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慌てて滝を見て山を降りたけど、結局その日はデネスに泊まった。そして翌朝早くに出発して日が落ちる頃にバイロン国に入った。
入国した時とは別の場所で国境を越え、近くの街で一泊する。そして翌早朝に宿を出て王都に向けて進み始める。
いよいよリアムの城に向かうのかと思うとドキドキする。僕はゆっくりと進むロロに揺られながらリアムの横顔を見た。
「リアム、ここから王都までどれくらいかかるの?」
「三日…いや五日かな」
「なんでそんな曖昧なの…」
「俺は早く帰りたい。だが帰る前にどうしてもフィーに見せたい場所がある」
「僕…ずっとこの国で、リアムの傍で生きてくと決めてるよ。だからいつでも行…」
僕は途中で言葉を止めた。
本当にいつでも行ける?デネス大国から感じていた胸の痛み。バイロン国に戻ってきた今も時々刺すような痛みがある。しかも痛みの感覚が狭くなってきている。もしかして何かの病かもしれない。長くは生きられない病かもしれない。だから不確かなことは口にできない。
「そうだな」と微笑んで、リアムが手を伸ばして僕の頬を撫でる。
「これからはいつでも行ける。でもフィーを娶る前に連れて行きたい。ダメか?」
「だっ、だめじゃないよ!きっとリアムの大好きな場所なんでしょ?そこへ僕を連れて行きたいって思ってくれたの、嬉しい…」
「ふっ、正直言うとな、そこへ誰かを連れて行くのはフィーが初めてだ」
「えっ!ほんとに?」
「ああ」
「リアム…」
僕はリアムの手を掴んで頬に擦り寄せ掌にキスをする。
「すごく嬉しい。リアムは僕と出会う以前にも恋人とかいたでしょ?なのに僕が初めて…?」
「おい、勘違いするな。恋人もフィーが初めてたぞ」
「え?あの…女の人と、あの…」
「あー…怒るなよ?遊んだ女はいた。だが好きだったわけではない」
「遊んだ…」
「自分で言うのもあれだが、黙っていても女が寄ってくる。その時にな…」
僕はリアムを見つめたまま脱力する。僕の手からリアムの手が落ち、手綱を持つ手も緩んでロロの足が止まった。
あれ?どうして僕は落ち込んでいるの?今の話は僕と出会う前の話だし。綺麗で王子のリアムの周りに女の人が集まってくるのは当然だよ。それに今は僕を好きだと言ってくれる。充分じゃないか。だから早くなにか言え。リアムに気を使わせちゃだめだ。
「フィー」
「…あ、大丈夫…だよ。リアムはかっこいい…から…人気あったんだね」
「フィー、嫌なら嫌だって言っていいんだ。俺の前では隠し事はなしだろ」
「う…でも…っ」
「嫌だったのか?」
「…うん…嫌な気持ちになった…。僕と出会う前の話なのに…ごめんね。でも…どうしてこんな気持ちになるの」
「そうか。おいで」
リアムが馬を寄せて両手を広げる。
僕が両手を伸ばすと、両脇を抱えられてリアムの前に座らされた。
「それは…嫉妬だな」
リアムが僕を抱きしめて額にキスをしながら言う。
僕はくすぐったくて肩を揺らし、美しい紫の瞳を見上げた。
「嫉妬…」
「俺のことを好きで独占したいから嫌だと思ったんだな。例えばさ、あのおまえを助けた少年…あいつに恋人がいたって聞いたらどうだ?」
「え…ノアに?よかったねって思う」
「だろ?俺もフィーがラズール?とかいう奴の話をしたら嫌な気持ちになる」
「ラズール?彼は僕の家来だよ?」
「でもずっとフィーの傍にいたんだよな。それにフィーはそいつのことを話す時、柔らかい表情になるからさ…」
「そうなの?よくわからないけど…信頼できる人がラズールしかいなかったからかなぁ」
「ぐ…」
いきなり変な唸り声が聞こえた。
僕が首を傾げると、リアムが更に強く抱きしめてくる。
僕は両手でリアムの頬を挟み、強く引き寄せて背伸びをすると唇を押し当てた。
入国した時とは別の場所で国境を越え、近くの街で一泊する。そして翌早朝に宿を出て王都に向けて進み始める。
いよいよリアムの城に向かうのかと思うとドキドキする。僕はゆっくりと進むロロに揺られながらリアムの横顔を見た。
「リアム、ここから王都までどれくらいかかるの?」
「三日…いや五日かな」
「なんでそんな曖昧なの…」
「俺は早く帰りたい。だが帰る前にどうしてもフィーに見せたい場所がある」
「僕…ずっとこの国で、リアムの傍で生きてくと決めてるよ。だからいつでも行…」
僕は途中で言葉を止めた。
本当にいつでも行ける?デネス大国から感じていた胸の痛み。バイロン国に戻ってきた今も時々刺すような痛みがある。しかも痛みの感覚が狭くなってきている。もしかして何かの病かもしれない。長くは生きられない病かもしれない。だから不確かなことは口にできない。
「そうだな」と微笑んで、リアムが手を伸ばして僕の頬を撫でる。
「これからはいつでも行ける。でもフィーを娶る前に連れて行きたい。ダメか?」
「だっ、だめじゃないよ!きっとリアムの大好きな場所なんでしょ?そこへ僕を連れて行きたいって思ってくれたの、嬉しい…」
「ふっ、正直言うとな、そこへ誰かを連れて行くのはフィーが初めてだ」
「えっ!ほんとに?」
「ああ」
「リアム…」
僕はリアムの手を掴んで頬に擦り寄せ掌にキスをする。
「すごく嬉しい。リアムは僕と出会う以前にも恋人とかいたでしょ?なのに僕が初めて…?」
「おい、勘違いするな。恋人もフィーが初めてたぞ」
「え?あの…女の人と、あの…」
「あー…怒るなよ?遊んだ女はいた。だが好きだったわけではない」
「遊んだ…」
「自分で言うのもあれだが、黙っていても女が寄ってくる。その時にな…」
僕はリアムを見つめたまま脱力する。僕の手からリアムの手が落ち、手綱を持つ手も緩んでロロの足が止まった。
あれ?どうして僕は落ち込んでいるの?今の話は僕と出会う前の話だし。綺麗で王子のリアムの周りに女の人が集まってくるのは当然だよ。それに今は僕を好きだと言ってくれる。充分じゃないか。だから早くなにか言え。リアムに気を使わせちゃだめだ。
「フィー」
「…あ、大丈夫…だよ。リアムはかっこいい…から…人気あったんだね」
「フィー、嫌なら嫌だって言っていいんだ。俺の前では隠し事はなしだろ」
「う…でも…っ」
「嫌だったのか?」
「…うん…嫌な気持ちになった…。僕と出会う前の話なのに…ごめんね。でも…どうしてこんな気持ちになるの」
「そうか。おいで」
リアムが馬を寄せて両手を広げる。
僕が両手を伸ばすと、両脇を抱えられてリアムの前に座らされた。
「それは…嫉妬だな」
リアムが僕を抱きしめて額にキスをしながら言う。
僕はくすぐったくて肩を揺らし、美しい紫の瞳を見上げた。
「嫉妬…」
「俺のことを好きで独占したいから嫌だと思ったんだな。例えばさ、あのおまえを助けた少年…あいつに恋人がいたって聞いたらどうだ?」
「え…ノアに?よかったねって思う」
「だろ?俺もフィーがラズール?とかいう奴の話をしたら嫌な気持ちになる」
「ラズール?彼は僕の家来だよ?」
「でもずっとフィーの傍にいたんだよな。それにフィーはそいつのことを話す時、柔らかい表情になるからさ…」
「そうなの?よくわからないけど…信頼できる人がラズールしかいなかったからかなぁ」
「ぐ…」
いきなり変な唸り声が聞こえた。
僕が首を傾げると、リアムが更に強く抱きしめてくる。
僕は両手でリアムの頬を挟み、強く引き寄せて背伸びをすると唇を押し当てた。
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