銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
256 / 451

4

しおりを挟む
「フィル様?」

 ラズールの声に、ハッと顔を上げる。僕は一度深呼吸をして「大丈夫、続けて」とレナードを促した。
 レナードが頷き「移動しながら話します」と僕の隣に来る。
 僕はラズールとレナードに挟まれながら歩き出した。

「バイロン国に動きがありました。イヴァル帝国との国境に、軍隊が集まってます」
「どれくらいの?」
「前回の二倍です。しかしバイロン国は、北にデネス大国、西にトルーキル国に挟まれてますから、大軍は動かせません」
「僕達に全軍で構ってたら、他の国に攻め入られるからね」
「はい。ですが二倍の数でも油断できません。我が国も北にデネス大国、東にカサル国があります。バイロン国に大軍を割けません」
「そうか…。しかしどうして三ヶ月もの間、何もしてこなかったんだろう?」
「それは…」

 レナードが言いかけて口をつぐむ。
 不思議に思いながらレナードを見てラズールを見ると、ラズールがレナードをきつく睨んでいた。

「なに?王である僕に隠しごと?」
「いえ…。ラズール、話すぞ」
「ダメだ」
「ラズール、どういうこと?」
「…話す必要もないかと思いまして」
「それは僕が判断する。レナード続けて」
「はい」

 レナードが一度、頭を下げる。
 ラズールも目を伏せて、僕から目を逸らせた。しかし握りしめた左手は離してくれない。

「バイロン国に潜入させている者からの連絡によりますと、フィル様が戻られてすぐに、 第一王子が軍を出そうとしていたようです」
「うん」
「それを第二王子が必死で止めていたと、報告を受けています」
「第二王子が?どうして?」
「…わかりません」
「僕の腕を斬り落としたこと、悪いと思ったの?まさかね。あ、そうか。すぐに攻め入るには準備が足りない。だから三ヶ月かけてたっぷりと準備をするために止めたんだ」
「フィル様…」
「なに?」
「いえ…なんでもありません」

 レナードが悲しそうな目で僕を見てくる。
 レナードだけじゃない。バイロン国から戻って来てから、トラビスやネロも、たまに悲しそうな目で僕を見るんだ。どうしてそんな目をするのか、理由がわからない。ラズールに聞いても「気のせいですよ」としか言わないし。
 その目で見られると、僕の胸が騒いで落ち着かなくなる。
 僕は腹に力を入れて前を向く。

「向こうが軍を出したなら、こちらも出す。すぐに出陣だ。大宰相と大臣達は集まっているの?」
「はい。会議の間に集まっています」
「トラビスは?」
「呼びに行かせてます」
「わかった。使用人に僕の出陣道具を準備しておくように言っておいて」
「「ダメです!」」

 ラズールとレナードが同時に叫ぶ。
 僕はラズールに握られていた手を離すと、二人と向き合うように立った。

 
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【オメガバース】

BL / 連載中 24h.ポイント:1,818pt お気に入り:24

暴君に相応しい三番目の妃

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,410pt お気に入り:2,533

転生と未来の悪役

BL / 連載中 24h.ポイント:1,328pt お気に入り:575

翡翠の魔法師と小鳥の願い

BL / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:277

【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

BL / 完結 24h.ポイント:1,272pt お気に入り:4,768

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,955

重なる月

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:435

【本編完結】異世界まったり逃避行

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,014

処理中です...