銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 少し話して疲れたらしく、フィル様がまた眠りについた。
 俺とトラビス、ネロは静かに部屋を出て、トラビスの部屋に近い小さな部屋へと移動する。小さいが家具も揃い、日当たりがよく明るい。
 先頭に立って歩くトラビスの後を黙ってついてきたが、どうやらこの部屋をネロにあてがうつもりらしい。
 トラビスがネロを振り返り聞く。

「ネロ、この部屋をどう思う?」
「どうって…快適そうでいいんじゃない?ちょっと狭いけど」
「そうか。今からここがおまえの部屋だ。自由に使うといい」
「へぇ、いいのか?俺を自由にして」
 
 いい訳ないだろうと内心で思ったが、フィル様を目覚めさせたのだ。冒した罪には罰を、功績には対価を与えねばならない。
 トラビスが笑いながら頷く。先ほどからネロに対する態度が柔らかい。どのような心境の変化があったものか。聞きたくもないが。

「いいぞ。ただし部屋の中だけだ。もしもいらぬことをしようものなら、俺がすぐに駆けつける。俺の部屋は近くにあるからな」
「なんだ…見張りつきか」
「当然だ」
「…俺はもう、フィルには何もしないよ。バイロン国の第一王子と組んで、この国を陥れようとしたのも、フィルを狙ったのも、八つ当たりみたいなものだしさ…」

 部屋を見回していたネロが、俺を見てくる。
 俺は早くフィル様の部屋に戻りたいと思いながら「なんだ?」と聞く。

「あんた…悪かったな。第一王子の配下の者が射た毒矢で死にかけたんだろ?毒矢の案を出したのは俺なんだ」
「ふん、フィル様に当たっていたら殺すところだが、そうではなかったからもういい」
「ほんと…あんたは王様のことしか頭にないんだねぇ。だけどそんなに大切な王様に、何をしたの?」
「なんのことだ」

 俺はフイ…と顔をそむける。
 そむけた視線の先にトラビスがいて「ラズール、正直に言え」と近づいてきた。
 
「だからなんのことだ」
「ラズール!どう見てもフィル様の様子がおかしかっただろうがっ。フィル様はリアム王子のことを悪く言わない。ましてや庇いこそすれ許さないなどと言うはずがない!」
「本心で許さないと思ったのでは?」
「ラズールさん」

 ネロが頭からかぶっていた布を取り、ベッドに置く。そして俺を挟むようにトラビスの反対側に立った。

「俺は秘密を全て話したよ。フィルと俺が少しでも関係があるなら、協力してもいいと思い始めてる。だからさ、あんたも本当のことを言ってよ」

 俺はネロを見つめて思う。こいつのことは信用ならない。王城に潜入し周りの者を騙したのだ。今さら気が変わった嘘はつかないと言われたところで、トラビスみたいに心を許せるわけがない。
 だが…と俺はネロの全身を眺めた。牢屋で聞いた話は真実だと思う。この先利用価値があるかもしれない。ならば俺も、少しは信じさせるか。
 俺は窓辺に行きフィル様の部屋がある方角を見ながら言う。

「俺は、フィル様に第二王子を憎むよう、暗示をかけた」
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