銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 フィル様が赤い顔をして苦しんでいる。医師が鎮痛剤を飲ませたと言っていたが、傷口が痛いのだろうか。熱で頭が痛いのだろうか。

「フィル様…俺が傍にいなかったために…。申しわけありません」

 握りしめているフィル様の右手にキスをして、謝罪の言葉を口にする。
 トラビスがフィル様の額に手を当てて「おまえは仕方がなかった」と言った。

「フィル様を庇った時に受けた傷で、おまえこそ死にかけていたのだから。追手に…ネロに追いつかれた時に、フィル様に先に行ってもらうのではなく、待っていてもらえばよかった。とにかく追手から離れてもらうことしか考えていなかった。この事態は俺のせいでもある」
「…おまえの罪はフィル様に直接裁いてもらえ。ところで何をしている」
「魔法で冷やしてるんだよ。ほら、少し汗が引いてきてるだろ?」
「ああ…」 
「フィル様はお顔が小さいな。身体も歳の割には小柄で。なのに無茶をなさる…」
「この方は、ご自分を大切にされない。呪われたいらない子だからと、常々おっしゃられていたからな」
「我が国の、王族の悪しき慣習か。しかし呪われた子の証だという痣は、フィル様を守っているではないか」

 トラビスの言葉に、俺は顔を上げた。
 そうだった。俺やフィル様自身が剣を突き立てても傷がつかなかったのに、なぜ腕が斬れた?

「トラビス、そのことだが、蔦のような痣がフィル様の身体を守っていたのに、なぜ第二王子に腕を斬り落とされたのか。おまえはどう思う?」
「あっ…」

 トラビスは、今気づいたというように声を上げて驚いた顔をする。

「そういえばそうだ…。おまえやフィル様自身でさえ傷をつけられなかったのに。もしや、痣になんの効力も無くなったか?」
「なるほど…」

 トラビスの言うことも一理ある。もしそうなら、呪われた子という呪いが解けかけているのではないかと俺は思う。それはそれで喜ばしいが、フィル様の身体に傷がつくことは耐えられない。

「フィル様、失礼を」

 トラビスがいきなり剣を掴んでフィル様のシャツをはだけさせた。
 俺は慌ててトラビスの腕を引く。

「何をしている!」
「確かめるんだよ。痣の効力があるのか無いのか」
「それでフィル様の身体に傷がついたらどうするつもりだ!」
「ほんの少しの傷だ。すぐに治癒する」
「ダメだ。許さない。誰であっても、フィル様の身体に傷をつける者は許さない」

 俺はトラビスを睨みつけた。
 そうだ、こいつは元々フィル様を憎んでいた。最近になってフィル様に忠実になっていたから、油断していた。
 トラビスの腕に爪を食い込ませながら聞く。

「おまえは今も、フィル様が憎いのだな?」
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