銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 誰かが僕を呼んでいる。低く耳に心地よい声。リアム?…いや、僕はリアムから離れたんだ。ここにいる訳ない。ではこの声は…ラズールだ。
 僕はまだ閉じそうになる瞼をなんとか上げて、目を擦りながらベッドから降りる。ブーツを履かずに裸足のままで扉に行き鍵を開けた。

「フィル様、入ってもよろしいですか?」
「いいよ…」
「失礼します」

 ゆっくりと扉を開けて入って来たのは、ラズールだった。手に大きなカゴを持っている。
 ラズールはカゴを机に置くと、僕を見てクスリと笑った。

「なに?」
「寝ていたのですか?目がトロンとしてる…。それに寝癖が」

 ラズールが手を伸ばして僕の髪を撫でつける。熱心に僕の髪を撫でるラズールを見上げて、僕は首を傾げた。

「なんですか?」
「ん…なにかあった?大宰相に怒られたの?」
「怒られてませんよ。きちんと説明しましたので」
「でも…元気がない」
「そんな風に見えますか?」
「うん…。あ、姉上のこと?僕の世話はいいから姉上の傍にいてあげ…」
「構いません。俺はフィル様の傍にいたいのです」
「でもっ」
「フェリ様の傍には医師と侍女がついてますから」
「いいの…?」
「はい」

 しゅん…と項垂れた僕のつむじに、ラズールが唇で触れた。

「フィル様、食事を持ってきました。こちらに戻って来てから、まだ何も口にしてなかったでしょう」
「そんなに空いてない。それに今さら食べたって…」 
「まだどうするかは何も決まってないのです。だから自分を殺せなどとふざけたことは、もう仰らないでください。わかりましたか?」
「…うん」

 僕に触れる手は優しいのに、吐き出す言葉は冷たい。僕を殺せと言ったこと以外にも、なにか気に入らないことがあるのかな。

「ねぇラズール、他にもなにか怒ってる…?」
「…そうですね。俺が勝手に気にくわないだけですから、気にならさないでください」
「僕に関してのことだろ?もしかしてトラビスからなにか聞いた?話してよ。おまえに僕のことでそんな顔して欲しくない」

 明日には死ぬかもしれないのに、ラズールに嫌われたままは悲しい。 
 そんなつもりはなかったのだけど、顔を上げた僕の目には涙が浮かんでいたようだ。
 僕の情けない顔を見て、ようやくラズールの怖い顔が緩み、困ったように笑った。

「そのような顔をしないで…。申し訳ありません。本当に俺の勝手な想いなのですよ。食事の後で話しますから、先に食べてください」
「わかった…」

 僕は机の前の椅子に座る。
 ラズールがカゴから料理を取り出して、僕の前に並べる。料理は、僕の好物ばかりだった。疲れていたし寝起きであまり食欲はなかったけれど、ラズールに見守られながら、僕は並べられた料理の半分を食べた。

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