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第三章 獣人の国に咲いた魔女の毒花編

第38話

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 癒やしの木の下で、みんなの寝息が聞こえて来た頃にわたしは動き出す。
「…さてと」
 みんなを起こさないようにそっと立ち上がると、ラーロさんに魔法を習いに魔法協会へと向かった。
 その後はお父様と荷馬車で森に出かけて、チシャの葉とひよこ豆を育てて、魔法協会に納品。
 ラーロさんの家にいるマリーに最近料理を習い始めた。
 まぁ、腕前は……普通のチシャの葉サンドに、形の悪い卵焼きが作れるようにはなった…
(まぁ、味の保証は……まだ、ないんだけどね)

 帰りは魔法訓練をしながら、のろのろとホウキに乗って戻る…と言うより、ホウキにまたがり歩いている。
 ホウキに乗るにはわたしには、まだ時間がかかりそうだ。

 わたしは魔法協会の中を歩き、ラーロさんの研究室の扉をノックした。
 ミルちゃんに「ラーロ帰ってきてよ!」と、聞いたから。
 欲を言って一時間、出来たら三十分はラーロさんに魔法を習いたい。 

「はーい」

 ノックの後に部屋の中から、ラーロさんの声が聞こえた。
「ラーロさん、よろしいですか?」
「おっ、シャルちゃん? 扉は開いてるから入っていいよ」
 入っていいと言われて、扉を開けたけど部屋の中に驚く。

「…失礼します、ラーロさん……今日もよろしくお願いします」
 お父様以上の書類の山。書斎やソファーが書類やら本に、魔法道具で埋まっていた。その書類の中でゴソゴソ動くラーロさんがいた。
「シャルちゃんごめんね、少し待ってて」
「は…い」
 
 ラーロさんが書類を探すたびに、書類の雪崩が起きてしまい、入り口付近に立つわたしの足元にまで、書類の波がやってきた。
 その、書類を見ていいものかと迷う。
 あっ、また雪崩れた!
「探しますか?」
「いいや、必要な書類は見つけたから大丈夫」
 書類を見つけたのか書斎に戻りハンを押す、ハンを押された書類は、ラーロさんの手を離れてふわりと浮き上がると、目の前でパッと消えた。

(まっ、魔法の書類⁉︎)
「ふふっ、気になった?」

「はい、とても」
 と言うと、ラーロさんは何も書かれていない紙を、一枚手に取った。
「ここで使用されている紙はね。それぞれに魔法陣が裏に描かれているんだ、シャルちゃんこれを見てみて」
 ラーロさんが紙の裏を裏返すと、その裏には緑色の魔法陣が描かれていた。
「魔法陣は合計で七色あるんだよ。色によって届く場所が変わるんだ。これ以上、詳しい事は言えないけどね…さぁ、時間もないから始めようか」
「お願いします、ラーロさん」
 湖で青桜の木を育て始めたすぐの頃。魔法協会のラーロさんの元を訪れて『聖女の力』を使わず回復魔法を覚えたいと伝えた。
 それは、シーラン様やリズ様にリオさんは「大丈夫だ」と言う。

 ーーしかし、わたしは。
 皆んなが訓練で作る傷がどうしても、気になっていた、その傷を気付かれずに治せないかと考えた。
 傷薬をぬる。薬草ジュース。回復魔法! それだと思い付く。
 わたしの真剣な願いにラーロさんは笑い『なんだ、チビ竜達のためか』と、すぐにラーロさんに、わたしの思いは見破られていた。

 ラーロさんとの魔法訓練の前。
「魔力が回復していないね。先ずはこれを飲もうか」

 ラーロさんは書斎の引き出しを開けて、見慣れた茶色の瓶を出した。
(……出た!)
 それはアル様特製ポーションだ。わたしはそれをラーロさんから受け取る。
 回復魔法を教えてもらう条件には、このポーションを飲む事が入っている。
 魔力切れを起こさない為でもある。
 茶色の瓶の蓋を開けた瞬間から、薬草の独特の匂いがする、目を瞑り特製ポーションを一気に飲み干す……苦い、渋い…うっうう、ラーロさんに飲み切った瓶を見せた。
「飲み終わりましたよ、ラーロさん!」
「わかった。では、回復魔法の訓練を始めようか……と、言いたいけど、先ずは書類を片付けるのを手伝って欲しいな」

「はい、わかりました」

 足元に散らばった書類を片付けてから、ラーロさんとの魔法訓練が始まった。



 魔法訓練にチシャの葉の納品。それら全てが終わり癒やしの木の下へと戻って来た、わたしの手にはバスケットが握られている。
 ラーロさんの家のキッチンを借りて、マリーと一緒にチシャの葉のサンドイッチを作り、林檎のジャムにスコーンを焼いた。
 そっと、足音をださない様にみんなの所へと近付くと、シーラン様達はまだ眠っているみたい。
(竜人王様との訓練で、相当疲れたのね? 寝ている間にやってしまいましょう)
 バスケットを近くに置き、わたしはシーラン様の頬の傷にラーロさんに習った『ヒール』を掛けた。その後に、手にも出来ている擦り傷や切り傷を治した。
 次は隣で眠るリズ様の傷、そのお隣のリオさんの傷と次々と傷を治す。

(これで、よし!)

『ヒール』のお陰で、みんなの傷が綺麗に治ったのを見て、ニマニマしていた。
 安心と疲れが来たのか、それともみんなの寝顔を見たからか、目蓋が重くなり眠気がやって来る。

「ふわぁぁっ、わたしもみんなが起きるまで、お昼寝をしようっ、と!」
 明日の午後にラーロさんは毒の花を見にアル様と、獣人の国ルーベスを見に行くと言っていた。
 わたしも「行きたい」とラーロさんにお願いをしたし、みんなにもどうするかを起きた後で聞かないと……シーラン様の横に座ると、癒やしの木に寄り掛かり目を瞑った。





(……眠ったか)
 しばらくして、シャルロットは眠ったのか寝息が聞こえた、俺はそれを聞き目を開ける。
 俺が目覚めた事が分かったのか、隣に座る兄上とリオも目を覚ます。
「シャルロットちゃんは眠ったか?」
「ええ、兄上……気付きましたか? シャルロット嬢は新しい魔法を覚えた様だ」
「そう、みたいだね。訓練で出来た傷が綺麗に治ってるから、癒やしの木のお陰だと思っていたが、そうではなかったんだなー」
「シャルロット様が『ヒール』を使い、私達の傷を綺麗に治されました。余り無理をなさらない様にして、いただきたいものです」

 俺の隣で肩に寄り添い眠るシャルロット。
 君を何者からも守りたくて、竜人王様に頼んだ訓練なんだが、余計に心配をかけてしまったか。
 寝ているはずの、シャルロット嬢が両手を前に出す。
「…むにゃ…ヒール…シーラン様の傷は治った?」
「なんて君は! 夢の中でまで俺の傷を治しているのか……ははっ、シャルロット嬢には勝てないな」
 君が前に進むのなら、俺は離れず横に並び、一緒に前に進もう。

(守るよ、シャルロット嬢)
 

 三十分くらい過ぎた頃に目が覚めたのか、すでに起きていた俺達を見て「お腹すいた? あの、これ食べよう」と、恥ずかしそうにバスケットを差し出した。
「シャルロット嬢が作ったのか?」
 そう聞くと、シャルロット嬢はコクリと頷く。

「マリーと一緒に作ってきたの……みんなで一緒に食べよう」
 と、はにかむように笑いながら言った。
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