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いち

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 この日の為に用意したブルーのドレスを着込み、お化粧は控えめにして、シャンデリアが煌めく舞踏会で王子の発言を待っていた。

「公爵令嬢サローナ・ラージャ嬢。あなたと婚約破棄する」

 この申し出を承諾すれば私の悪役令嬢は終わりを迎える。これから先は2人で手を取り合い頑張ってくださいねと心の中で呟き、深くこうべを垂れた。

 国王陛下と王妃も殿下とナリアのことは知っていらっしゃるし。
 私がナリアの良い所を伝えているので、時間はかかるかもしれないけど国王陛下も2人をお許しになるでしょう。

 さてと、場所を変えたほうがいいわね。

 多くの貴族達がいる舞踏会の会場で、第一王子が婚約者に婚約破棄を伝えたとしてざわつく会場から、場所を応接間に移して必要な書類を書き終えた。
 全てが終わり屋敷に戻ると帰りを待っていたのか、お義母様の専属メイドがすぐに私を呼びに来た。

 ふうっ、遂にこの時がきたのかな? はやる気持ちを抑えるべく、お義母様の部屋の前で一呼吸を置き扉をノックをした。

 コン、コン、コン

「お義母様、サローナです」

「待っていたわ、サローナ。入っていらっしゃい」

 彼女の返しは、軽やかで、早かった。

「はい、失礼します。お義母様」

 お会いしたお義母様は笑みを浮かべて、普段とは違い上機嫌の様子。
 それもそうね。先程出した書類が国王陛下によって受理されれば自分の娘が、第一王子の婚約者になるのですもの。

「あのね聞いて、サローナ」

 と、上機嫌な彼女の話はしばらく続いた。
 耳にタコ。話す内容と言ったらあまり代わり映えをしない。王子と婚約者だった貴方には悪いのだけど、お似合いの二人が結ばれて良かったわ、だってさ。

 それで? その後は? お義母様は私をどうしたいのですか? 
 邪魔な私を屋敷から追い出す? 
 それとも召使いのようにこき使う? 
 色々と考えを巡らせたけど取り敢えず、私は微笑んで喜びの言葉を伝えることにした。

「おめでとうございます、お義母様」

「ありがとう。それでねサローナ、貴方にも良い話がきているのですよ」

「私に良い話ですか?」

 おっと、意外な展開。屋敷から追い出すのではなく、良い話? お義母様はテーブルの上の封書を私に見せた。そこには肉球っぽい封蝋が押されていた。

(肉球の封蝋?)

「先程、あなたをガード国の第3王子の嫁として迎えたいと書かれた封書がうちに届きました。第3王子ですって、あなたそこに嫁に行きなさいな」

「嫁? にですか?」

 婚約破棄したばかりのホヤホヤで?

 でも変な話、届いたばかりの封書だなんて? 私を嫁に迎えたい? 
 それも何処にあるのかわからないガード国。その国ではすでに私の婚約破棄を知られているという事になるわ。

(それは、おかしな話じゃないかしら?)

 ほんの数時間前に婚約破棄されたばかりなのに、どうやってそのガード国は知ったの? 
 まさか! 王城に盗聴器? それとも密偵がいた? ん? なんのためにとなる?

 この婚約破棄で国の情勢が変わるとか? ふっ、それはないわ。普通の公爵令嬢の私にそんな献言と価値は無い。

 自分の為にとはいえ、すでに手も打ってある。
 殿下をお花畑にしないように「妹と過ごすために必要ですわ」と国の勉強はさせたし。妹にも一緒に習いましょうと誘い習い事をしたから、2人ともに非の打ち所がないはず。

 まぁ周りの貴族達は面白がってしばらく騒ぐだろうけど、婚約者が姉から妹に変わるだけで。重要なのはその後よ。
 殿下が王太子となり、結婚して次期の国王陛下と王妃になった暁に。2人がどれだけこの国を平和に出来るのか、国民を大切に出来るかじゃないのかしら?

 貴族達も自分の生活が大切。いつまでも婚約破棄の話をしている人なんていない。私は終わった後が大事だと考えた。

「サローナ、あなたの結婚の話は旦那様とも話をして承諾済みです。急な話ですが。その封書に明日の早朝、ガート国の使者が貴方を迎えに屋敷に来ると書いてありました」

「あ、明日ですか?」

(急な話だわ)

 それに、そのお嫁に行くガート国……って? どこかで聞いた気がするのね……あ、『そんな聞いたこともない国に、うちのナリアは嫁に出しません!』それだわ。
 ガート国って学園に入学してすぐナリアにきた縁談の話、確かその時もお相手は第3王子だったはず。

「あのお義母様……ナリアではなくて、私でいいのでしょうか?」

 その国に向かったとして王子に人が違う、話が違う、と言われて追い出されて路頭に迷うのはごめんだわ。私と妹では見た目がかなり正反対なんですもの。

「それは心配ないと思うわ。封書にサローナとあなたの名前が書いてありました。貴方にとっても願ってもいないチャンス、じゃないかしら?」

 ……チャンスですか。ここでの役目は終わったことだし、この屋敷に止まるよりも新しい環境で暮らすのも悪くない。向こうも私を望んでいるのですもの。
 

(この話に乗っかるしか道はなさそうね)


「お義母様。私、ガート国にお嫁に行きます」

 彼女に微笑んで、そう伝えた。

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