銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 夢を見ていた。城で暮らしていた頃の夢。幸せな夢ではない。食事に毒を盛られ、四方八方から矢が飛んでくる夢だ。それらのほとんどをラズールが回避してくれたが全てではない。ラズールがいない時に毒を口にしてしまい死にかけた。ラズールの結界をも突き破って矢が僕に届き死にかけた。
 今、身体がとても熱い。これは毒によるもの?あ…でも左肩がひどく痛いから矢が刺さったの?またラズールの堅固な守りをかいくぐって僕に刃が届いたの?今度こそ死ぬの?
 ああ、違う。そうだった。僕は城から出たんだ。城から出て始末される所をリアムに助けてもらった。リアムは僕を女だと勘違いして妻にするなんて言ってたけど。僕はもうすぐ死ぬだろうから諦めてくれるといいな。それに男だと知って落胆するリアムは見たくないから。リアム、動かなくなった僕の身体はその辺に置いていっていいからね。


「あつい…」
「大丈夫か?」

 あまりの暑さに目を覚ました。目を覚ますなりリアムが覗き込んできて少し驚いた。てっきり僕は死んだと思っていたから。

「…リア…ム?」
「そうだ、わかるか?おまえは肩の傷による発熱で三日間目が覚めなかった。だが出血は止まっているし質のいい化膿止めや熱冷ましの薬も飲ませた。心音も安定している。だからもう大丈夫だ」
「そう…ありがと。ねぇ、なんでそんな…顔、してる…の?」

 リアムが怒ったような困ったような不思議な顔をしている。どうしたのだろう。

「もう大丈夫だけど…この三日間は本当に危なかったんだ。目を覚まさなかったらどうしようかと思った。おまえは華奢すぎる。もう少し体力をつけた方がいいぞ…」
「目覚め…なければ…僕を置いて、先に…進めばいい…だけ…だよ」
「馬鹿が。そんなこと出来るわけないだろ。フィーは…」
「なに…?」
「いや。それにっ、何もするなって言ったのに無茶しやがって…っ」

 リアムが一瞬躊躇って、僕の怪我をしていない方の肩に顔を埋めた。
 頬に触れるリアムの柔らかい髪を右手で撫でながら、考えるよりも先に言葉が出た。

「何もしない…なんて、無理だよ…。僕だって…戦える。大切な人を…守りた…い」

 リアムが勢いよく顔を上げて、真剣な表情で僕を見つめる。
 僕は何を言ってるんだろうと慌てて背けた顔を元に戻される。そして端正な顔が近づき唇を塞がれた。優しく食まれ舌先で突かれる。そっと開けた唇の隙間から舌が挿し込まれ、僕の舌に触れた。

「んんっ…」

 や…おかしい。触れ合う舌も唇も、頭の中も、リアムに触れられている頬も密着している身体も全てが痺れている。この世にこんなに気持ちがいいことがあるなんて。でもどうしてこんな気持ちになるんだろう。わからない。全然わからないよ…。
 僕は初めての感情に戸惑って涙が溢れるのを止められなかった。
 僕の涙に気づいたリアムが慌てて顔を離す。唇が離れてしまうのが何だか名残惜しくて僕は思わず手を伸ばした。でもその手は握られることはなく空をかいて落ちた。

「もう…休め。まだ熱が引いてない」
「うん…」

 リアムが僕の隣に寝転び背中を向ける。
 僕は広い背中を見て胸が苦しくなった。
リアムが変だ。優しいけど素っ気ない。僕に触れたけどそれは何かを探っているように感じた。
 僕が三日間眠っている間に何があった?僕を好きだという気持ちが間違いだと気づいたの?
 知らず知らずに右手で左肩の傷に触れた。そして気づく。
 そうか。リアムは僕の手当をしてくれた。その時にわかったんだ。僕が男だということが。
 出会った時に、男だと助けなかったとはっきり言われた。男だと知られた僕はもう、リアムには必要ないのだろう。だってこんなにもはっきりと態度で拒絶されているじゃないか。
 ごめんリアム。今まで黙ってて。
 動けるようになったらリアムから離れよう。リアムの傍は心地よくて離れるのは寂しいけど仕方がない。それに嫌われることには慣れている。
 ただ男だとわかっても捨て置かないで手当をしてくれたリアムは、本当に優しいと思う。そのことは感謝しなきゃ。

「リアム、手当…して…くれて…ありがとう」

リアムの背中にそっと囁いて、僕も背中を向けた。

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