決められたレールは走りません

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無邪気な心

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「変わらないのね、この街は。」

馬車の窓から街並みを見ていたシャルノアは、馴染みのある店の人たちに手を振りながら微笑む。

「平和ですょね。みんな仲良くて、笑ってて。安心します。」

ナナも久しぶりに来たシラーの街に表情が緩む。幼い頃、リュカも含めて3人はバズに連れられよく街に出ていた。
治安も良く、子どもたちに優しい街の人たち。バズも街の人たちと仲が良く、話しかけられたり、差し入れを貰ったりと交流することも多かった。変わらない街、変わらない人たち。

「落ち着くわ。」

シャルノアの呟きに、バズもナナも微笑む。

「で、どこに行く?」

シャルノアとナナは顔を合わせ、
「「ノワール亭でランチ‼︎」」
「だと思った。」


 シラーの街の端にある、隠れ家的なお店ノワール亭。
THE 家庭の味が売りで、夫婦で細々とやっている。子ども好みのメニューが多く、席数は多くないが家族でゆったりと座れるようスペースが区切ってあるので落ち着いて食事がとれる。

「オムライスかハンバーグか…いや…」
「「「本日のランチセット!」」」

出てくるまでメニューが何か分からないワクワク感と、デザートまでつくこのセット。毎回待ち時間は何が出てくるか予想し合って過ごす。

「お久しぶりですね、バズ様。こちらのおふたりは??」
「アルトのとこの子どもたちですょ。昔3人連れて来てたでしょ?」
「まぁ、あの時の。王宮でお勉強が始まるからって言ってたわよね?」
「そうなんです。ひと段落ついて、やっと遊びに来れるようになりました。」
「そうなのね、良かったわぁ。2人ともキレイになったのね。」
「「ありがとうございます」」

そのあとも料理が出来上がるまでの間、おかみさんと思い出話で盛り上がっていた。リュカ兄にも会いたいと言うので、こっちに来たら連れてくると約束する。

 チリンッ。

ベルの音は料理が出来上がったという合図。3人分なのでシャルノアとナナは運ぶのを手伝いに行く。
キッチンに立つ身体の大きなコックさんは、おかみさんの旦那様。昔から大柄な身体を丸くして、優しく微笑んでくれる。何より、あの美味しいランチの作り手なので、尊敬しかない。

「貴方、この子たちバズ様と一緒に来てた女の子たちよ。昔よく来てくれてたでしょ?」
「ん?アルトの子か⁈大きくなったな。べっぴんになって。」

仲良しご夫婦は、父アルトのことも知っているようで、聞くと幼い頃の私たちは街の人たちの間で有名だったらしい。

「バズが連れて来たアルトも、その子どもたちもとにかくまぁ、美形揃いだったからな。みんな覚えてると思うよ。」

そう言って、ニカッと目を細めて笑う旦那様はクマさんのようで、昔と変わらず優しいオーラでいっぱいだった。

 席に戻り、バズと一緒にランチを食べる。今日のメニューはオムシチュー。オムライスの上にノワール亭人気のビーフシチューがたっぷりとかかっている。猫舌のバズは食べるのに苦戦していたが、ゆっくり味わって食べていたシャルノアたちとほぼ同じ頃に食べ終わっていた。

「デザートサービスしといたわ。」

おかみさんの持ってきた今日のデザート。棒状の濃厚なチーズケーキの上にレモンスライスと共にバニラアイスが添えてある。

(究極の組み合わせ!)

「俺のもやるよ。」

食後のコーヒーを飲みながらいつものように渡してくれるバズ。3つ目はナナと半分こして食べるのだ。

(大人になったのか分かんないな、これじゃ。)

ニコニコ食べる2人を見て、変わらないってのもまぁ、良いことだな、と納得した。シャルノアの心配をしていたナナも無邪気に笑って話しているので、気分転換にはなっただろう。行き詰まったらまた連れ出してやろうかな、と思うバズだった。

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