまったファルファラを、怯えと受け止めたのだろう。グロッソは更に申し訳なさそうに言う。
「……」
(違う。グロッソさんは、何も悪くないのに)
馬車を止めてもらったのは、ラバンと一緒に御者席に移動しようと思っただけ。
狭い空間で不快の塊である自分達と一緒にいるのはきっと苦痛だろうと自分勝手に行動しただけ。だから、あなたは謝らなくていい。
そう伝えたくても、喉が震えて声が出ない。
申し訳なさと驚きと、満足に口も開けない不甲斐なさで、ファルファラの身体がカタカタと小刻みに震える。
それを間近で見ているグロッソは、血の気が引いた。
「......すみません。何とお詫びすれば良いのかわかりませんが……でも、聞いてください。私は貴方に対して怒りを向けていたのではないんです。まして責めていた訳でも」
ここで中途半端に言葉を止めたグロッソは、おもむろに自分の上着を脱いでファルファラの肩にかけた。
次いで、座席の端に畳んで置いてあったブランケットを掴むと、それまでファルファラの膝にかける。
どうやら寒くて震えていると思われたらしい。
ちなみに本日は晴天、春真っ盛り。風を遮る車内はむしろ暑いくらいだ。
そんな中、男物の上着とブランケットが巻き付いているファルファラは、控えめに言ってかなり暑い。
でも不思議と不快ではない。むしろ、
「......へへっ」
こんなに手厚くされるのはものすごく久しぶりで、くすぐったくて嬉しくて照れくさくてーー泣いたことも忘れて年甲斐もなく子供みたいな笑い声が出てしまった。
「えっと......あの......ファルファラ嬢、いかがなされました?」
今しがた号泣したかと思えば、ヘラヘラ笑い出す自分はさぞかし気味が悪いだろう。
でもグロッソは奇っ怪なものを見る目付きではない。むしろホッとした様子だ。
「ファルファラ嬢、改めてお詫び申し上げます」
「え?」
表情を生真面目なものに変えて頭を下げるグロッソに、ファルファラは首をコテンと倒した。若干、まだ引っ張るのかという気持ちで。
「そんな......むやみに謝らないでください」
奇しくもそれは、ついさっきグロッソの口から紡がれた言葉と同じものだった。
言われた側のグロッソは、言葉にできないほど複雑な表情をしている。言っておくがファルファラに悪意はなかった。
そもそも上手に言葉選びができるのなら、人間関係がポンコツだと自分で太鼓判を押したりなんかしない。
とはいえ微妙な空気になってしまったものは変えられない。そんな中、これまで傍観者でいたラバンが、ぶはっと豪快に吹き出した。
「あははっはははっはは! お嬢は罪な女だ」
腹を抱えて大爆笑するラバンに、そもそもの原因はお前だと言いたい。
でも人ならざるものに、それを言ったところで返ってくるのは「で?」の一言だ。
硬い主従関係を結んだとて、その性格も思考も変えることはできない。いや、そもそもラバンは自分のポリシーを変える気などこれっぽっちもない。
そんなわけで騒ぎの元を作った使い魔は、ひとしきり笑うと今度は飄々として口を開いた。
「なあ、あんた。謝るのはその辺にしといて、そろそろご自慢のルゲン帝国の知識を披露して貰おうじゃないか」
急に仕切り出したラバンに、グロッソの表情が険しくなる。
しかし先程の二の舞にならぬよう、ぐっと堪えて立ち上がると着席する。
そして、すぐに気を取り直してルゲン帝国の講義を始めると思いきやーー開け放たれた扉の向こうでオタオタする従者に声をかけた。
「トーマス、扉を締めてさっさと馬車を出せ」
「......へい」
急に馬車を停めろと言ったり、さっさと出せと言われたり。
今回、一番とばっちりを喰らったのは、おそらく御者役兼護衛騎士のトーマスだろう。
だがしかし悪しき都会から離れた彼は、分別ある大人に戻っている。
腑に落ちない顔をしつつも文句を飲み込みそっと扉を締めた。すぐに馬車は動き出した。
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