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4.女神の一本釣りと、とある軍人の涙
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壁一枚挟んだ向こうは、臨戦態勢でいることを知っているのか知らないのかわからないが、フローチェも余所行きスマイルでメイドが運んできたお茶を義理の姉二人に進めている。
「お口に合えば嬉しいですけれど。さぁあ……どうぞ、飲んでくださいな」
そう言ってフローチェは客人がティーカップを持ち上げる前に、さっさとお茶を口に含む。
毒入りじゃないということをアピールしたいのか、それともサロンに通したけれどあんた達は客じゃないからと言外に訴えているのか......。
淑女然したフローチェの笑みは完璧すぎて、ベルにはわからない。
それはミランダとレネーナも同じ考えのようだ。二人は、かろうじて笑みを浮かべているがティーカップを持つ仕草は笑ってしまうほどぎこちなかった。
しかし、こんな朝っぱらから事前に伺いを立てずに乗り込んできただけあって、ミランダはお茶で喉を潤すと口火を切った。
「早速ですが、わたくし達、生き別れになった妹を探しているんです」
真剣な口調で切り出したミランダに、フローチェは目を丸くする。
「まぁ......生き別れの……妹ですか?」
ベルは自分の出自をフローチェに何一つ伝えてはいない。
しかし、女神はあの叩きつける雨の中、自ら馬に乗って刺客達を蹴散らしたくれたのだ。
危険を顧みず駆け付けてくれたということは、興味本位からではなく、おおよその事情を知っているからこその行動のはずだ。
それにその後も、事情を知っていなければ、あんなにノリノリにラルクの女装を手伝うわけがない。もしかしたらレンブラントから依頼を受けたのかもしれないが、それでも知っていることに変わりはない。
でも鏡越しに見る今のフローチェは、こちらの事情に一切関与していないといった態度を貫いている。
あまりに演技が上手すぎて、フローチェは何も知らないけれど、ノリと勢いでこの場を楽しんでいるんじゃないかとベルが疑うほどに。
もちろんフローチェは、此度の一件については全て知っている。軽く脅されたダミアンが、ペロッと吐いたからだ。
でも、ベルがそう思うくらいの演技力なので、義理の姉二人はまんまと騙されている。
そして胸くそ悪くなるような嘘を次々に吐いていく。
「……ええ。ある日突然居なくなってしまって。うっ、ううっ……さんざん手を尽くして探し続けたのですが、ずっと見つからず……うっ、うっ」
「もう一生妹と会えないのかと諦めかけた頃、こ、この町で……い、妹とよく似た容姿の娘を見かけたという情報が入りまして……」
もう何度も打ち合わせしたかのような阿吽の呼吸でミランダとレネーナは、遠回しにベルを探していることをフローチェに訴える。
時おり涙声になるその口調は、心から妹を案じているように聞こえなくもない。
ただフローチェは、世間話の一貫として耳にしているような表情で頬に手を当て口を開く。
「まぁ、それは何よりですわ。一日も早く妹さんが見つかると良いですわね。でも、わたくしは───」
「恐れながら、まだ続きがございまして」
「あら、なんでしょう?」
フローチェの言葉を遮ったのはミランダだった。
さすがの無作法さにちょっとフローチェはムッとするが、ミランダはそれに構うこと無く身体を前のめりにしながら言葉を続けた。
「わたくしの妹は、このお屋敷に身を寄せているとの情報も入っているんです!」
「……あらそう」
しらばっくれんなよ!と言いたげな義理の姉二人に対し、フローチェは今度もまた他人事感満載で雑な返事をするだけだった。
「お口に合えば嬉しいですけれど。さぁあ……どうぞ、飲んでくださいな」
そう言ってフローチェは客人がティーカップを持ち上げる前に、さっさとお茶を口に含む。
毒入りじゃないということをアピールしたいのか、それともサロンに通したけれどあんた達は客じゃないからと言外に訴えているのか......。
淑女然したフローチェの笑みは完璧すぎて、ベルにはわからない。
それはミランダとレネーナも同じ考えのようだ。二人は、かろうじて笑みを浮かべているがティーカップを持つ仕草は笑ってしまうほどぎこちなかった。
しかし、こんな朝っぱらから事前に伺いを立てずに乗り込んできただけあって、ミランダはお茶で喉を潤すと口火を切った。
「早速ですが、わたくし達、生き別れになった妹を探しているんです」
真剣な口調で切り出したミランダに、フローチェは目を丸くする。
「まぁ......生き別れの……妹ですか?」
ベルは自分の出自をフローチェに何一つ伝えてはいない。
しかし、女神はあの叩きつける雨の中、自ら馬に乗って刺客達を蹴散らしたくれたのだ。
危険を顧みず駆け付けてくれたということは、興味本位からではなく、おおよその事情を知っているからこその行動のはずだ。
それにその後も、事情を知っていなければ、あんなにノリノリにラルクの女装を手伝うわけがない。もしかしたらレンブラントから依頼を受けたのかもしれないが、それでも知っていることに変わりはない。
でも鏡越しに見る今のフローチェは、こちらの事情に一切関与していないといった態度を貫いている。
あまりに演技が上手すぎて、フローチェは何も知らないけれど、ノリと勢いでこの場を楽しんでいるんじゃないかとベルが疑うほどに。
もちろんフローチェは、此度の一件については全て知っている。軽く脅されたダミアンが、ペロッと吐いたからだ。
でも、ベルがそう思うくらいの演技力なので、義理の姉二人はまんまと騙されている。
そして胸くそ悪くなるような嘘を次々に吐いていく。
「……ええ。ある日突然居なくなってしまって。うっ、ううっ……さんざん手を尽くして探し続けたのですが、ずっと見つからず……うっ、うっ」
「もう一生妹と会えないのかと諦めかけた頃、こ、この町で……い、妹とよく似た容姿の娘を見かけたという情報が入りまして……」
もう何度も打ち合わせしたかのような阿吽の呼吸でミランダとレネーナは、遠回しにベルを探していることをフローチェに訴える。
時おり涙声になるその口調は、心から妹を案じているように聞こえなくもない。
ただフローチェは、世間話の一貫として耳にしているような表情で頬に手を当て口を開く。
「まぁ、それは何よりですわ。一日も早く妹さんが見つかると良いですわね。でも、わたくしは───」
「恐れながら、まだ続きがございまして」
「あら、なんでしょう?」
フローチェの言葉を遮ったのはミランダだった。
さすがの無作法さにちょっとフローチェはムッとするが、ミランダはそれに構うこと無く身体を前のめりにしながら言葉を続けた。
「わたくしの妹は、このお屋敷に身を寄せているとの情報も入っているんです!」
「……あらそう」
しらばっくれんなよ!と言いたげな義理の姉二人に対し、フローチェは今度もまた他人事感満載で雑な返事をするだけだった。
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