銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 王命だとしても俺は従いたくない。俺の主はフィル様だけと決めている。
 膝をついている俺は、椅子に座る王を見上げた。

「…俺はその命令に従えません。言うことを聞かない臣下などいらないでしょうから捨ててください」
「おまえは優秀だ。捨てるのは惜しい。フェリの側近になるのは嫌か?次期王なのだぞ?」

 王命に逆らったというのに、王に怒った様子は見られない。それならばと調子に乗って言ってしまったことを、俺はこの後ひどく後悔することになる。

「フェリ様は、俺などいなくても素晴らしい王になられるでしょう。俺は城を出てしばらく旅をしたいのです。許可をいただけませんか?」

 王は黙り込んだ。しばらく無言で俺を見つめたかと思うと、その美しい顔にゾッとするような妖しい笑みを浮かべた。

「ラズール、おまえの考えていることはわかっている。フィルを捜しに行きたいのだろう?あの子はすでに死んでいるかもしれぬ。それでも捜しに行くのか?」
「死んではいません。生きていると信じてます」
「なぜそう言いきれる?いいことを教えてやろう。つき従わせた兵にフィルを殺すよう命じた。今頃はどこかに遺体が転がっている」
「そのようなことにはなっておりません」
「あの子一人で何ができようか。多少腕がたつようだが三人の兵には適わぬ。おまえはなぜ、あのような呪われた子に執着するのか」
「フィル様は呪われた子ではありません。とても素晴らしい方です。もしもこの国を継ぐのが女だと決まってなければ、あの方こそが王に相応しい」
「ラズール!無礼だぞっ」

 横から鋭い声が飛んできた。
 チラリとそちらに視線を向けると、大宰相が真っ赤な顔をして怒っている。
 俺は冷めた目つきで大宰相を見る。
 ふん、無礼だと?俺が崇めるのはフィル様だけだ。フィル様をないがしろにする者は誰であろうと許さない。それにフィル様がいないのなら、この国の行く先など知るか。
 俺は「口が過ぎました」と心にもないことを言いつつ頭を下げた。
 王は鼻で笑うと、冷たい声で言い放つ。

「のうラズール、私はあの子を自由にはさせぬ。こたびは逃げおおせたとしても、必ず追いかけて始末する。そうしなければならないのだ。それが呪われた子の運命…」
「俺がさせません」
「…おまえは頑固だな。そうまで言うなら取引をしようではないか。おまえがフェリに付くなら、フィルを追いかけることをやめてもよい」

 俺の肩がピクリと揺れる。
 フィル様を殺さない?フィル様を自由に…。俺が傍についているなら必ず守ってやれる。しかし今は守りたくても守れない状況だ。王がこれ以上フィル様を追いかけて殺さないと言うなら、しばらくは大人しくフェリ様の傍にいてやってもいいか。そのうち隙を見て城を抜け出し、フィル様を捜そう。
 俺は瞬き一つする間にこれらのことを考え、「かしこまりました」と頭を下げた。
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