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伝わる想い
しおりを挟む「ごきげんよう。メイリーン・フィラフさん?」
くすくすと意地の悪い笑みを浮かべた三人の令嬢と体の大きな男が二人いた。
「ミリア、あなたはもういいわ。行きなさい」
「……フィラフさん、ごめんなさい」
そう言って走り去るミリアに、メイリーンは嵌められたのだと気が付いた。
「……目的は何ですか?」
「目障りなのよ」
真ん中にいるリーダー格の令嬢が殺気のこもった目でメイリーンを見る。
「リアムス様とあなたじゃまったく釣り合いませんわ」
「エレザベート様こそ、リアムス様の隣に相応しいというのに、図々しい」
エレザベートと呼ばれた令嬢の隣で、キャンキャンと取り巻きが吠えている。
(つまり、私がリアムスといるのが気に入らない。エレザベートが私に代わってリアムスの隣にいたい……と。ふざけてるわ)
「誰と一緒にいるのかはリアムス様が決めることです。あなたたちが決めていいことじゃないわ」
「何ですって!?」
エレザベートは手を振りかざし、メイリーンの頬をバチーーンッと音がなるほど強く叩いた。
メイリーンの左頬は赤く腫れ、指輪が擦れたのか傷ができている。
「暴力で訴えるような人をリアムス様が好きになるはずないじゃない。こんなことをしたって、リアムス様はあなたのことを好きにはならないわ」
頬を打たれたにも関わらず、メイリーンは怯まなかった。
(リアムスは見た目や家格で人を見るような人じゃない。リアムスは──)
「強気でいられるのも今のうちよ。他の男の手で汚されたあなたを見たら、どう思うのでしょうね? やってしまいなさい」
エレザベートの声に、にちゃにちゃとした笑みを浮かべながら男たちは近づいてきた。
そして、逃げようとしたメイリーンの腕を掴んだ。
「暴れなければ、優しくしてやるからな」
「どんな不細工かと思えば、上玉じゃねーか」
男はメイリーンの細い首筋に鼻を寄せ、匂いを嗅ぐとべろりと舐めた。
「へぇ。泣くのを我慢しちゃって可愛いじゃん。いつまで、もつかな」
もう一人の男がドレスの裾に手をかけたその時──。
鍵がかけられた部屋の扉が破壊された。その勢いのまま、リアムスが部屋へと飛び込んでくる。
「メイに触るな!!」
リアムスは、一瞬で男二人を殴り飛ばすとメイリーンを抱き締めた。
「メイリーン」
「リアムス様……」
そこからは怒濤の展開だった。ビアンカや騎士団長もやって来て、エレザベートや取り巻き、男たちを捕らえた。
その間もリアムスはメイリーンを抱き締めて離さなかった。
「助けに来てくれるって、信じてました」
「……ローズリンゼット様が教えてくれたんだ。守れなくて、ごめん」
掠れた弱々しい声でリアムスは呟く。メイリーンを抱き締めているリアムスの手は小さく震えていた。
「いいえ。リアムス様は守ってくださいました。私の体は清いままだもの。それに、あなたが来るまでの間も、あなたとの日々が私の心を強くしてくれた。守ってくれたの……」
メイリーンは、リアムスの頬に手をあてると目に涙を溜めて微笑んだ。
「リアムス様が好き。私ももっともっと強くなるわ。だからこれから先、ずっとずっと一緒にいてくれませんか?」
その言葉を聞いたリアムスは目を大きく見開いたあと、返事を躊躇った。
(俺といることで、またメイが傷付くかもしれない。今だって、こんなに頬が腫れて……。確かに純潔は守れたかもしれない。けれど──)
「やっぱり、今更でしたか? 他の男に触られた私なんか……」
「そんなことはない! 俺はメイを愛している!!」
リアムスが俯いていた顔を上げれば、悪戯が成功したと言わんばかりの表情をしたメイリーンと目があった。
(あぁ……、俺の返事が分かってて言ったのか)
頬は痛そうなのに、楽しそうに笑うメイリーンにリアムスも釣られて笑みを溢した。
「俺は一生メイには勝てないんだろうな」
「そんなことないですよ。私はずっとリアムスに負けっぱなしですから」
さらりと名前を呼び捨てにした彼女に、リアムスは感極まって口付けた。
その口付けは、気まずくなったビアンカが咳払いをするまで続いた。
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