銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールが心底悔しそうに声を絞り出して言う。
 僕は黙って目を伏せた。
 そんな話は、リアムは知らないと思う。ずっと旅をしていたんだから。
 しかしラズールは、どうしてそんなにもリアムを嫌うのだろう。僕の愛する人のことを、僕が信頼するラズールには認めてほしいのに。
 
「どうかされましたか?」
「…いや、今回の調査によっては、イヴァル帝国とバイロン国の関係が悪くなるかな…」
「なるでしょうね」

 僕は更に顔を伏せる。
 本当にイヴァル帝国の民が盗んでいたのなら、どうすればいい?犯人を捕まえて差し出せば、許してもらえる?
 いや、そもそも我が国の民がやったとは信じられない。きっとその話は間違いだ。
 僕は腹に力を入れて立ち上がると「早く行こう」とラズールの方を見ずに言った。


 途中で三組に別れた。僕とラズール、騎士が三人と二人だ。
 僕とラズールは村長の家へ、三人と二人はそれぞれ村人の家を探ることになった。
 僕以外の五人には、その他にも命じられたことがあるようだ。ラズールが僕から離れて五人の所へ行き、コソコソと何かを話していたから。
 バイロン国が関わることだし僕に気を使っているのかな、と大して気にもしなかった。
 五人と別れ、四半刻もしないうちに広い敷地の立派な家に着いた。どうやらここが村長の家らしい。
 門をくぐる前に「これを」とラズールが僕の顔に何かをくくりつけた。

「えっ、なに?」
「潜入する時につける面です。俺のは黒ですが、あなたのは銀の面です。あなたの顔が見れないのは残念ですが、相手国の者に顔を知られるわけにもいきませんので」
「面…」

 僕は自分の顔を触った。口元はストールで隠され、目と鼻が硬いもので覆われている。
 顔を上げてラズールを見る。黒い面をつけたラズールの姿は、怪しい以外の何者でもない。

「すっごく怪しいよ…」
「そうですか?俺はこの面を結構気に入ってるのですが」
「まあ…似合ってもいるけど」
「ありがとうございます。無駄話はここまで。今から村長を呼び出します。かなり強引に話を進めますが、黙って見ていてください。あなたが嫌がることをするかもしれませんが、我慢していてください。俺に任せてくれますか?」
「…わかった」

 少し不安に思いながら頷く。
 何をしようというのか。
 ラズールは、僕が何かをされたら、襲ってきた者を容赦なく傷つける。しかしか弱い村人を、意味もなく傷つけたりはしない。
 だから僕は、邪魔をしないようにラズールの後ろに控えていよう。
 ラズールが門をくぐって敷地を横切り玄関の前で止まる。そして黒い手袋をはめると、力強く扉を叩いた。


 
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