悪戻のロゼアラ

yumina

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月と悪戻

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「見て、あれロゼアラ様だわ」
「なんて愛らしくも神々しいお顔かしら」
「本当にね。ムルトフ・ロラ神の化身だと言われるだけあるわ。ご尊顔を拝見できるなんて運が良かったわね、私たち」
 様々な色で着色されたガラス板を絵画のように嵌め込んで仕立てた美麗な明かり取りの窓を中央に据えた礼拝堂。工房技術を駆使して建築されたこの広間は王城の一画に建てられた。
 現国王がある人物の為に用意させた贅沢な建物だ。とある教義を掲げる教団の教えの場として貴族階級に解放されている。今日は珍しく、いつもは城の奥に大切に隠されている神子が礼拝堂に降臨遊ばしたせいか、礼拝者は少し浮き足立って噂話に花を咲かせている。
 神子の名前はロゼアラ。
 歳は十七、基本性を男性とし、第二性をオメガとする、いわゆる希少種の少年だ。その姿形は妖艶にて可憐。儚くも蠱惑的な不思議な魅力を放ち、ある種の人間達に深い感銘を刻み込む。
 彼の姿を目にすれば人々は倣ったようにさまざまに口にする。賛美と畏敬、そして、嫌悪を──


「神の名を騙った犯罪者めっ! 大人しくこの手に掛かれ!」
 華美な礼拝堂の大扉から神の衣装を纏ったロゼアラが姿を見せる。
 本城へと続く石畳の通路へと一段高い足場から降りるロゼアラへ何者かが茂みの陰から獲物を手に襲い掛かる。
「!」
 ロゼアラはその声に振り返るが、襲撃を避ける素振りはない。目を見開いて身体を硬直させるだけだ。
 襲撃者の接近に反応できないロゼアラへと振り翳される小ぶりの刃。鋭利な刀身がロゼアラの胸へと襲いかかる。
 誰もが惨劇を想像したが、次の瞬間、ガキンと金属同士の鈍い音が響いたかと思えば、襲撃者は獲物を持つ利き手を切り落とされ地に蹲って悶絶していた。
「ロゼアラ様、お怪我は?」
 血に汚れた抜き身の剣を片手に茶髪を短く刈り込んだ長身の男がロゼアラを振り返る。従者のアスターだ。今の騒ぎなど何もなかったかのように動揺を見せない沈着な物腰で主人の安否を確認している。
 庇われたロゼアラは信頼のおける従者へと笑顔を向けるが、また顔を青ざめさせて叫んだ。
「アスター、後ろ!」
 彼の従者は振り返り剣を構えて機敏に戦闘体制を取る。
 片手を切り落とされた襲撃者とは別の影が茂みから二陣目として躍り出たのだ。
 ロゼアラからだいぶ距離のあるこの間合いなら問題なく対処できる。襲撃者も多分捨て身なのだろう。後先を考えていない浅慮な攻撃だ。放っておいてもあの従者はロゼアラを守り抜くだろう。
 けれど俺は傍観者に徹することはできなかった。不必要な横槍だと自覚があっても、ロゼアラが危険に晒されている。そう思えば身体は自然に動いていた。

「ロゼアラ、怪我は無いか?」
 周囲はちょっとした騒ぎになった。礼拝に訪れた貴族達が遠巻きにこの一件を見守っている。
 ロゼアラを狙った二撃目は、近くをたまたま通りがかった俺が握りしめた剣の一太刀で撃退した。
 襲撃者の力量は確かだったが、正規の訓練を受けてはいないようで、手こずるほどではなかった。
 襲撃者は警備兵に取り押さえられ、捕縛されて地下牢へと連行された。片手を切り落とされた襲撃者は応急処置を施されたあと尋問となるだろう。誰の差し金か聞き出して一刻も早い対策を考えなければ。ロゼアラがまたこのような危険に晒されるようなことがあってはならないのだ。
 二人の襲撃者を苦い気持ちで見送った後、俺は立ち尽くすロゼアラへと向き直った。
「シン…!」
 ロゼアラの高めの声。先程の出来事をまだ消化しきれてないような不安が滲んでいる。
 ロゼアラへ労りの声をかけてやりたかったがそれを堪えてロゼアラの背後のアスターへと口を開いた。
「アスター殿、抜かったな。ロゼアラの護衛役を務めていながら気を緩めて隙を見せるなど言語道断の失態だぞ」
「面目次第もございません」
 出会った時から変わらないこの従者らしい感情の無い平坦な口調。普段なら平静を取り戻すのに適したその声は、このような時にはいらない反感を覚えてしまう。
「シン! アスターはちゃんと僕を守ってくれたよ! アスターが居なかったら僕は無事じゃなかったよ。アスターを責めたりしないで」
 膝を折り跪くアスターを睨め付けていれば焦ったようにロゼアラが間に入ってあちらの肩を持つ。
 それがたまらなく気に入らない。
「ロゼアラ、これは規律の問題だ。結果論では無い。この王宮内で帯剣を許されていながらおめおめと追撃を許しお前の身を危険に晒した。懲罰の対象だ。たとえお前の従者がこの王宮に属さない食客としても責任は免れない」
 これは正当な主張だ。彼も剣を手にする武人というなら手を抜かるなという事だ。けれどこちらも少し感情的になっていた。ロゼアラはそれを敏感に感じ取ったのか、らしくもなく眉を逆立てた。
「懲罰? それを言うなら侵入者を許したこの城の警備体制の方が問題だよ! 兵士の指揮を執っている最高責任者は今はシンだよね? つまりシンの方が過失が大きいじゃないか。アスターを処罰するならシンもだよ」
 息巻いて熱弁するロゼアラ。信頼する従者を庇う為むきになりすぎているのだろう、いつもは鈴の鳴るようなか細い声を大きくして牙を剥いてきた。……産まれたての子猫の牙だが。
「可愛く無いな。いつの間にそんな生意気な口を利くようになったんだ」
 頭ひとつ分低いロゼアラを見下ろすように目を眇めて腕を組んだ。
「……シンはこんな僕は嫌い?」
 ロゼアラはこれ見よがしな態度の俺の様子に先程までの威勢を瞬時に消して、こちらの顔色を窺うような、慎重な口振りになった。
 俺に怯えているのだ。
 ロゼアラは気は強いものの内向的でここぞという時に意志を曲げてしまう脆弱性がある。それは第二性の性質も関係しているのだろう。けれどそれにしてもロゼアラはそれが顕著だ。俺にそんなつもりが無い時でもロゼアラは俺に何かしらの負荷を感じている節がある。それがわかっているから普段は衝突しないように一線引いた態度でいるのだが、ロゼアラのつい出てしまう好戦的な一言で俺も厳しい言動を取ってしまう。
 第二性アルファの特性で姿形こそ立派な成人に見える俺だが、中身は十九歳という年相応の青臭いガキなのだ。ロゼアラ以外の人間相手には決して見せない欠点を、ロゼアラ相手だと自重できなくなる。
 俺はため息をついた。襲撃の余波で足元に滑り落ちたロゼアラの大判の肩掛けを拾い上げる。
「ほら、肩掛けが落ちているぞ。これをずっと掛けておけと言っただろう。髪も乱れている。せっかくの美人が台無しだ」
 気持ちを切り替える必要を感じて、心を押さえ込む。ロゼアラに憂鬱な顔をさせるのは本意ではないのだ。ロゼアラには笑っていてほしい。
「可愛くないって言ったくせになにが美人なの…」
 ロゼアラは拗ねたように口を尖らせた。子供じみた仕草だが、それが妙に似合ってしまうのがロゼアラだ。実際の年より幼く見えるその顔を計算してやってるわけではないから手に負えない。
「膨れっ面はやめて笑え。この後はもう予定はないんだろう? 少し着崩れている。整え直すよりは寛げる服に着替えた方が早そうだな。エマ、ロゼアラを部屋へ連れて行って着替えさせろ。それから茶でも飲ませて落ち着かせた方がいい。それか風呂にでも入れて身体を温めてやるのもいいか?」
 騒ぎに慌てて駆けつけていたロゼアラの側仕えの女官へ矢継ぎ早な指示を出す。
「シン…」
 ロゼアラは頼りない視線で俺を見上げてきた。
「怖かっただろう。まだ身体が震えている」
 華奢な両肩に手を乗せると、ロゼアラの身体は小刻みに震えていた。荒事とは無縁の守られるべき存在のロゼアラ。襲撃の動揺を短時間で収められるはずもないだろう。
「うん…」
「後でお前の好きな甘いものを届けさせる。それを食べて今日はもう部屋から出るな。部屋の前にいつもより多めに警護の者を配置しよう。これで安心して休めるだろう。ほら、しっかり身体を包め。肩が冷えては身体に障る」
 いつまでも受け取ろうとしない肩掛けを俺が代わりにロゼアラへと掛けてやる。
「シン、これじゃ歩けないよ」
 しっかりと肩掛けを全身に巻いてやっているとロゼアラから静止の声がかかる。けど俺は手を止めない。
「いつまでもそんな服を着ているからだ。いい加減もっとましな服にしてはどうだ。神の衣装かなにか知らないが、この服は余りに奇抜すぎる」
 ロゼアラが身にまとう着衣は露出多めの誂えだ。異国の民族衣装のようだが、幅広の帯や紐で布を止めて整える仕立ては、肩や脚の付け根を晒す扇状的な装いで、異国情緒といえば聞こえが良いが、肌を隠す事が美徳とされるこの国では下品の部類だろう。それを年頃のオメガのロゼアラに着せてその姿を衆目に晒すことは俺にとって眉を顰めるくらいには配慮に欠ける行為だ。
「まったくあいつらはいつまでロゼアラにこの格好をさせておくつもりなんだ。悪趣味にも程があるだろう。ロゼアラ、お前も本当はこの服を着る事が嫌なんじゃないか? 二年前の子供だった時はともかく今のお前は成熟したオメガなんだ。少しは周りの目を気にしろ」
「で、でもこの服を着ていないとみんな僕の事を好きじゃなくなるかも知れないから…」
 ロゼアラは俺の視界から逃げるように目を伏せた。
 揺らいだ。最近は見せなくなったロゼアラの不安定さが顔を覗かせている。そう察して俺は首を横に振った。
「お前の価値はこの服じゃないだろう。どんな服を着ていてもお前はお前だ。自信を持て」
 俺は説教をしたいわけでも追い詰めたいわけでもない。前を向いて欲しいだけだ。
「シン…」
 それをわかってくれたのかロゼアラは縋るような目で俺を見上げてきた。
「よし、納得したな。お前が納得したならさっそくこの服を着ることを辞める事を言いに行くぞ」
「え? 今から?」
「いちいち許可を取る必要があるのかわからないが、後であれこれ口を出されるのも面倒だから先に言質を取っておくんだ」
 そう宣言するがロゼアラはやはり乗り気ではない。ここは強引に話を進めた方が良さそうだな。
「お前が言いにくいというなら俺が掛け合おうか。そうだ、それがいいな。待ってろ、ロゼアラ。あいつに会ってくる」
「え? ちょっと、シン? 待ってよ! ねぇってば! シン、僕の話も聞いてよ!」
 あいつに頼み事をするのは癪に障るが、ロゼアラの為になら一肌脱いでも構わない。
 だいたい精神年齢の低いロゼアラにこんな淫らな格好をさせて、何を考えているのだ。これは立派な虐待じゃないか。あいつの押し付けなんだろうが全く見下げ果てた根性をしているな。
「お前はこいつのオカンか」
「フリュウ!」
 何かを主張するロゼアラを振り切ってこの場を去ろうと足を踏み出した俺に呆れた声がかかった。ロゼアラは声の主の名を嬉しそうに呼ぶ。
「お前が狙われたと聞いた。その様子だと無事のようだが、本当にどこも怪我は無いか?」
 本城へ続く通路から姿を現したのは猛獣の鬣を彷彿とさせる金髪と碧眼を持つ筋骨逞しいアルファの男。この国に君臨する、俺の父でもあるフリュウ。真っ直ぐにロゼアラへと近づくとその細い腰を引き寄せて腕の中へと閉じ込める。
 後ろに流された前髪が少し乱れているのは、ロゼアラが襲撃されたと知って急いで駆けつけたからか。この時間は執務室に篭って政務中だ。だからか上着も着もせずにシャツとズボンの軽装姿だ。帯剣する時間も惜しかったのだろう、左手に愛用の剣を握りしめている。
「アスターとシンが守ってくれたから僕は擦り傷一つ無いよ」
 ロゼアラは父の腕の中で大人しくしている。父に向けるその目は全幅の信頼を寄せた相手に対する安心しきったもの。
「そうか。二人ともロゼアラをよく守ってくれた。礼を言う」
 顔だけこちらに向けて朗らかに笑った。余裕のある大人の顔だ。けれどその目は恐ろしく真摯で、ロゼアラの無事を心から案じていたと物語っている。
「ねぇ、フリュウ。って何?」
 ロゼアラが父を見上げて甘えるように尋ねている。
「あ~、さすが育ちがいいな…」
 父は頭を掻きながら説明しあぐねている。まさかそこに食いつかれるとは思ってなかったらしく意表をつかれた顔で言葉を濁した。
「エマは知ってる?」
 答えてくれなそうな雰囲気にロゼアラは質問の相手を変えた。
「私にもわかりかねます」
 側で控える女官は困ったように答えた。彼女は伯爵家の令嬢だから下々の言葉などわからないのも頷ける。
「アスターは? わかる?」
 らちが開かないと更にロゼアラは自分の従者へと質問を投げかける。
「必要以上に世話を焼きたがる人の総称です」
 アスターは極めて簡潔にその言葉の意味を答えた。
「へぇ、初めて知った…。なるほど。確かにシンはだね」
「ロゼアラ、その言葉は忘れるんだ」
 憮然と呟く俺に、ロゼアラはどこ吹く風と顔を緩める。
「ふふ。だってシンは僕の面倒をよくみてくれているじゃない。初めて会った時もそうだった。下町の皆んなに慕われてて人気者だったよね。きっとシンの面倒見のいいところを皆んな好きになっちゃうんだよ」
 無邪気に笑うんじゃない。
 俺はがっくり肩を落とす。
「いつまでも子離れできねぇめんどくさいオカンだけどな。まさか『冷徹なる月の貴公子』なんて恥ずい二つ名で呼ばれているこいつの中身がただの心配性のオカンだとは皆思わねぇだろうな」
 父が人の悪い笑みで揶揄ってくる。誰がつけたのか俺は巷でその二つ名で呼ばれる事がある。
「それ聞いたことあるよ。礼拝に来る女の子達がシンを見つけるときゃあきゃあ騒ぐから僕にも聞こえちゃうんだ。シンは美形だし背も高くて完全無欠の王子様だから騒いじゃうあの子達の気持ちもわかるよ。でもお月様かぁ。シンにはお日様の方が似合ってるよ。キラキラの髪の毛、太陽みたいに輝いてすごく綺麗だもの」
 ロゼアラは蕩けるように微笑んだ。あいつの腕の中じゃなければケチのつけようの無い笑顔だ。
「月はお前だな。この髪と瞳は夜を思わせる漆黒。その瞳の中で瞬く遊色は夜空の星だ。満天に輝く星を閉じ込めたその瞳を持つお前はさしずめ静かに光を湛える孤高の月だ。ロゼアラ、お前は貴重な存在だ。お前が俺の唯一であることを幸運に思う。お前を誰にも渡さない」
「フリュウ…」
 見つめ合いぴったりと寄り添う二人。ロゼアラはうっとりと甘く父の名前を呼ぶ。
 はいはい、イチャつくのはここまでー!、と空気を壊すような真似ができる人物が俺を含めここにいない事が悔やまれる。
 女官のエマも従者のアスターも余計な口は挟まない生真面目な従僕だ。俺は俺で隙あらば砂を吐きそうな世界を作り上げる二人をとっくに見放しているので好きにやってもらっている。
 けど心の中は罵詈雑言の嵐だ。
 何が唯一だ。何が誰にも渡さないだ。
 ロゼアラは物じゃないんだ。
 所有者ぶってお前はロゼアラの何様だ。
 大体お前の唯一はロゼアラの生みの親の大公家の内儀じゃなかったのか。あれほど腫れた惚れたと引き取ったばかりの俺に力説したくせに、ころっと宗旨替えしやがって。
 そもそも俺がオカンならお前はロゼアラの忠犬じゃないか。ロゼアラの願いを何でもかんでも叶えて甘やかすだけ甘やかして尻尾を振って媚びやがって。いい大人がロゼアラみたいな子供相手にみっともない。
 ロゼアラもロゼアラで少しは恥じらいを見せてはどうなのだ。こんな公衆の面前で臆面もなく甘い世界を作ってるんじゃない。そういうのは二人きりの時だけにしろ。
「でも本当、シンはそんな仏頂面より、笑顔の方が絶対にモテると思うよ。今のシンはすごく恰好良いけど近寄りがたい雰囲気があるもの。だからお月様だなんて言われちゃうんだ。昔みたいにもっと笑ってくれると親しみやすくなって女の子達にもっと騒がれるんじゃないかな」
 心の中で悪態を繰り広げる俺にロゼアラは罪なく言った。
「………」
 その言葉はロゼアラの素直な気持ちなのだろう。けど俺には何も答えることができない。

 ロゼアラは気づいているのだろうか。俺たちがこの国の民に憎まれている事を。
 冷徹なる月。それは無慈悲で冷酷の意味を込めた蔑称だ。貴族階級の婦女子が語感の良さだけで浮かれて騒ぎ立てるが、本来の意味を彼女達は知らないのだろう。
 身分制度による格差社会を助長させ国の腐敗と混迷を引き起こした傾国の神子・悪戻のロゼアラと、それを支える為政者・狂王フリュウが君臨する堕ちた国。俺はその国の王太子で罪なき民を断罪する悪戻の手先・冷徹なる月の『悪魔』。
 ロゼアラの信奉するムルトフ・ロラの教えに反する者達を捉え迫害を行う。その指揮を執り続ける俺に恐怖と侮蔑を込めて名付けられた忌み名。貴公子なんていうのは耳障りを良くしたい誰かが恣意的に歪め広めた別名だろう。
 その二つ名の本当の意味を知った時もロゼアラは俺に笑えと無邪気に願うのだろうか。

「あの、シン。ありがとう。守ってくれて」
 押し黙った俺へ、少し気まずそうにロゼアラがおずおずと先ほどの礼を口にした。父は騒ぎの経緯の説明を受けるために少し離れた場所で側近達と話をしている。
「…気にするな。俺たちは友達だからな」
 気を使わせている。そう悟って俺はロゼアラの負担にならない言葉を選んだ。
「うん…! シンは僕の一番の友達だよ! これからもずっと側にいてね」
 曇り空が晴れるような笑顔でロゼアラは残酷に願う。
 俺は苦く口籠る。
 誰に言われなくてもそばを離れるつもりはない。たとえロゼアラがすでに他の誰かのものでも。
 ロゼアラと初めて知り合ったあの時、友達だと言った気持ちは本心で、今だってそれは変わらない。
 ロゼアラを取り巻く運命は過酷で、だから俺は覚悟を決めた。
 ロゼアラが悪ならば俺はそれごと受け止めて、何を犠牲にしてもロゼアラの笑顔を守り抜こうと。
 それが何もかもが手遅れで、ロゼアラに対してただひとつ許された、俺が出来る精一杯の想いの示し方だからだ。




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