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第7章

会食を意識したトークで最も外してはならないポイントー第七の課題:音声収録ー

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自分がなりたい未来を明確に思い描くことは
簡単なようで難しいことだ。

「自分はどうありたいのか?どんな自分になりたいのか?」

今の会社に入る前、僕はとにかく現状を変えたかった。
くすぶっている自分が嫌で、とにかく変わりたくて、けれどきっかけも分からず、もがいていた。

SNSを通じて、様々な人と出会い続け、ときに傷ついて、疲れ切っていた。

やっぱり自分はだめなのか、と未来を諦める一歩手前で
執事さんと出会えたからこそ今の自分がある。

もっとより多くの人と、あらためてよりよい出会いをしてみたい。

相手に求めるばかりではなく、自分からも何かを与えて
信頼と循環を起こせるような関係性を作りたい。

「今の僕なら、少しはできるかな…」

これまでの気づきノートを自宅で見返していく。
少しは成長したはずの自分の可能性を、僕は信じたいと思った。


思考は現実化するというナポレオン・ヒルの名著がある。

まだじっくりと読んだことはないのだけれど、本当にそんなことは起こるらしい。

数日後、僕は魔王様からある誘いを頂いた。

入社後まだお客様と対面で出会ったことがない僕に、大切なお客様との会食へと
同席するチャンスが回ってきたのだ。

そう、あくまでもチャンスだ。
そのチャンスをきちんとつかめるかどうかは僕にかかっている。

「先方に失礼がないようにせねばならんからな。これから言う試験に挑んでみよ」

魔王様は、僕がチャンスをつかめるかどうかは次の課題の結果次第で決めるとおっしゃった。

なんてタイミングなのだろう。僕は即座に「はい!」と大きな声で返す。

魔王様の用意した次の課題は非常にシンプルだった。

「会食を意識して、音声を収録してみよ。内容も長さも全て任せる」


未知の場をイメージして、自分なりに工夫をし、話すテーマや内容を決める。
そういった全てが今回の選考対象なのだろう。

よくわからないが、やってみよう。僕はその場で魔王様へと大きく頷いた。

=====
<第七の課題>

Q.会食を意識した音声を収録するにあたって、外せないポイントとは何か?

=====




「しっかし音声収録、かあ…」

深夜、僕はため息をつきながらスマホを操作していた。

音声収録には様々なアプリがあるが、今回はStand FMを使ってみることにしよう。

アプリの操作は簡単だったので、音声を録ること自体は難しくない。

「問題は、トークスキルだよね…」

自分でも分かっているのだが、僕は人と話すのがあまり得意ではない。

特に、声の抑揚が少なくて、トークがどうしても棒読みになりやすい。

「ううーん、得意じゃないからこそ挑むべき、か??」

会食だというのなら、相手との場を盛り上げるトークを用意して
音声収録しておけば、今回の課題的にも合う気がした。

どうせなら、自分の熱を込められる体験談がいい。
それでいて、できればクスッと笑えるような面白そうなネタは何かないか。

知恵を絞って、出てきたアイデアはウーバーイーツのドライバーネタだった。

50件の配達の中では、コントになりそうな出来事もあったし
うまくまとめれば、受けそうだと思ったのだ。

「そうと決まれば準備するか」

印象深かった体験をいくつか箇条書きにして、僕は自分用の台本を作ることにした。

その後、台本を読む練習を何度か繰り返し、声を吹き込んでみる。

初回の録音を再生してみると、思ったよりもたどたどしく聞きづらい。

「何度か録り直してみるか」

ふうっと大きくため息をついて、軽く眉間のしわをもみほぐす。

何度か収録を繰り返して、10分程度の録音が出来上がった。

「今の僕の全力だと、こんなところかなあ」

最後に録った音声を聞き返してみて、まだまだ自分が未熟だと改めて思う。
それでも、できる限りはやれた。そう自分を信じることにした。



「まあ、不合格よな」

翌日、魔王様は僕の音声を聞くなり、僕の努力の結果を切って捨てた。

「音声を聴く前から予想はしておったが、根本的なところがズレておる」

魔王様は僕の不合格と予想していたと言った。

音声を聴く前に不合格が決まっていたなんて、詐欺みたいじゃないか。

胸の中で行き場のない思いが渦を巻く。

「さて、どうして不合格になったかおぬしには分かっておるか?」

魔王様が僕に問う。

僕は何も言葉を返せないまま、その場でうつむいた。


=====
<第七の課題のヒント>

・今回の音声収録の課題ではトークスキルはそこまで重要視されていなかった

・僕が魔王様にあることをしていたら、合格できたかもしれない

あなただったら試験に合格できただろうか?これまでの課題も振り返って
合格のために外してはならなかったポイントはどこかを考えてみよう。

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