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第3章 サタナキア村
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「止めなさい!」
シオンの叱責が飛び、兵士達が渋々引き下がる。
フーフーと威嚇する猫のような状態のセーレに顔を向け、シオンは眉をハの字にして告げた。
「……セーレ様は、本当に竜の巫女なのですね」
困ったような笑顔でそう言うと、シオンはこちらに向かって頭を下げる。
「お手間を取らせてしまい申し訳ございません。古竜様とお話が出来、素晴らしい思い出をいただきました。王都に戻って家族に自慢致します。また、いつか、必ずこちらへ戻ってまいりますので、その時は……」
何処か悲壮な決意を窺わせる態度でシオンがそう告げ、兵士達は悔しそうに俯く。
それを見て、思わず軽はずみな返事が口から出てしまう。
「……危なくないなら行っても良いかも」
「え?」
僕の一言に、セーレが驚いて声を上げた。
「お、おぉ! 危なくなどありませんぞ! 城の城壁の中で、我々の警護もあります! 必ずお守りすると誓いましょう!」
兵士の一人が歓喜の声を口にし、他の兵士達も目に力が戻る。一筋の希望を見出したような気分なんだろう。僕には荷が重い気がするけど。
「……しかし、お母様が」
「ん? まぁ、僕が自分で選んだ結論なら、シオン達のせいにはならないんじゃない?」
シオンの疑問に軽く答えると、セーレが不安そうにこちらを見る。
「ど、ドラゴン様、戦場は危険です。そんな簡単に決断しないほうが……」
「でも、負けそうなんだよね? 負けたらセーレも困るかもしれないし」
勝手ながら、セーレは唯一の友達だと思っている。そのセーレの国が滅亡するのも大変そうだし、僕にも何か出来ることがあるならしてあげたい。
「わ、私? 私の為に、ですか?」
セーレは驚いて自分を指差し、シオンが嬉しそうに両手を合わせた。
「まぁ、素晴らしい御関係ですね。羨ましいです」
そう言うと、シオンは表情を改めて一礼した。
「ドラゴン様が来て下さると言うのなら、私は全力を尽くしてお守り致します。正直、このままでは打つ手も限られていたのです。ドラゴン様のご助力は喉から手が出るほど欲しいのが本音です」
シオンの一礼に、頭を下げて下から覗き込むように見上げる。
「僕が行っても大丈夫?」
そう尋ねると、シオンは顔を上げてだらしない笑顔を見せた。
「も、も、勿論です! そうです、私と一緒に参りましょう! ちょうど戦地へ激励に赴くつもりだったのです。一緒に行動していただければ警備するのも効率が良いですし、安全面でも間違いがありません」
何故か興奮気味に熱弁するシオン。目が爛々としていて少し怖い。
「で、では、私も行きます!」
と、今度はセーレが戦場へ行くと言いだした。
「いや、セーレは戦場に行かない方が良いんじゃない? 危ないよ?」
そう言うと、セーレは厳しい表情で深く頷いた。
「私でも、ドラゴン様の盾くらいにはなれます! ドラゴン様をお守りするのは私ですから!」
巫女としての責任感のようなモノが芽生えたのだろうか。セーレは妙にやる気だった。
「そうですか! では、セーレ様もご一緒しましょう! 大丈夫です。きっと危険なことはありませんよ」
シオンがそう言うと、それに応えるように兵士達が敬礼を返した。
その様子をボンヤリと眺めて、小さく唸る。
「……何か、変なフラグが立った気がするけど」
「ふらぐ?」
首を傾げるシオンとセーレの姿に笑い、僕は尻尾を振って首を上げた。
「まぁ、良いか。それじゃ、一緒に行くとしよう」
「は、はい!」
「不自由無い旅を保証致しますね」
二人の返事を聞いてから、一度だけ神殿の中を見渡す。
これがある意味巣立ちの時ということだろうか。少し違う気がするけど、人に頼られたことが殆ど無かった僕からすると素晴らしい旅立ちの理由である。
旅という言葉に高揚しつつも、住み慣れてきた神殿を離れることに若干の寂しさと不安もある。
いや、憧れ続けた見知らぬ地への旅だ。ネガティブな考えではいけない。
むしろ、思い切り楽しんでやろうじゃないか。
僕は自ら鼓舞するように気合を入れ、羽を広げた。
シオンの叱責が飛び、兵士達が渋々引き下がる。
フーフーと威嚇する猫のような状態のセーレに顔を向け、シオンは眉をハの字にして告げた。
「……セーレ様は、本当に竜の巫女なのですね」
困ったような笑顔でそう言うと、シオンはこちらに向かって頭を下げる。
「お手間を取らせてしまい申し訳ございません。古竜様とお話が出来、素晴らしい思い出をいただきました。王都に戻って家族に自慢致します。また、いつか、必ずこちらへ戻ってまいりますので、その時は……」
何処か悲壮な決意を窺わせる態度でシオンがそう告げ、兵士達は悔しそうに俯く。
それを見て、思わず軽はずみな返事が口から出てしまう。
「……危なくないなら行っても良いかも」
「え?」
僕の一言に、セーレが驚いて声を上げた。
「お、おぉ! 危なくなどありませんぞ! 城の城壁の中で、我々の警護もあります! 必ずお守りすると誓いましょう!」
兵士の一人が歓喜の声を口にし、他の兵士達も目に力が戻る。一筋の希望を見出したような気分なんだろう。僕には荷が重い気がするけど。
「……しかし、お母様が」
「ん? まぁ、僕が自分で選んだ結論なら、シオン達のせいにはならないんじゃない?」
シオンの疑問に軽く答えると、セーレが不安そうにこちらを見る。
「ど、ドラゴン様、戦場は危険です。そんな簡単に決断しないほうが……」
「でも、負けそうなんだよね? 負けたらセーレも困るかもしれないし」
勝手ながら、セーレは唯一の友達だと思っている。そのセーレの国が滅亡するのも大変そうだし、僕にも何か出来ることがあるならしてあげたい。
「わ、私? 私の為に、ですか?」
セーレは驚いて自分を指差し、シオンが嬉しそうに両手を合わせた。
「まぁ、素晴らしい御関係ですね。羨ましいです」
そう言うと、シオンは表情を改めて一礼した。
「ドラゴン様が来て下さると言うのなら、私は全力を尽くしてお守り致します。正直、このままでは打つ手も限られていたのです。ドラゴン様のご助力は喉から手が出るほど欲しいのが本音です」
シオンの一礼に、頭を下げて下から覗き込むように見上げる。
「僕が行っても大丈夫?」
そう尋ねると、シオンは顔を上げてだらしない笑顔を見せた。
「も、も、勿論です! そうです、私と一緒に参りましょう! ちょうど戦地へ激励に赴くつもりだったのです。一緒に行動していただければ警備するのも効率が良いですし、安全面でも間違いがありません」
何故か興奮気味に熱弁するシオン。目が爛々としていて少し怖い。
「で、では、私も行きます!」
と、今度はセーレが戦場へ行くと言いだした。
「いや、セーレは戦場に行かない方が良いんじゃない? 危ないよ?」
そう言うと、セーレは厳しい表情で深く頷いた。
「私でも、ドラゴン様の盾くらいにはなれます! ドラゴン様をお守りするのは私ですから!」
巫女としての責任感のようなモノが芽生えたのだろうか。セーレは妙にやる気だった。
「そうですか! では、セーレ様もご一緒しましょう! 大丈夫です。きっと危険なことはありませんよ」
シオンがそう言うと、それに応えるように兵士達が敬礼を返した。
その様子をボンヤリと眺めて、小さく唸る。
「……何か、変なフラグが立った気がするけど」
「ふらぐ?」
首を傾げるシオンとセーレの姿に笑い、僕は尻尾を振って首を上げた。
「まぁ、良いか。それじゃ、一緒に行くとしよう」
「は、はい!」
「不自由無い旅を保証致しますね」
二人の返事を聞いてから、一度だけ神殿の中を見渡す。
これがある意味巣立ちの時ということだろうか。少し違う気がするけど、人に頼られたことが殆ど無かった僕からすると素晴らしい旅立ちの理由である。
旅という言葉に高揚しつつも、住み慣れてきた神殿を離れることに若干の寂しさと不安もある。
いや、憧れ続けた見知らぬ地への旅だ。ネガティブな考えではいけない。
むしろ、思い切り楽しんでやろうじゃないか。
僕は自ら鼓舞するように気合を入れ、羽を広げた。
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