銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「なに笑ってるんだよ…」

 リアムが僕の頬を摘みながら言う。

「いたい…。いや、ラズールらしいなぁと思って」
「前から知ってたけど、本当にラズールは、おまえ以外のことはどうでもいいんだなってよくわかった!」
「でもね、そんなラズールが傍にいてくれたから、今の僕があるんだよ」
「まあ…それは…一応感謝はしてる」

 口では感謝してると言うものの、リアムの顔は不満そうだ。その顔のまま、ラシェットさんの方を向く。
 
「それで?ラズールは何用で伯父上に会いに来たんだ?」
「おおそうだった。フィル、これを」

 サンドウィッチを頬張っていたラシェットさんが、手を拭き封筒を差し出した。
 リアムが受けとり僕に渡してくれる。
 僕は封筒の表や裏を見ながら「これは?」と聞いた。

「ラズールが持ってきたんだ。たぶんその中に任命証が入ってるはずだよ」
「任命証…?」
「フィルはね、この度、イヴァル帝国のグランドデューク(大公)に任命されたらしい」
「えっ、僕が…」

 驚いて声を上げ、ラシェットさんを見る。
 ラシェットさんは、再び口に運んだサンドウィッチを飲み込みながら、にこやかに頷いた。

「リアムはいずれ、俺の跡を継いでデューク(公爵)になる。それにふさわしい地位を用意してあげたかったんだね。君の忠実な部下は」
「へぇ、ラズールもやるじゃないか。今ではもう、イヴァル帝国で一番力があるんじゃないのか?」

 僕はリアムに顔を向けて首を傾げる。

「それはまだ…無理だと思う。大宰相や大臣達がいるし、トラビスやレナード達もいる。一人が勝手なことをし過ぎれば誰かが止めるはず…」
「ならこれは、王城にいる者達の総意ということだろう。遠慮なく受け取ればいい。というか、フィーは正当な王族なのだから当然だけどな」
「でも僕は、国を捨てたみたいなものなのに…」

 シュン…と俯いた僕の髪を、リアムが優しく撫でる。

「でもバカげた慣習の中で、おまえは十分やってきた。その慣習のせいで死にかけもした。だからこれからは自分のために生きていいんだよ」
「うん…」

 小さく頷く僕に、向かい側から声がかかる。

「フィル様、グランドデューク就任おめでとうございます」
「おめでとうございます。その髪色を持つあなたは、やはり特別なのですよ」
「ありがとう」

 リアムの傍にいられるなら、何もいらないと思ったけど、確たる地位をもらえたことは素直に嬉しい。こっそりとではなく、堂々とイヴァル帝国に入っていいと許されたみたいで。僕は心の中で、ネロを筆頭にラズールやトラビス、大宰相達の顔を思い浮かべて感謝した。
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