銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 余計に困らせてしまったかなと不安に思っていると、ユフィが鋭い目付きで女の人を見ていることに気がついた。
 ユフィが女の人の前に立ち、「下がってよい」と命ずる。

「でも…王子様を案内するようにと」
「俺達がついてるからいい。それに先にラシェット様の所へ案内する。使用人頭には俺から説明しておく。二度は言わぬ。下がれ」
「…かしこまりました」

 ユフィの厳しい物言いを初めて聞いた。僕も驚いたけど、女の人も驚いたらしく、肩を揺らした後に深く頭を下げて、城の奥へと足早に去っていった。
 女の人の姿を目で追っている僕に気づいたのか、ユフィが「大丈夫ですよ」と先ほどとは反対の柔らかい声で言う。

「あ…うん。あの人、困ってるように見えたけど」
「フィル様が気になさることはありません。この城の使用人は、自ら察して行動するような者ばかりのはずですが。どうやら、本当に入ったばかりのようですね」
「そうなの?」
「はい。俺もここにはラシェット様に付き従って来るくらいなので、事情はわかりませんが」

 ふ…と目を細めてユフィが微笑む。 
 主の甥の伴侶だから僕に優しいのは当然なのだろうけど、なんだか女の人に申しわけない気持ちになる。
 僕も曖昧に笑ってリアムを見上げると、リアムが「ん?」と小さく首を傾けた。そして僕の手を引き歩き出す。

「どうした?中へ入ろうか。しかしあのような使用人、本来ならしっかりと躾てから働かせるものだけどな。それ程、ここは人手が足りてないのか」
「リアムから見てもそう思うの?」
「ああ。人手がないのなら、今のようにユフィやテラを寄越してくれればいい。兄上に会えたら聞いてみよう」
「え…?」

 僕は慌ててリアムの手を引く。

「あの女の人、怒られるようなことにはならない?」
「大丈夫だ。なにも失敗をしたわけじゃない」
「そう…」

 僕は安堵する。
 きれいごとだけど、僕に関わることで誰かが怒られるのは嫌だ。例え僕のことを嫌ってる人物だとしても…。そう、あの女の人は、僕のことを好意的には見てないみたい。目を逸らされた時に感じた。誰からも必要とされない環境で育った僕は、好意とは反対の視線をよく知っている。
 「疲れましたか」と声が聞こえて振り向くと、ゼノが抱えた箱の陰から心配そうに僕を見ている。
 ゼノの後ろから、他の箱を持ってテラが付いてきている。
 ユフィは、僕達を案内するように前にいる。

「大丈夫だよ」
「そうですか?お疲れなら先に部屋で休まれてもいいんですよ」
「今回は馬車だったし元気だよ。ゼノの方が疲れたんじゃない?ゆっくり休んでね」
「優しいお言葉、ありがとうございます」

 ゼノが軽く頭を下げる。
 皆が僕に優しくて贅沢だなと思ってしまう。僕は小さく笑って前を向いた。
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