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第1章 王都編
第14話 戦闘服=ドレスですって
しおりを挟むさぁ、魔力の制御訓練だー! と言いたいところなんだけど、今日はドレスを仕立てる日ですよ。お茶会は戦場なので、戦闘服には気合いを入れる必要があるんだそう。
「ねぇ、ミーア。どうせ婚約者候補を辞退するのに、頑張って着飾る必要なんてある?」
「あなどられないためには必要なことみたいですよ」
なるほど。なめられないためか。でもなぁ、それなら着飾らなくても──。
「私の見た目だけでも十分だと思うのよね。ほら、目付き悪いしさ」
「アリア様は世界一、お美しいです! 目も意志が強そうで魅力的です!!」
おぉう。すごい勢い。まぁ、確かにアリアはヒロインのライバルとして登場するキャラなだけあって美人ではあるんだよね。
このつり上がった目も見方を変えれば、ミーアの言うように意志が強そうともとれるのかぁ。
「ありがとう、ミーア。どのみち怖がられるにしても、折角だしおしゃれを楽しむことにするわ」
正直、おしゃれってよく分からないのだけど。何せ、前世では休みの日でも学校のジャージばかり着ていたし、今世は今世でとにかくフリフリのベビーピンクのドレスやらワンピースやら、そんなのばかりだ。
ただ一つ、おしゃれなんて分からない私にも分かることがある。それは、フリフリのベビーピンクはこのきつめの顔立ちには似合わないということだ。
とにかく、フリフリとベビーピンクは回避しよう! そう固く誓って、応接間の扉を開いた。
扉を開けば、仕立て屋のサーレス夫人とそのお弟子さんがたくさんの生地を並べて準備をしてくれていた。お母様もまだのようだし、どうやら少し早く着きすぎてしまったらしい。
私に気が付いたサーレス夫人は、お弟子さんに何かを話しかけた後、すぐにこちらへと来てくれた。
「サーレス夫人、ごきげんよう。早く着いてしまったようで申し訳ないですわ。邪魔はしませんので、あそこで見学をしていてもよろしいでしょうか?」
部屋の隅にある革張りのソファーを指差して聞けば、サーレス夫人は瞳を細めた。
「もちろんですわ。
私の準備が遅いばかりにお待たせすることになってしまい申し訳ございません。よろしければ、用意できた生地からお手にとってご覧下さい。
直に用意が終わりますので、そうしたら今日も素敵なドレスを一緒に作って参りましょうね」
サーレス夫人は私の目線に合わせて姿勢を落とし、話してくれる。子ども相手でも丁寧に対応してくれるのは流石としか言いようがない。
「それではお言葉に甘えて生地を見せて頂きますね。ありがとうございます」
お客さんだって、お店屋さんに礼儀を尽くすべきなのだよ。お互いに気持ちよくいるために。
私はお礼を言うと、ミーアと共に生地を手にとって眺めていく。その生地の肌触りの良さと言ったら……。
もちろん値札なんてないから、一体いくらなのか分からない。でもね、値段を知ったら目玉が飛び出るほどに高いんだと思う。
なぜ思うだけなのかって言うと、アリアになってからは一度も買い物に出掛けたことがない。洋服が必要なら仕立て屋が、宝石なら宝石商が、といった形で様々な業者がお家まで来てくれて購入するのだ。もちろん、値段なんてものがついてたことは一度もない。
これから選ぶドレスだって、最高級の素材を使って作られていくのだ。どうせ高いんだから自分に似合う最高の一着を仕立ててもらおう。
……でもね、何が自分に似合うのか全く分からないんだよね。
「ミーア、私にはどの色が似合うと思う?」
「アリア様にはピンクがお似合いですよ」
そう笑顔で答えてくれるミーアだが、本当に? と疑ってしまう。私が好きな色だからって、そう答えてくれているとしか思えない。
「ミーア、正直に言ってちょうだい。私ね、自分があまりこのピンクが似合っていないことに気がついてしまったの」
今来ているワンピースのスカートをつまんで主張すれば、明らかに視線をそらされた。それが答えである。
「今日はね、本当に私に似合うドレスにしたいのよ。協力してちょうだい」
私の本気が伝わったのだろう。ミーアは力強く頷いてくれた。そして、サーレス夫人の準備が終わり、お母様が来るまでの間に、二人であーでもない、こうでもない、と生地を片手に頭を悩ませたのであった。
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