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きゅう

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「もう、ユバ様のすけべ!」

「はぁ! 触るぐらい別にいいだろ!」

 よくない! と言う前に。ほら、乗れっと、ぐいぐい押されて馬車に無理矢理乗せられた。
 そのあとは、絶対に馬車から出て来るな! もし出てきたらお仕置きするからな! だって。

 ドキッ、としたて。ユバ様のお仕置きを受けてみたい、と思ってしまった。



「「出発するぞ!」」


 しばらくしてユバ様の合図で馬車が緩やかに動き出した。さっきら前で黙ったままのラトナが気になる。

 ーー彼女はいま何を考えているの? と。

 私とラトナとの出会いは私が10歳の時。
 王都のケーキ屋の前だった。彼女は中に入らずショーウィンドウに張り付いて、売り物のケーキを眺めていた。

 その店に行くたび彼女はいつも同じワンピース姿で、周りを気にせずにショーウィンドウに張り付いていた。

 毎回、その店に行くといるから私から話しかけてみたの。
 
『貴方はここで何をしているの?』

 彼女はショーウィンドウから目を離さず答えた。

『色とりどりの綺麗なアレを見ているんです』

 どうやら、彼女はお店のケーキに釘付けのようだった。もう一度確かめるために聞いた。

『アレってケーキのこと?』

 彼女はキョトンとした表情でこちらを向いた。

『ケーキ? アレはというんですね、初めて聞きました』

 ケーキを知らないと言った、私とはそんなに歳が変わらなそうなのにこの子の答えに驚いた。

 この子がケーキを食べたらどんな表情をする? 興味が湧いてしまい彼女を誘った。

『ねぇ、あなたアレを食べてみる?』

『綺麗なアレは食べれるんですか? 食べみたいですが、お金がないので無理です……あ、だったら奪えばいいかな』

 奪えばいいと、そう呟いた彼女の瞳がマジだった。
 これは私の好きなケーキ屋がなくなる予感がして、彼女にケーキをプレゼントしたのが始まり。

『私の名前はラトナ。この御恩は体で返します、なんなりと私にお申し付けてくださいませ』

 ケーキの恩か……丁度、ゴーハン殿下との婚約が決まり、自分の専属メイドを決める時期と重なっていた。
 
 彼女、食べる顔が可愛いし。見た目も黒髪の綺麗な子だし、頭を下げるラトナに私の専属メイドにならない? と言うと。

 彼女は「かしこまりました」の一言で私の専属メイドとなった。

 出会う前の彼女の生い立ちを私は詳しく知らない。
 
 彼女は働き者で私に従順、優しく、可愛いラトナに聞く必要がなかったのだけど。
 あんなに生き生きとナイフを持ち、大きな猪を綺麗に捌いてる姿を見て聞きたくなってしまったわ。


「ラトナ、あなたについて聞いてもいい?」とね。

 彼女の瞳が私をみて、いいですよお嬢様と答えた。
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