銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 その時静かな部屋に、一瞬フィーの声が聞こえた。
 俺とラズールは身を乗り出して、フィーの顔を覗き込む。
 フィーの長いまつ毛が、少し震えている。

「フィー!がんばれ!目を覚ませ!」
「フィル様!」

 俺は我慢できずにフィーの手を握った。
 指先が驚くほど冷たくて、せめて暖める魔法をかけようとして、再びラズールに腕を強く掴まれフィーの手から引き剥がされた。

「リアム様っ、バカなのですかっ!今フィル様の身体に魔法を使ったら、前王のかけた魔法と反発し合ってフィル様の身体が砕けてしまいます!そう習わなかったのですかっ」
「…悪い」

 俺は手を固く握りしめて唇を噛んだ。
 そうだった。強い魔法をかけられているモノに、違う魔法をかけると、魔法同士が強く反発して壊れてしまうのだった。魔法を習い始めて一番に覚えることを、フィーを早く助けたいあまりに失念していた。
 俺は、フィーがいないとこんなにも情けなくなる。フィーがいないと何もできない。だからフィー、早く目を覚ましてくれ。美しい緑の瞳に俺を映して、かわいらしい唇で俺の名を呼んでくれ。

「は…はう、え…」
「フィー?」

 フィーが、はっきりと言葉を口にした。
 まだゆっくりとだが、胸も上下し始めている。
 よかった…心臓が動き出した…よかった!
「フィル様」と呟くラズールの声が震えている。よく見ると、身体の横で固く握りしめた手も震えている。
 澄ました顔で俺を怒っていたが、心の中では心配でたまらないのだろう。大丈夫だと言っていたが、フィーが目を覚ますまでは安堵できないのだろう。
 フィーは何度も母上と口にした。ついには涙も流し始めた。だけど辛そうではなく、寂しそうにしている。

「母親の夢を見ているのか?」
「夢の中で前王に会っているのかもしれません。真実を知ったのかもしれません。フィル様が、甘えた表情になっていますから」
「なに?」

 ラズールの手は相変わらず震えていたが、少しだけ安心したような顔をしてフィーを見ている。
 俺にはわからないフィーの些細な表情の変化がわかるのだ。羨ましい。俺よりも何倍も長くフィーの傍にいたのだ。当然なのかもしれないが、とても悔しい。
 フィーが目覚めたら、俺は誰よりもフィーを知りたい。ラズールよりももっともっと、フィーに詳しくなるからな。

「フィー!俺はここにいる!早く戻って来いっ」

 少しラズールにイラつきながら、フィーに呼びかける。
 すると、フィーの口から俺の名が飛び出した。

「…リアム、リアムっ」
「フィー!いるぞっ、傍にいる!」
「リアムっ…」
 
 次の瞬間、フィーの身体が白く光って全ての痣が消えた。そして大きく息を吐き出したフィーのまつ毛が震え、ゆっくりと目が開いた。
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