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第62話 この世界が戦いを求めているのだから

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 絶え間なく供給されていた魔獣は止まるが、この辺一帯には、まだ数千匹が残っている。そいつらがダンジョン正門めがけて殺到するが、残機がその魔獣を追いかける。

「ちっ──!」

 ユーティが舌打ちして正門に向かうも、残機数百体でそれを取り囲んだ。

 その残機伝いにジップオレが告げる。

「あの残党を狩り尽くすだけでも、あといくつかレベルが上がるからな。利用させてもらうぞ」

「まさか……偽物が戦ってもレベルアップするなんて……」

 どうやらユーティは、オレの固有魔法についての詳細までは把握していないようだ。であればそこを利用させてもらう。

「次は多頭雷龍でも呼べよ? 雑魚ばかりだと、量が多くてもレベルアップがすぐ鈍化するんだよ」

「………………」

 ユーティは、オレを睨んだまま何も言わない。

 本音を言えば、こんなところで多頭雷龍を出されては堪らないが、今のオレなら討伐は可能だ。攻略法も分かってるし、以前より遙かにレベルアップしたし、かなり短時間で倒せるだろう。

 だからあえて挑発するようなことを言って牽制する。

 とはいえ、多頭雷龍を何千頭も出されては太刀打ち出来ないが……そんな大物、そこまで生息しているとは思えないし、ユーティもそのつもりはないようだった。

 さて、次はどんな手で出てくるのか、あるいはもう手が尽きたのか……

 オレは、にらみ合いを続けるユーティに問いかける。

「お前は、魔人なのか?」

「ご想像にお任せするよ」

「なら魔人だとして、いったい何が狙いなんだ……!」

「そうだね……わたしと一緒に上層へ来るなら、教えてあげてもいいよ」

 先ほどまでは「上層に連れて行け」だったのに、今は「一緒に来い」と言っている。

 それはユーティの本拠地が上層──いや地上であることを案に示しているようだった。

 ユーティとは睨み合いを続けたまま、オレは本体のほうでミュラに確認する。

「オレのレベルはいくつになった?」

 その質問を受けて、ミュラは鑑定魔法を発現させた。

「レベル……82です」

 ダンジョン正門に群がる魔獣を掃討すれば、あと5つくらいはレベルがあがりそうだ。

 ついさっきユーティと戦った時はレベル64だったから、実に20以上のレベルアップをしたことになる、この短時間で。さらに、今だったら残機を3万体は生成できるだろう。

 さしもの魔人とはいえ、レベル80オーバーの冒険者を3万人相手取るとなれば、その勝敗はどうなるか分からないはずだ。

「ミュラ、今ならユーティと拮抗できるかもしれない。だとしたら、どうする?」

 オレのその質問に、ミュラは迷わず答えてくる。

「もちろん討伐です」

「顔見知りとは戦いたくないんだが……」

「ここで魔人を逃せば、まず間違いなくあなたの固有魔法は露見します。そうすれば次は万全の体勢で攻めてくるでしょう。つまり彼女を逃がした時点で、この都市に明日はありません」

「もし……ユーティが投降すると言ってきたら?」

「拘束する手段がありません」

「………………」

 ミュラの意見は、どうあっても、ここでユーティを討伐するということか。

 オレは歯がみしながらも、静かに魔法を解き放つ。

身体生成コールプス・ジェネラティオ

 その瞬間、レベル80オーバーの残機3万体が、ユーティを中心にして、この辺一帯を埋め尽くした。

「……!」

 さすがのユーティも、その光景に息を呑む。

 そんな彼女に、オレは静かに言った。

「こいつらは全員、レベル80を超えている。そして全員がオレ自身だから、熟練の冒険者パーティ以上に連携も取れる。それに比べてお前のほうは、増援の魔獣を召喚してもオレの餌になるだけだ」

「手の内を明かすだなんて、優しいね。でもレベル80をもってしてもわたしには敵わない」

「だろうな。だが個体はお前に及ばないとしても、完璧に連携できる3万人の冒険者パーティ相手に、お前は勝てるのか? 連携が、戦力を何十倍にもすることくらい知ってるだろう? どういうわけか冒険者をやっていたんだから」

「……何がいいたいの?」

 魔人に向かって、オレは毅然と言い放つ。

「投降しろ」

 押し黙るユーティに、オレは言葉を続ける。

「そもそも、なぜお前は人間の振りをしていた? お前なら、この都市を滅ぼすことはいつでも出来たはずだ。でもそれをしなかった」

「ただの気まぐれだよ」

「それにしては、ずいぶんと計画的だったじゃないか」

 突然の奇襲を受けて慌ててしまったが、冷静になってみれば、この戦闘だっておかしいのだ。

 それこそ、街のど真ん中に多頭雷龍を一匹召喚してしまえば、フリストル市はそれだけで壊滅だったのだから。

 もっといえば、ダンジョン内の大空洞で多頭雷龍を召喚したこと自体、意味が無い。あの時点で、オレと都市の存在をユーティは知っていたのだから、そんな回りくどいことをする必要はなかったはずだ──

 ──オレもろとも、フリストル市を攻め滅ぼすことが目的であるのならば。

 であるならば、ユーティの目的は、少なくとも都市滅亡ではないということになる。

 だから多頭雷龍より格下の魔獣を大勢呼び寄せて──それは都市を狙う手段ではなく、あたかもオレを威圧するかのような手段だった。

 しかもその魔獣達ですら、都市のど真ん中ではなく、郊外のこんな森林地帯に呼び出している。魔獣達をオレに見せつける目的もあったのだろうが、まるで、都市に被害を出したくないかのようにも思える。

 だからオレは、どうしても、ユーティを討伐する気にはなれなかった。

 さりとてこのまま逃がせるはずもない。

 そうしてオレは、ユーティに問いかけるしか方法がなくなっていた。

「お前の目的はなんだ? なぜこんな回りくどい手段を取る? もし目的が納得できるものだったなら、お前が魔人であろうとなかろうと、協力できるかもだろ……!?」

 オレの説得に、しかしユーティは表情を変えない。

 やはり、説得は無駄か……

 だとしたら、オレはユーティを無理やりにでも取り押さえる必要がある。確かに拘束する手段はないが、そこは残機でどうにかするしかないか……

 オレがいよいよ身構えたところで、ユーティがぽつりといった。

「どのみち……わたしたちは戦うしかないんだよ」

 どこか悲しげにそんなことを言うユーティに、オレは苛立ちを覚える。

「だからなんでだよ……! お前が魔人だからか!? だとしてもこうして言葉を交わせるんだ。だったら解決策は──」

「解決策なんてない。なぜなら、この世界が戦いを求めているのだから」

「世界が? それはいったいどういう意味だよ……!」

「あなたが上層にきたとき、分かるよ」

 そうして──ユーティの顔から感情が消える。

 そう思った直後、オレは全身に悪寒を感じた。

「ユーティ、何をする気だ!?」

「なれ合いは、もうおしまい」

 そうしてユーティが魔法を発現する。

全魔力解放オムニス・マジキ・ディミティス! さぁジップ、決着を付けましょう!」

 ユーティの体から、魔力の渦が溢れ出した!
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