銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ゼノの話を思い返しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた僕の目に、バイロン国の旗が映った。バイロン国軍が戻ってきたのだ。旗の隣で馬に乗る人物を見て、心臓が激しく鳴り始める。

「リアム…」

 僕は声に出さずに口の中で呟く。
 しかしその声が聞こえたかのように、リアムがいきなり顔を上げて、二階のこちら側を見上げた。
 一瞬目が合い、慌てて壁に隠れる。

「どうかされ…」
「しっ!」

 僕を見て口を開きかけたトラビス向かって、人差し指を口に当てて黙らせる。
 トラビスは足音を立てずに窓に近づいた。外からは見えない位置でそっと覗く。そして僕を見て、納得したように頷いた。
 しばらく無言で、外の騒めきがおさまるのを待つ。今後の予定などを話しているのか。二人で壁に張りついていると、飲み物を手にゼノが戻ってきた。
 部屋に入るなり、壁に張りついて動かない僕とトラビスを見て首を傾ける。

「なにをしているのですか?」

 トラビスが壁から離れ、再び外を覗いて「もう大丈夫ですよ」と僕に言う。
 僕もようやく壁から離れて外を見た。
 リアムはもう、こちらを見てはいなかった。僕に背を向け、騎士達に指示を出しているようだ。
 ゼノが僕の横に来て、外を見て「ああ」と納得した。

「もう軍が着いたのですね。思っていたよりも早かった。先に食事を頼んでおいてよかったです。すぐに持ってきてくれるそうです」
「…ありがとう。それとゼノごめん。リアムに姿を見られたかもしれない」
「あの方は何ごとにも敏感ですからね。気配を感じたのでしょう。でもフィル様は、今はバイロン国民によく見られる茶色の髪をしてますから、心配はいらないのでは?」
「でも、ここはゼノの部屋だろ?なのに見覚えのない人物がいたら不審に思われないかな…」
「ふむ…。不審には思わなくとも、フィル様の顔を見たなら興味を持ったかもしれませんね。リアム様は二度もフィル様に求婚なさったようですので」
「はあ?二度もとはどういうことだっ!」

 突然トラビスが大きな声を出した。
 僕は肩を揺らして驚き、トラビスの口を慌てて塞ぐ。

「声が大きい。外に聞こえたらどうするのっ」
「しかしっ」
「後で話すから。ちょっと黙って!」
「…かしこまりました」

 トラビスが口から僕の手を離して渋々頷く。
 トラビスは感情的だから、ラズールよりうるさくて面倒だと最近になってわかってきた。それに改心したように見えたけど、やはり僕のことをまだ嫌いなんじゃないかとも思えてくる。

「あっ」
「なにか?」

 トラビスを睨んでいると、トラビスの背後の窓から鷹が見えた。
 僕の目線を追ったゼノも「ああ」と頷く。

「トラビス、レナードからの返事が届いたようだよ」

 トラビスも窓の外を見る。そして鷹に気づき「受け取ってきます」と部屋を出て行った。
 ようやく静かになったと息を吐き、僕はゼノに話の続きを促した。

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