銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 フィル様を部屋へ連れて行くと、中には誰もいなかった。皆、庭に向かったのだろう。そのうち俺達の姿が見えないことに気づいて、トラビスが戻ってくるかもしれないと思い、静かに扉を閉めた。
 以前よりは重くなったが、それでもまだ軽い身体をベッドに下ろす。そしてブーツを脱がせて、横になった身体にシーツをかけた。
 フィル様が小さな声で言う。

「ラズールは庭に戻って。みんなと軽食を食べてきて」
「いえ、俺はここにいます」
「じゃあ食べなくてもいいから、僕が部屋に帰ってきたことを話してきてよ」
「あなたの傍を離れません」
「もうっ、おまえはほんと、僕に関しては言うこと聞かないな。庭に行って、僕が食べる分の軽食持ってきて!」
「新しいものを用意させますが」
「いいからっ、早く行ってきて」
「…わかりました。起き上がってはダメですよ」
「わかってるよ…動きたくても動けないから」
「医師を呼びましょうか?」
「いい、大丈夫。でも薬は持ってきてほしい」
「では少し離れます」
「うん」

 俺を見上げる緑の瞳がうるんでいる。もしや熱も出てきたのかもしれない。俺は先に医師がいる部屋へ向かい、数種類の薬を出してもらった。その後に庭へ行くと、俺を見つけたトラビスが突進してきた。

「ラズール!どこに行ってた?フィル様はどこだっ?」
「声が大きい。落ち着け。フィル様は体調を崩されたので、部屋で休んでおられる」
「え?お元気そうに見えたのに…長旅で疲れていたのか?」
「そうみたいだ。やはり仮死状態になられて以降、体力が落ちていらっしゃる。バイロン国での暮らしは順調だとしか言わないが、頻繁ひんぱんに体調をくずされてるのではないだろうか」
「心配だな。だがバイロンにも良い薬があるだろうに」

 トラビスが俺の顔を覗き込んでくる。
 近い。こいつは距離感がおかしい。顔を寄せるのはネロだけにしろ。
 俺は少し後ろに下がり、軽食が並べられた机に向かう。

「バイロンの薬は合わないのか?」

 話しながらついてくるトラビスに、前を向いたままこたえる。

「フィル様は、呪いを受けていた身体だ。普通の薬では効きにくいのかもしれない」
「そうか…フィル様によく効く薬を作れないものかな…っておまえ、何してるんだ」
「フィル様の分に、少しもらって行くぞ。いいですかネロ様」
「うん、いっぱい持って行ってあげて。てか、俺も行こうか」
「いえ、いいです。今は静かに休ませてあげたい」
「そうだな。トラビス、運ぶの手伝ってやりなよ」
「いえ、それもいいです。トラビスはネロ様の傍を離れないように」

 木の箱にパンと果物とスープを入れると、ネロに頭を下げて離れる。
 レナードが慌てて傍に来て「後でフィル様の容態を教えてくれ」とささやいた。
 俺は小さく頷き、フィル様が待つ部屋へと急いで戻った。
 
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