銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「伯父上、まだ地方の領主にまでは報せがいってな…」
「リアム様、よろしいですか?」

 俺が口を開いたと同時に、扉を叩く音と声がした。
 緊張で固まっていた身体の力が一気に抜けてしまい、俺は椅子の背にもたれて「入れ」と言う。

「失礼します」
 
 声の後に扉が開き、ゼノともう一人の男が入ってきた。

「ジルじゃないか。久しぶりだな」
「リアム様、お元気そうでなによりです。旅をされていたそうですね。ぜひ旅先の話を聞かせて頂きたい」
「いいぞ。酒を飲みながらいつでも話してやる」
「よろしいですね」

 俺の前に来て、片膝をつきながら目を細めるこの男は、ジルという。伯父上の忠実な部下だ。
 ゼノと歳が同じで賢くて腕が立つ。俺の側近に欲しいくらいだが、伯父上を主として慕っている。伯父上のためなら、命を差し出すことも厭わないそうだ。
 その話を聞いた時に隣にいたゼノを見ると「もちろん俺もリアム様のためなら火の中水の中も飛び込みますし、身体をはってお守りしますよ」と笑いながら言っていた。
 もしも俺が危険な目にあったら、ゼノは本当に命を賭けて守ってくれるだろう。主従というよりは友のような関係のゼノだが、俺のことを第一に考えてくれている。
 それはあいつも同じか。フィーの側近のラズール。だがあいつの気持ちは主従の枠を越えている。まさかフィーに何かをするとは思えないが、心配だ。

「リアム、疲れてるのじゃないか。話は後にして休んだらどうだ?」

 またもや考えごとをして動かなくなった俺を、伯父上が心配そうに見ている。
 ジルも「そうですね」と頷いて、立ち上がろうとする。
 俺は慌てて「大丈夫だ!」と大きな声を出して止めた。

「ところでゼノとジル、何か用があったのじゃないか?」

 ゼノがチラリと伯父上を見て、口を開く。

「はい。ジルと少し遠出をしたいのですが。ラシェット様、よろしいでしょうか?」
「いいぞ。どこへでも好きな所へ行ってきなさい」
「ありがとうございます」
「待て。遠出をするなら俺も行きたい」

 俺は急いで立ち上がり、棚の中にかけてあるマントを取りに行こうとした。
 しかしゼノが俺の前に立ち塞がり邪魔をする。

「リアム様は、ここでラシェット様と待っていてください」
「なぜだ」
「遊びに行くのではないのですよ。少し気になる話を聞いたものですから…。これは調査です。帰ってきたらお話します」
「なおさら気になる。俺も行きたい」
「おや、まるで駄々っ子のようですね。そのような姿をあの方に見られ…」
「わっ、わかった!待ってるから早く行け!」
「ふふ、それでは行ってまいります。リアム様はラシェット様に話さなければならないことがありますよね?」
「わかってる…」

 ゼノには俺の心の中が全てお見通しだ。
「明日の昼には戻ってきます」と言って、ゼノとジルは出ていった。
 俺は再び伯父上の隣に腰を下ろしてブツブツと言う。

「朝になってから行けばいいのに」
「夜の方が移動が目立たんからな。リアム、そろそろ食事にしよう。その後で、先ほどのイヴァル帝国の話を聞かせてくれんか?それに他にも話があるようだな」
「…うん、わかったよ」

 ゼノも話した方がいいと思っている。
 俺が頷くのを見て、伯父上は目を細めた。
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