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流れ星に三度の願いをこめて 2
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目を開けば朝だと判明した。
思ったよりぐっすりと寝ていたようだ。
ごろ、と寝相を変えれば椅子に座ったまま目を閉じているウィリディスに気が付いた。
リューイが寝るまでそばにいたばかりか、そのまま寝ていたらしい。体を起こしてベッドから静かに降りて様子を見つめた。
寝息を立てている。足元にしゃがみこんで寝顔を見める。
「ウィル…ウィール…」
何度も名前を呼んではリューイの顔に笑みが浮かぶ。
むずかゆいけれどふわふわと心が温かくなる。
「俺、ちょろいよね…名前教えてもらったぐらいでこんなに喜んじゃうなんて」
足にそっと手を置いて少し背伸びする。
寝ているからいいだろうかと思案しそれでも止めることができない。
「ウィル…起きて」
口づけて目を覚ますのを待った。少しまぶたが動けばゆっくりと目が開く。
間近で見た緑色の瞳が朝日にきらめく。そのまま見続けていれば意識が浮上したらしいウィリディスの瞳が丸くなった。
リューイはその表情を見て満足したのか体を放した。
「おはよう、ウィル」
「あ、あぁ…元気になったのか」
「うん。ごめんね。大丈夫ってほどじゃないけど」
「そうか」
ウィリディスは自分の唇に触れた。なにかが触ったような気がするが気のせいだろうか。
リューイは洋服はないかと探している。
「リューイ、電話はできそうか」
「フィーディス以外なら」
「わかった。服を持ってくる。それまで話しているといい」
自分の端末のロックをはずしてリューイに渡す。リューイはそこから自分の番号を呼び出し、ベッドに腰かけて暫し待つ。
ウィリディスは部屋を出ていくとリューイの服を探しに行った。出かける用意をせずにここにきてしまったため、自分のものもそうだがリューイに必要なものが全く持ってない。
執事に頼むか、と朝の仕事をしているであろう場所へと探しに向かった。
『せんせ?おはよう』
「おはよう、レックス」
『……リュー兄!』
「しー…レックス、朝早いんだから。シルバやクラルスは?」
『今ね、隣にいるよ。シルバが起きた』
「そう…フィーディスは?」
『……ベッドじゃなくてソファで寝てる』
「わかった…」
電話口に出た声は眠そうであったがリューイの声を聴くと声に勢いがついた。
どれだけ心配をかけてしまったのだろうかと思う。
リューちゃん、と声がする。電話に出たレックスはどうやら端末をベッドに置いたらしい。音量を上げて全員にリューイの声が届くようになっているようだ。
『リューちゃん、元気?痛いところない?』
「ないよ、シルバ。ごめんな、三人に心配かけて」
『ううん』
大丈夫、と言いかけたのはレックス。少し言葉をもごもごとつぶやいているがリューイには届かない。
どうした?と聞き返せば少しの間端末の向こう側が静かになる。
『…ごめんね、リュー兄…俺たち今までなんも手伝ってこなかった』
「どうした、いきなり」
『僕たちが言うこと聞かないからリュー兄、怒って出て行っちゃったんだじゃないかって…思って』
『りゅーちゃ?』
クラルスの声が混ざる。レックスは、ずずずっと鼻をすすっている。
今度はリューイが何も言えなくなった。違う、そうではないのだ、と伝えたい。
レックスもシルバもリューイが働きに出ている間クラルスの面倒をよく見ていたと思う。本当は外で遊びたかっただろう。
確かに正直なところ三人に怒りを抱いたことはあった。でもそれを表には出さないように努めたし、気づかれていないだろうと思ってもいた。彼らといる時間が大事だったからだ。傷つけるようなことはしたくなかった。
「違うよ、レックス、シルバ…それは違う。二人ともクラルスの面倒いっぱい見てくれてるだろ?今回な…ちょっとフィーディスと喧嘩しちゃって、頭冷やすために俺が出ていったんだ」
『リューちゃんとフィーちゃんが喧嘩…?』
『どうして?二人とも仲がいいのに』
「うん…いろいろ、あったんだ」
詳しい話はできない。できるはずもない。
家族なのだと、少なくともリューイは思っていたのに、フィーディスからはそう思われてなく、無理やり体を重ねたことなど知る必要はない。知るにしても、まだ早い。
「少しだけ、せんせーと一緒にいるから…頭冷やして戻るよ」
『リューちゃん…』
「レックス、シルバ、クラルス。お土産買って戻るよ。何がいい?」
わざと明るい声を出した。
床に向けていた視線を上げればドアが開いてウィリディスが入ってくるところだった。
『僕ね、車のおもちゃと図鑑がいい!』
『図鑑といえばあの本きっと先生が買ってきてくれたんだよね』
『えほんー』
絵本?と首を傾げれば三人の声を漏れ聞いたウィリディスがうなずいた。
どうやらリューイの知らぬ間に買ってきたらしい。
「せんせーが買ってきてくれたみたいだよ。帰ったらちゃんとお礼してね」
『うん!』
ウィリディスには彼らの嬉しそうな声が聞こえているから必要ないかもしれない。
くすくすと笑って、また連絡するよ、と告げて通話を終えた。
ベッドに洋服を置いたウィリディスはリューイを見つめる。
「ウィル、ありがとう。みんな喜んでるみたいだよ」
「それは何より。服だが、俺がかつて着ていたものしかなかった…買いに行かせるにしても時間がかかるから、少しこれで我慢してくれ」
なんの装飾もない白いシャツとデニムのパンツ、リューイは体に合わせてみたがちょうどよさそうだった。
のそのそと夜着を脱いで着替え始めたリューイから視線を背け端末で連絡を確認する。
セリーニから、レナータが明日戻るときていた。フォートからピータがくるまでは番とともに泊まるが構わないかという確認である。
どちらにも返信していれば後ろから、ぐぅっ、と切ない音がした。
「朝食ができていた。食べに行くか」
「うん」
腹を押さえたリューイがうなずく。
連れ立って部屋を出れば食事があった部屋へと向かう。家族のみでの食事のため、自宅のリビングより多少広いその部屋にはコーヒーの香りが漂っていた。
父の好みで朝はいつもパンが並ぶ。様々な形のパンに好きな具材を挟んでサンドイッチにするのは母だし、兄はジャムを塗っていた。父はハムやチーズを好む。
両親と自分、そしてリューイの椅子が並ぶ。一つ足りない。
「兄さんは?」
「なんでも会社の方でトラブルがあったからとお前と入れ違いで都市へ向かった。パーティまでには戻ってくるそうだよ」
リューイは何で食べようかときょろきょろしている。
気になるものを見つけたのか視線が少し遠くへ行く。母の前にあるオレンジのジャムが気になったようだった。
とっていいだろうか、と考えているようでちら、とウィリディスに視線を向けた。
ウィリディスは父と同じくチーズとハムを乗せてそれを食べかけつつリューイからの視線に気づいた。
「…何か欲しいものがあったか?」
「えと…」
リューイは視線をジャムへと向ける。同じように視線をたどればジャムがある。
「母さん、目の前にあるジャムをリューイが欲しいようなんだが」
「あら、あらあら。はい、どーぞ。これねぇ、近くの農園のオレンジで作られてるの。少し酸味があるんだけど食べるとお口の中がさわやかになるわよぉ」
「あ、ありがとう…ございます」
ジャムを受け取り一口サイズにちぎった食パンにジャムを塗る。
ぱくりと頬張れば口の中にさわやかな酸味が広がった。生の果肉も入っており時折口の中でプチッとはじける。
おいしかったのだろうか、顔をとろけさせてまた食パンに塗って頬張っている。
「うまいか、リューイ」
「うん!すごくおいしい」
「そうか」
「ウィルは何が好き?」
「俺はあちらのクリームだな。あれも近くの農園で作られた牛乳をもとにしてできている」
目の前の二人の会話にアクティナは目を見開いた。
息子は名前を呼ばれるのが好きではない。彼は息子の名前を知らない数少ない存在だと聞いていたのにいったいいつ告げたのだろうか。
「アクティナ、本当に彼は特別なお客さんだね」
「…本当ね。私たちの息子のあんなに穏やかな顔はいつ以来かしら。リューイくん、このまま番にならないかしらぁ」
「難しいかもね、今のままだと」
そうよねぇ、とアクティナはつぶやく。
息子の穏やかな空気が好ましい。クリームをつけてパンを頬張る隣の彼に感化されたのだろうか。
「おいしかった」
「それはよかったわ。で、今日はどうするの」
「研究書を持ってきてないからひとまずリューイの服を買いにいく」
リューイは隣の顔をみた。
買いに行ける場所は少し遠いという。それよりもむしろ自分のせいで彼を突発的につれてきてしまったのだと理解した。
彼は大事な研究をしているというのに、帰りたくないと自分がわがままを言わなければ今日もきっと研究室に行けていたのだろう。
「ごめんなさい…」
「なにを謝る?」
「研究の邪魔をして」
「…いい。今はお前の方が大事だろう。拾ったものの面倒は見なければな」
大事と言われリューイの顔が赤くなる。だが彼のことだからきっとそこに変な意味はないだろうと思い直せばリューイは顔を曇らせた。
アクティナは二人のやり取りを見つつわずかに笑う。
「ねぇ息子くん。その子貸して?」
「母さんはなにするかわからないからだめだ」
「なにもしないわ」
「それでも」
「新しい研究書が入ったわ、大昔のものも。どう?」
ウィリディスは言葉につまる。読みたいという欲求が強くある。
しかしリューイをひとりにはしたくない。迷う様子を見たリューイは笑い口を開いた。
「俺なら大丈夫だよ、ウィル。俺のせいで研究を止めてるわけだし、気にしないで」
「ほら、彼もそう言ってるし」
「…リューイ」
ね?と笑いかければ迷った末にウィリディスはわかったとうなずいた。
変なことはしないように、と母に強く告げる。大丈夫よ、とうなずかれて食事を終える。
リューイが使う客間に戻りつつウィリディスはリューイを見下ろした。ふとリューイが顔を上げて目があった。
「ね、ウィル。そばに農園とか牧場あるの?」
「あぁ…都市部へ買い物に行くのは時間がかかりすぎるから昔から周囲で営んでいる」
それを聞いたリューイの目が子供のように輝いた。行きたいのだろうか。
しばらく見つめあっていればどのみち時間はあることを思い出す。うなずいて見せれば、ありがとう!と嬉しそうに笑った。
「母さんのことだから何も変なことはないと思うが…」
「大丈夫。むしろ俺がいっぱいウィルのこと聞くかもよ?」
「聞いても面白いことはないぞ」
「そんなのわからないじゃん」
客間に着けば自分は出かける用意をしなければならない。
無言でリューイを見ていたが、リューイのほうは鼻歌まじりにベッドのほうに向かう。
そのあとを少しだけ足早に追いかけ、リューイの腕をとる。いきなりのことに目を丸くして振り向いたリューイを抱きしめて耳元に唇を寄せた。
「ひゃっ?!う、ウィル…なにして…」
「…一応、念のため、だ…」
「なにが」
リューイの言葉は途中で切れた。そのやわらかな耳たぶを軽く食めばリューイは肩をすくめる。
舌を差し入れてなめればリューイから小さく声が上がる。やめさせようと腕にリューイの手が触れるがまったく力が入っていない。
「ゃ…せんせ…」
「…すまない」
「もう…どうしたの?」
頬を少し上気させリューイは見上げる。ウィリディスは自分でも困惑していた。理由はなんとなく、こうであろう、とは思っているのだがそれを口にするのは憚られる。
嫌な気持ちにさせてしまったのだろうか、とリューイが眉を下げるのが見えた。
「母さんのことだから、変なことはしないとは思っているんだが…」
リューイのほほに触れれば眉を下げたそのままの表情で見つめてくる。
いま一度触れそうになる自分を抑えて手を放す。
「番のいないαは俺と母さんたちだけだ。リューイに手出しされないように、少し匂いをつけた。いやだったろう?」
「へ…」
「しいて言うならばマーキングというやつか」
「は…?」
開いた口がふさがらない。わかっているのかいないのか、彼の言葉にリューイのほほは火照りっぱなしである。
ドキドキとする胸を必死でなだめながらぐいぐいとその体を押して部屋の外に出す。
「ほら、早く服買いに行かないと本読むひまなくなるよ?」
「そうだな」
「俺なら大丈夫…ね?」
ウィリディスはリューイを見つめる。子供扱いされているようでリューイはむずかゆい。
大丈夫だよ、ともう一度告げるとようやくウィリディスは部屋を出ていった。扉を閉めてリューイはしゃがみこむ。
口から心臓が出そうだった。本人はきっと自覚などしていないだろうが、マーキングされたリューイからしてみると、彼の母親と話すだけで嫉妬でもされたのだろうか、なんて思ってしまう。
リューイの身を案じてだと思う。それでもうれしかった。心配をかけてしまうのは本意ではないが、彼の気持ちがうれしいのだ。
噛まれた耳たぶに触れて小さく息を吐き出した。自分ではどのくらいαの香りがついているのかなんてわかりはしない。ただ、彼の香りがあるというのはうれしく思えた。
「リューイくん、入るわねぇ」
「はーい」
客間の扉が開けば後ろにメイドを従えたアクティナがいた。
彼女はメイドたちを先に部屋に入れる。リューイはメイドたちがテーブルの上に紅茶のポットやカップを並べていくのを見つめた。
皿には小さなチョコレートがいくつも並んでいる。
「チョコはお好き?」
「…食べることあんまりなかったけど、甘いものならたいていは好き、です」
「ふふ、息子くんいないから緊張してるのね?」
アクティナは楽し気な様子である。メイドはテーブルセッティングを終えると静かに部屋を出て行ってしまった。
アクティナと二人きり、リューイは緊張の面持ちである。
「実はね、リューイくんに都市での息子くんの話を聞きたかったの。いいかしら」
「ウィ…せんせーのこと?」
「あら、名前で呼ばないの?」
アクティナは首を傾げた。座って、と示されてリューイはテーブルのそばの椅子に腰かける。
アクティナも椅子を持ってきてはリューイの正面に座った。自らポットを手にしてリューイのカップに紅茶を注ぐ。甘いキャラメルの香りが漂った。
「いいのよ、名前で呼んでも。息子くんが教えたのでしょう?」
「…呼ぶのは、せんせーと二人きりのときがいい…」
ぽつりとリューイはこぼした。先ほど朝食の時に名前で呼んでいたが目の前にいたはずの自分や夫であるアカテスの姿は眼中になかったということか。
ふふ、と笑っているアクティナをリューイはどうしたのだろうかと見つめてくる。どうやら自覚はなかったようだ。
「そうなの。なら、二人きりのときに呼んであげて。きっと喜ぶわ」
「そうかな…そうだと、いいけど」
名前を教えてもらって浮かれているのは自分である。嫌がられてもいないし、呼べば返事もしてくれる。
喜んでいるかどうかはまた別の話だろう。
「さぁ、リューイくん。お昼の時間まで私にいろんなことを教えて頂戴ね」
アクティナはカップを手に微笑んだ。
リューイは少し圧に飲まれながらうなずいた。
思ったよりぐっすりと寝ていたようだ。
ごろ、と寝相を変えれば椅子に座ったまま目を閉じているウィリディスに気が付いた。
リューイが寝るまでそばにいたばかりか、そのまま寝ていたらしい。体を起こしてベッドから静かに降りて様子を見つめた。
寝息を立てている。足元にしゃがみこんで寝顔を見める。
「ウィル…ウィール…」
何度も名前を呼んではリューイの顔に笑みが浮かぶ。
むずかゆいけれどふわふわと心が温かくなる。
「俺、ちょろいよね…名前教えてもらったぐらいでこんなに喜んじゃうなんて」
足にそっと手を置いて少し背伸びする。
寝ているからいいだろうかと思案しそれでも止めることができない。
「ウィル…起きて」
口づけて目を覚ますのを待った。少しまぶたが動けばゆっくりと目が開く。
間近で見た緑色の瞳が朝日にきらめく。そのまま見続けていれば意識が浮上したらしいウィリディスの瞳が丸くなった。
リューイはその表情を見て満足したのか体を放した。
「おはよう、ウィル」
「あ、あぁ…元気になったのか」
「うん。ごめんね。大丈夫ってほどじゃないけど」
「そうか」
ウィリディスは自分の唇に触れた。なにかが触ったような気がするが気のせいだろうか。
リューイは洋服はないかと探している。
「リューイ、電話はできそうか」
「フィーディス以外なら」
「わかった。服を持ってくる。それまで話しているといい」
自分の端末のロックをはずしてリューイに渡す。リューイはそこから自分の番号を呼び出し、ベッドに腰かけて暫し待つ。
ウィリディスは部屋を出ていくとリューイの服を探しに行った。出かける用意をせずにここにきてしまったため、自分のものもそうだがリューイに必要なものが全く持ってない。
執事に頼むか、と朝の仕事をしているであろう場所へと探しに向かった。
『せんせ?おはよう』
「おはよう、レックス」
『……リュー兄!』
「しー…レックス、朝早いんだから。シルバやクラルスは?」
『今ね、隣にいるよ。シルバが起きた』
「そう…フィーディスは?」
『……ベッドじゃなくてソファで寝てる』
「わかった…」
電話口に出た声は眠そうであったがリューイの声を聴くと声に勢いがついた。
どれだけ心配をかけてしまったのだろうかと思う。
リューちゃん、と声がする。電話に出たレックスはどうやら端末をベッドに置いたらしい。音量を上げて全員にリューイの声が届くようになっているようだ。
『リューちゃん、元気?痛いところない?』
「ないよ、シルバ。ごめんな、三人に心配かけて」
『ううん』
大丈夫、と言いかけたのはレックス。少し言葉をもごもごとつぶやいているがリューイには届かない。
どうした?と聞き返せば少しの間端末の向こう側が静かになる。
『…ごめんね、リュー兄…俺たち今までなんも手伝ってこなかった』
「どうした、いきなり」
『僕たちが言うこと聞かないからリュー兄、怒って出て行っちゃったんだじゃないかって…思って』
『りゅーちゃ?』
クラルスの声が混ざる。レックスは、ずずずっと鼻をすすっている。
今度はリューイが何も言えなくなった。違う、そうではないのだ、と伝えたい。
レックスもシルバもリューイが働きに出ている間クラルスの面倒をよく見ていたと思う。本当は外で遊びたかっただろう。
確かに正直なところ三人に怒りを抱いたことはあった。でもそれを表には出さないように努めたし、気づかれていないだろうと思ってもいた。彼らといる時間が大事だったからだ。傷つけるようなことはしたくなかった。
「違うよ、レックス、シルバ…それは違う。二人ともクラルスの面倒いっぱい見てくれてるだろ?今回な…ちょっとフィーディスと喧嘩しちゃって、頭冷やすために俺が出ていったんだ」
『リューちゃんとフィーちゃんが喧嘩…?』
『どうして?二人とも仲がいいのに』
「うん…いろいろ、あったんだ」
詳しい話はできない。できるはずもない。
家族なのだと、少なくともリューイは思っていたのに、フィーディスからはそう思われてなく、無理やり体を重ねたことなど知る必要はない。知るにしても、まだ早い。
「少しだけ、せんせーと一緒にいるから…頭冷やして戻るよ」
『リューちゃん…』
「レックス、シルバ、クラルス。お土産買って戻るよ。何がいい?」
わざと明るい声を出した。
床に向けていた視線を上げればドアが開いてウィリディスが入ってくるところだった。
『僕ね、車のおもちゃと図鑑がいい!』
『図鑑といえばあの本きっと先生が買ってきてくれたんだよね』
『えほんー』
絵本?と首を傾げれば三人の声を漏れ聞いたウィリディスがうなずいた。
どうやらリューイの知らぬ間に買ってきたらしい。
「せんせーが買ってきてくれたみたいだよ。帰ったらちゃんとお礼してね」
『うん!』
ウィリディスには彼らの嬉しそうな声が聞こえているから必要ないかもしれない。
くすくすと笑って、また連絡するよ、と告げて通話を終えた。
ベッドに洋服を置いたウィリディスはリューイを見つめる。
「ウィル、ありがとう。みんな喜んでるみたいだよ」
「それは何より。服だが、俺がかつて着ていたものしかなかった…買いに行かせるにしても時間がかかるから、少しこれで我慢してくれ」
なんの装飾もない白いシャツとデニムのパンツ、リューイは体に合わせてみたがちょうどよさそうだった。
のそのそと夜着を脱いで着替え始めたリューイから視線を背け端末で連絡を確認する。
セリーニから、レナータが明日戻るときていた。フォートからピータがくるまでは番とともに泊まるが構わないかという確認である。
どちらにも返信していれば後ろから、ぐぅっ、と切ない音がした。
「朝食ができていた。食べに行くか」
「うん」
腹を押さえたリューイがうなずく。
連れ立って部屋を出れば食事があった部屋へと向かう。家族のみでの食事のため、自宅のリビングより多少広いその部屋にはコーヒーの香りが漂っていた。
父の好みで朝はいつもパンが並ぶ。様々な形のパンに好きな具材を挟んでサンドイッチにするのは母だし、兄はジャムを塗っていた。父はハムやチーズを好む。
両親と自分、そしてリューイの椅子が並ぶ。一つ足りない。
「兄さんは?」
「なんでも会社の方でトラブルがあったからとお前と入れ違いで都市へ向かった。パーティまでには戻ってくるそうだよ」
リューイは何で食べようかときょろきょろしている。
気になるものを見つけたのか視線が少し遠くへ行く。母の前にあるオレンジのジャムが気になったようだった。
とっていいだろうか、と考えているようでちら、とウィリディスに視線を向けた。
ウィリディスは父と同じくチーズとハムを乗せてそれを食べかけつつリューイからの視線に気づいた。
「…何か欲しいものがあったか?」
「えと…」
リューイは視線をジャムへと向ける。同じように視線をたどればジャムがある。
「母さん、目の前にあるジャムをリューイが欲しいようなんだが」
「あら、あらあら。はい、どーぞ。これねぇ、近くの農園のオレンジで作られてるの。少し酸味があるんだけど食べるとお口の中がさわやかになるわよぉ」
「あ、ありがとう…ございます」
ジャムを受け取り一口サイズにちぎった食パンにジャムを塗る。
ぱくりと頬張れば口の中にさわやかな酸味が広がった。生の果肉も入っており時折口の中でプチッとはじける。
おいしかったのだろうか、顔をとろけさせてまた食パンに塗って頬張っている。
「うまいか、リューイ」
「うん!すごくおいしい」
「そうか」
「ウィルは何が好き?」
「俺はあちらのクリームだな。あれも近くの農園で作られた牛乳をもとにしてできている」
目の前の二人の会話にアクティナは目を見開いた。
息子は名前を呼ばれるのが好きではない。彼は息子の名前を知らない数少ない存在だと聞いていたのにいったいいつ告げたのだろうか。
「アクティナ、本当に彼は特別なお客さんだね」
「…本当ね。私たちの息子のあんなに穏やかな顔はいつ以来かしら。リューイくん、このまま番にならないかしらぁ」
「難しいかもね、今のままだと」
そうよねぇ、とアクティナはつぶやく。
息子の穏やかな空気が好ましい。クリームをつけてパンを頬張る隣の彼に感化されたのだろうか。
「おいしかった」
「それはよかったわ。で、今日はどうするの」
「研究書を持ってきてないからひとまずリューイの服を買いにいく」
リューイは隣の顔をみた。
買いに行ける場所は少し遠いという。それよりもむしろ自分のせいで彼を突発的につれてきてしまったのだと理解した。
彼は大事な研究をしているというのに、帰りたくないと自分がわがままを言わなければ今日もきっと研究室に行けていたのだろう。
「ごめんなさい…」
「なにを謝る?」
「研究の邪魔をして」
「…いい。今はお前の方が大事だろう。拾ったものの面倒は見なければな」
大事と言われリューイの顔が赤くなる。だが彼のことだからきっとそこに変な意味はないだろうと思い直せばリューイは顔を曇らせた。
アクティナは二人のやり取りを見つつわずかに笑う。
「ねぇ息子くん。その子貸して?」
「母さんはなにするかわからないからだめだ」
「なにもしないわ」
「それでも」
「新しい研究書が入ったわ、大昔のものも。どう?」
ウィリディスは言葉につまる。読みたいという欲求が強くある。
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「俺なら大丈夫だよ、ウィル。俺のせいで研究を止めてるわけだし、気にしないで」
「ほら、彼もそう言ってるし」
「…リューイ」
ね?と笑いかければ迷った末にウィリディスはわかったとうなずいた。
変なことはしないように、と母に強く告げる。大丈夫よ、とうなずかれて食事を終える。
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「ね、ウィル。そばに農園とか牧場あるの?」
「あぁ…都市部へ買い物に行くのは時間がかかりすぎるから昔から周囲で営んでいる」
それを聞いたリューイの目が子供のように輝いた。行きたいのだろうか。
しばらく見つめあっていればどのみち時間はあることを思い出す。うなずいて見せれば、ありがとう!と嬉しそうに笑った。
「母さんのことだから何も変なことはないと思うが…」
「大丈夫。むしろ俺がいっぱいウィルのこと聞くかもよ?」
「聞いても面白いことはないぞ」
「そんなのわからないじゃん」
客間に着けば自分は出かける用意をしなければならない。
無言でリューイを見ていたが、リューイのほうは鼻歌まじりにベッドのほうに向かう。
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「ひゃっ?!う、ウィル…なにして…」
「…一応、念のため、だ…」
「なにが」
リューイの言葉は途中で切れた。そのやわらかな耳たぶを軽く食めばリューイは肩をすくめる。
舌を差し入れてなめればリューイから小さく声が上がる。やめさせようと腕にリューイの手が触れるがまったく力が入っていない。
「ゃ…せんせ…」
「…すまない」
「もう…どうしたの?」
頬を少し上気させリューイは見上げる。ウィリディスは自分でも困惑していた。理由はなんとなく、こうであろう、とは思っているのだがそれを口にするのは憚られる。
嫌な気持ちにさせてしまったのだろうか、とリューイが眉を下げるのが見えた。
「母さんのことだから、変なことはしないとは思っているんだが…」
リューイのほほに触れれば眉を下げたそのままの表情で見つめてくる。
いま一度触れそうになる自分を抑えて手を放す。
「番のいないαは俺と母さんたちだけだ。リューイに手出しされないように、少し匂いをつけた。いやだったろう?」
「へ…」
「しいて言うならばマーキングというやつか」
「は…?」
開いた口がふさがらない。わかっているのかいないのか、彼の言葉にリューイのほほは火照りっぱなしである。
ドキドキとする胸を必死でなだめながらぐいぐいとその体を押して部屋の外に出す。
「ほら、早く服買いに行かないと本読むひまなくなるよ?」
「そうだな」
「俺なら大丈夫…ね?」
ウィリディスはリューイを見つめる。子供扱いされているようでリューイはむずかゆい。
大丈夫だよ、ともう一度告げるとようやくウィリディスは部屋を出ていった。扉を閉めてリューイはしゃがみこむ。
口から心臓が出そうだった。本人はきっと自覚などしていないだろうが、マーキングされたリューイからしてみると、彼の母親と話すだけで嫉妬でもされたのだろうか、なんて思ってしまう。
リューイの身を案じてだと思う。それでもうれしかった。心配をかけてしまうのは本意ではないが、彼の気持ちがうれしいのだ。
噛まれた耳たぶに触れて小さく息を吐き出した。自分ではどのくらいαの香りがついているのかなんてわかりはしない。ただ、彼の香りがあるというのはうれしく思えた。
「リューイくん、入るわねぇ」
「はーい」
客間の扉が開けば後ろにメイドを従えたアクティナがいた。
彼女はメイドたちを先に部屋に入れる。リューイはメイドたちがテーブルの上に紅茶のポットやカップを並べていくのを見つめた。
皿には小さなチョコレートがいくつも並んでいる。
「チョコはお好き?」
「…食べることあんまりなかったけど、甘いものならたいていは好き、です」
「ふふ、息子くんいないから緊張してるのね?」
アクティナは楽し気な様子である。メイドはテーブルセッティングを終えると静かに部屋を出て行ってしまった。
アクティナと二人きり、リューイは緊張の面持ちである。
「実はね、リューイくんに都市での息子くんの話を聞きたかったの。いいかしら」
「ウィ…せんせーのこと?」
「あら、名前で呼ばないの?」
アクティナは首を傾げた。座って、と示されてリューイはテーブルのそばの椅子に腰かける。
アクティナも椅子を持ってきてはリューイの正面に座った。自らポットを手にしてリューイのカップに紅茶を注ぐ。甘いキャラメルの香りが漂った。
「いいのよ、名前で呼んでも。息子くんが教えたのでしょう?」
「…呼ぶのは、せんせーと二人きりのときがいい…」
ぽつりとリューイはこぼした。先ほど朝食の時に名前で呼んでいたが目の前にいたはずの自分や夫であるアカテスの姿は眼中になかったということか。
ふふ、と笑っているアクティナをリューイはどうしたのだろうかと見つめてくる。どうやら自覚はなかったようだ。
「そうなの。なら、二人きりのときに呼んであげて。きっと喜ぶわ」
「そうかな…そうだと、いいけど」
名前を教えてもらって浮かれているのは自分である。嫌がられてもいないし、呼べば返事もしてくれる。
喜んでいるかどうかはまた別の話だろう。
「さぁ、リューイくん。お昼の時間まで私にいろんなことを教えて頂戴ね」
アクティナはカップを手に微笑んだ。
リューイは少し圧に飲まれながらうなずいた。
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名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
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