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旅路と再会の章

対岸の火事でいたいから、いっそ人工的に崖なんぞ作るのはいかがでしょうか?①

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「それじゃあ北方の住民さん、お手並み拝見といこうか」

 とんでもなく上から目線で仕切り直したラバンは、馬車の座席でふんぞり返っている。

 対して先生役を買って出たグロッソの頬は引きつっている。

 ファルファラは地味に火花を散らす二人を見つめ、そっと胃を押さえた。

 ただそうしながらも、頭の中で別のことを考える。

(……結局、グロッソさんが不機嫌になった理由を聞けなかった)

 ついさっきグロッソはファルファラのせいじゃないと言ってくれた。今もそのことでは怒っていない。でも原因は語らずじまいだった。

 できることならあの時、中途半端に終わってしまった彼の話を聞き直したい。

 とはいえ言葉選びが上手ではないと自分が喋れば、間違いなく目的を達成する前に、目も当てられない状況になるだろう。それは嫌だ。

 つまるところ、今は蒸し返すべきではない。

(……うーん……近いうちにそれとなく尋ねてみよう)
 
 そんなことを考えるファルファナは、自分の変化に気付いていない。

 4年間に大失恋をしてから、ファルファナは自分から誰かと距離を詰めようなんて一度も思ったことはなかった。

 他人の心を覗くなんて、怖ろしいこと。

 何も知りたくない。見たくない。他人に興味なんて持たないし、持ってほしくも無い。

 ただただひっそりと、できることならのんべんだらりと生きていきたいだけだった。

 でも今、ファルファラはグロッソに興味を持っている。不機嫌になった理由を知りたいということは、すなわち、彼の心に触れたいという意思の表れで。

 出会ってすぐ、”センティッドの被害者”という仲間意識を持ったのが理由の一つだろう。またラバンが心を許しているからというのもある。

 でも、それだけじゃない。

 グリジットが、どことなくに似ているから。

 ファルファラは過去の失恋の傷を抱えたままでいる。忘れてしまえば良いのに、それすらできずにいる。

 未だに見えない血をダラダラと流しながら、を考えている。

 何がいけなかったのだろうか?
 どうして彼はあんな行動を取ってしまったのだろうか?
 自分はあの時、本当はどうするのが正解だったのだろうか?

 もう聞きたくても聞けないそれを、何度も何度も居なくなってしまったに問いかけている。当然答えなんて返ってこない。

 だからこそファルファラは、グロッソのことを知りたいと思っているのかもしれない。

 といっても、それとなく聞き出すタイミングを見付けるのがファルファラにとっては、かなり難易度が高い。

 そんなことを指をもじもじ捏ねながら考えていれば、気持ちを切り替えたグロッソが口を開く。

「ーー一先ず知識のすり合わせをしましょう。ファルファラ嬢がどこまでご存じなのか教えていただいたあと、足りない部分を補足していく方が効率的です」
「はい」

 長々と講義を聞くより断然そっちの方が良いため、ファルファラは間髪入れずに頷いた。

 そして、自分が持っているルゲン帝国についての知識を語り始めた。



***



 ルゲン帝国は、ナラルータ国より広い国土を持っているが歴史が浅い国である。

 もともと幾つもの部族が集まってできた国で、その中で一番武力に秀でていたルゲン族が統一したため、そのまま国名はルゲン帝国となった。

 ルゲン帝国の皇帝は、代々(といってもまだ5代目)好戦的で領土の拡大を常に企んでおり、北東に接しているナラルータ国とは何度も小競り合いをしている。

 ちなみにルゲン帝国も魔法を使うが、その扱い方はナラルータ国とは異なる。

 精霊など自然界にある人外の力を借りるナラルータ国の魔法が白色だとすれば、ルゲン帝国が扱う魔法は黒色。負の力、誰かを呪う力が根源といわれている。

 そのためルゲン帝国民は病気より災害より、人災ーー呪われることを恐れる。
 
 もちろん呪いをかける方法があるから、解呪する方法も存在する。しかしながら、全ての呪いに対して解呪方法があるわけではない。

 無論、ナラルータ国の結界に組み込まれることが多い魔力無効化の術式は呪いに対して全く通用しない。従って……

 ーーパン!

「もう十分わかりました。ファルファラ嬢、ありがとうございます」

 魔法ネタになった途端、饒舌になったファルファラをグロッソは手を打ち鳴らして止めた。

 知っている知識を語れと言ったくせに、途中で止めるなんて随分横暴だとお思いだろう。

 けれども、実は止めるよう指示を出したのはファルファナの使い魔ラバンである。

 彼はファルファラが”魔法スイッチ”が入ったら、周りが見えなくなって永遠に語り続けることを身をもって知っている。

 ちなみに初めてファルファラの魔法講義を聞かされた際、ラバンは朝日を拝む羽目になった。

 使い魔は、人間のように睡眠を必要としない。

 けれどもさして興味の無い話を延々と聞かされるのは、人間同様にかなり苦痛なものだった。
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