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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい

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 嵐が過ぎれば、すっかり季節は変わっていた。

 厚い雨雲が消えログディーダ砦の頭上には青空が広がっていた。
 辺りの木々の葉は落ち尽くし、遥か遠くの山々までくっきりと見渡すことができる。

 ベルは窓から一変した初冬の景色を一瞥してから、滞在中に宛がわれていた部屋を出た。



 荷物を両手で抱えて砦の外に出れば、既に軍人達は、忙しそうに朝の業務に勤しんでいた。

「おはようございます」

 顔見知りになった砦在中の軍人達に挨拶をすれば、業務中の彼らは手を止め笑みを浮かべる。

「ベルちゃん、おはよー」
「おはよう。今日は寒いな。ちゃんと着込んでるか?」
「ベルさん、ぅはよー。昨日は楽しかったぞ!」
 
 ベルは馬車まで歩く足を止めずに、ぺこりとお辞儀をする。

 なんだかんだいって、ログディーダ砦には10日間滞在した。

 最初は不審感を顕にしていた軍人たちも、カードゲームを介してあっという間に仲良くなった。そして今では、自分の姿を見るとにこにこと笑って挨拶を返してくれる。 

 中には悔しそうな顔をする者もいるが、それはベルに惨敗したからで。でも、ベルがにこりと笑えば最終的に同じ顔をしてくれる。

 そんなやり取りを繰り返しながら、ベルは砦の馬車置き場まで移動した。

「皆さま、おはようございます」

 馬車に荷を積んでいたレンブラントの部下たちにベルが声を掛ければ、一番近くにいた焦げ茶色の短髪軍人─── ロヴィーが駆け寄ってきた。

「申し訳ありませんっ。あと少ししたら、荷物を受け取りに、お部屋に伺おうと思っていたんですが……お手を煩わせてしまいました」
「あーいえいえ。これくらい大丈夫ですよ」

 ベルは苦笑をしながら、ロヴィーに抱えていたものを手渡す。

 ロヴィーはレンブラントより少し年上だが背は低い。それでもベルからしたらかなりの大柄である。

 そしてロヴィーも自覚があるので、膝を折りベルと目線を合わせて荷物を受け取る。ベルが両手で抱えなければならないそれだけれども、ロヴィーは軽々と片腕で抱えて馬車の荷台へと収納した。

「おはよう、ベル。良く眠れたか?」
「おはよー、しっかり寝たよ。あなたこそ、ちゃんと寝れた?」

 積み荷の作業の手を止めず首だけ捻って声を掛けてきた赤毛の若い軍人は、ラルクだった。初日にベルが逃亡しかけた時に部屋の前で警護をにあたっていた青年である。

 そんな彼は含み笑いをするベルに露骨にムッとした表情を作る。

 昨日ラルクは、カードゲームでベルに惨敗したのだ。そしてその前日も、前々日も。

「あー寝れた寝れたっ。良いかっ、俺は夢の中でがっつりイメトレしたから今日こそ負けないからな。覚悟しておけよ」
「望むところです」

 懲りずに挑戦状を叩きつけてくるラルクは、ベルより一つ年上。

 ほぼ同年齢ということまあり、ベルはすぐに打ち解けた。そんなわけでベルは遠慮なく不敵な笑みを浮かべる。が、すぐに背後から気配を感じて振り返った。

「おはようございます。マースさん、昨日は……ん?」

 ベルがぺこりと頭を下げて他愛のない会話をしようとしたら、突然にゅっと包みを付き出されてしまった。

 白い手袋の上には、小さな包みが乗っていた。

「……クルミが入ったクッキーです」
「あ、ありがとうございます」
「……いえ」

 おずおずとベルがそれを受け取れば、マースは満足したように頷き、折り目正しく一礼すると積み荷作業へと向かった。

 マースはひょろりとした年齢不詳の長身の軍人だった。

 黒髪と灰色の瞳で口数も極端に少ないし、いつも眠そうな顔をしている。でも人一倍面倒見が良く、華奢なベルを案じてしょっちゅうお菓子を手渡してくれる。

 ただ毎度背後からぬぼーっと現れるのは勘弁して欲しいとベルはこっそり思っていたりもするが、決して悪気があってそうしているわけではないのを知っているので口に出すことはしない。

「ベルさま、寒いですから馬車の中へどうぞ」

 積み荷作業をぼんやりと眺めていたら、今度は御者のモーゼスから声を掛けられた。

 髪に白いものが混ざっている彼は、人懐っこい笑みを浮かべてベルのために馬車の扉を開けてくれる。

「はぁーい。ありがとうございます」

 突っ立っていたところで、かえって邪魔になる気がしたベルは素直に頷き馬車へと向かう。

 それにモーゼスはカードゲームを教えてくれた師匠でもある。師匠の指示には忠実に従うのがベルのモットーである。

 そんなこんなでベルが一通りレンブラントの部下に挨拶を終え、馬車に乗り込もうとしたその時、上官の位を示す茜色のタイをした軍人と、品の良い旅服に身を包んだ濃紺髪の青年がこちらに向かってきた。
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