銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
228 / 451

27

しおりを挟む
 嘘だ…トラビスは咄嗟に力を緩めたと話していた。だから傷は浅いはずだと。でも…血がたくさん流れていた。血が流れすぎたの?傷から炎症を起こしたの?治癒が遅れたの?
 ぐるぐると考えてもわからない。ゼノのことは大好きだったのに。バイロン国で僕とリアムのことをわかってくれる、唯一の人だったのに。ごめんなさい…僕のせいだ。ゼノ、ごめんなさい。

「今ここで!ゼノの仇を打ってもいいのですよっ」

 ジルの叫びにハッと顔を上げた。
 ジルが剣を振り上げて、僕を斬ろうとしている。
「やめろっ」とリアムが叫ぶと同時に、僕は左手をジルに突き出した。

「うわあっ!」

 僕の左手から白い光が出てジルの身体に当たる。ジルの身体は大きく飛び、後方の木にぶつかった。白い光はジルの全身を包み、木に縛りつける。

「フィルっ、なにをした!」
「…彼は邪魔だ。僕とリアムが勝負をしていたのに。だから少しの間、あそこで見ていてもらいます」
「しかし…っ」
「ああでも。早く決着をつけないと、彼が窒息してしまう。だからね…リアム、本気で僕を殺しにきて」
「俺は…おまえを愛してる。なのにゼノが死に、次はこのようなことを…。俺はどうすれば…」

 リアムが僕を憎み始めている。それでいい。辛いけど、それでいい。
 僕はふと、ノアのことを思い出した。ノアの家に泊めてもらった時のことを。
 ノアはリコと二人暮らしだったけど、とても幸せそうだった。
 国とか背負わないで、あのような家でリアムと二人で暮らせたら、どんなに幸せだろうか。もう叶わない夢だけど、約束通りにリアムが迎えに来てくれた時に、小さな家で二人で暮らしたいと話すつもりだった。
 ノアにも会いたい。たった一人の友達だったノア。僕のことを忘れないでくれたら嬉しい。

「くそ…これを解け…」
「喋ると余計に苦しくなるよ」
「おま、え…ラズール…という者、を…知ってるか…?」
「ラズールがなに?どうしてあなたがその名を知ってるの?」
「クルト…王子…から、聞いた…。病で…死ん…だ、らしいぞ…」
「うそだっ!薬を送ったから死んではいない!うそを言うなっ」
「ぐっ…!」

 僕は左手に更に力を込めた。
 ジルの口から泡が出てきた。
 ブツブツと呟いていたリアムが顔を上げてジルを見て、叫びながら僕に突進してきた。

「やめろっ!」

 一瞬のことだった。
 僕はよけることもできなかった。
 リアムが剣を振り下ろした直後に、僕の左手がボトリと地面に落ちた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【オメガバース】

BL / 連載中 24h.ポイント:1,825pt お気に入り:24

暴君に相応しい三番目の妃

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,325pt お気に入り:2,533

転生と未来の悪役

BL / 連載中 24h.ポイント:1,321pt お気に入り:575

翡翠の魔法師と小鳥の願い

BL / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:277

【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

BL / 完結 24h.ポイント:951pt お気に入り:4,768

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,955

重なる月

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:435

【本編完結】異世界まったり逃避行

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,014

処理中です...