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異世界の残酷な洗礼編

033:最後の朝食

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 ◇◇◇


 ――翌朝。
 気がつけばまだ薄暗い馬房のすみで戦極は目覚める。
 周りには誰もおらず、右手の平も完治し、体が無事に動くことを感じホッと深呼吸。
 だが最初ほどではないにしても、相変わらずの悪臭が鼻をつき気分が滅入る。

「はぁ……今日もいい目覚めだ」

 さて、問題は今日だな。
 ここを無事生き残れば勇者より劣ると確定し、この国から追放されるかもしれない。
 そうなれば美琴を探しにいけるし、この生活もひとまず終わる。

 なんとしても美琴を見つけて、あの四人を日本へと帰してやりたいが……。
 最難関はエカテリーナって痴女みてぇな女か。
 見るからにサディストって感じの、改造シスター服を着たやつだったな。

 たしか……そう、聖眼と言う二つ名もちだったな。
 聖眼っていうくらいだから、目に力を持つってことか?
 そして真乃依が聖女と言ってたな。聖女の能力ってのはやはり治療か? 嫌な予感しかしない……。

「あら、おはよう変態さん。もう起きたの? 早いねぇ」
「フェリスか、おはよう。今日が最後のテストとなるが、今日の相手の事を知っていたら教えてくれよ」

 フェリスはコクリと頷くと、戦極をじっと見つめて話し出す。

「聖眼のエカテリーナは聖属性の魔法を使うわ」
「聖属性?」
「ええそう。回復と風魔法が得意と聞いているわ。ただ、どんな魔法をつかうかが分かっていないの」
「それでよく四天王になれたものだな」
「そう、全ては宰相のバーゲンが無理やりねじ込んだのよ。ただ一度だけ彼女が実力を示したことがあったわ」

 フェリスは忌々しく話を続ける。
 その内容とは、西部にある一つの町で暴動が起きたことが発端らしい。
 
 圧政に苦しむ住民が立ち上がり、国に反旗を掲げて町一つが籠城したという。
 そこにセルド王が軍を派遣しようとしたが、それに待ったをかけたのが。

「バーゲンの野郎か」
「そう、バーゲンが子飼いの女を連れてきたの。その女が一人で暴動の鎮圧に向かった」

 話は続く。
 その後、鎮圧に向かった女・エカテリーナは、たった三時間で町一つを落としたと報告が入る。
 遠くから見ていた一軍が、その報告を受けて町に突入すると、そこには男女問わず、子供から老人まで全てが死んでいたという。

「死んでいた? 風魔法でやったのか」
「いえ違うわ。その後の調べでは風魔法で殺された人もいたけれど、大半は恐怖で顔が凍りついたように死んでいたらしいわ。しかも無傷でね」
「なんだよそりゃ……一体どうやったらそんな風になるんだよ」
「わからないの。ただ聖属性の回復魔法が凄いと言うことと、あの妖艶な瞳からセルドが二つ名を与えたのよ。町一つを簡単に落とす稀代きだいの女、聖眼のエカテリーナとね」
「なるほどね。ちなみに前の四天王だったやつは?」
「死んだわ。謎の心臓発作でね」

 聞けば聞くほど嫌な予感しかしねぇ。
 今日の試練、無事に生き残れるかは俺の運次第ってところか……。
 あ~っと何だっけ、あのステータスにあったやつ……そう、〝幸運値:今、幸せかい?〟っての。

「幸せに見えたらドマゾ認定だな」
「え、なんの事?」
「いやゴメン、ちょっとした現実逃避だ。まぁあれこれ考えて、見えない物に手を伸ばしても掴めることはない。とりあえず、生き延びるために今日も我が家の掃除をしますかね」
「どういう思考の流れよそれは……たく、待ってよ自分も手伝うから~」

 そのまま朝の掃除をしつつ、戦極とフェリスは迎えを待つのであった。
 
 やがて日が昇り、周囲に霧がたちこめる。
 そんな中、三人の人影が馬小屋へと現れる。
 先頭には桜と剛流が歩き、その後ろから嫌そうに着いてくる娘が一人。伊集院真乃依いじゅういんまりえであった。

 真乃依は異世界で手に入れた、最高級の化粧品を惜しげもなく使い、鏡を見ながら歩く。
 だが鏡と化粧品の品質が気に食わないらしく、ブツブツと文句をたれる。

「マジ最悪だわ~。ここまで酷いコスメとか、見たことないっしょ。桜もそう思わね?」
「え……私そういうのはしたこと無いし……」
「マジ!? 見た目が子豚なんだから、せめてラインくらいしてアピろうよ~」
「ぼ、僕は桜ちゃんがそのままでも十分魅力あると思うけど」
「剛流アンタって、ミートテック着込んでる女子が好みなの? マジウケル」
「そ、そんなんじゃないよ! いい加減にしてよ真乃依ちゃん!」
「ハイハ~イっと。あぁそれにしても、マジでまた糞小屋に行くのぉ? テンサゲすぎる」
「今日は真乃依ちゃんの先生が担当でしょ? 戦極さんも待っているよ」
「わ~かってるって桜。ハァ~神様、早くあの汚い男との一日が終わりますように」

 そんな感じで三人はやってくる。
 数分後、馬小屋の前まで来ると戦極が出迎えてくれた事に、桜は右手を振って挨拶をした。

「戦極さんおはようございます! 手とか治りましたか?」
「あぁ桜おはよう。お陰様でなんとか動けるようにはなったよ。って昇司がいないな」
「昇司? アハハ、あいつさぁ、戦極が怖いって言って来なかったんだよ? あいつにどんな卑怯ひきょうな事をしたのよ、教えてちょ~」

 真乃依の言葉に桜と剛流はムッとするも、黙って戦極の方を見る。
 すると表情一つ変えずに両手の平を上にあげ、戦極は肩をすくめておどけてみせた。

「別に何もないぜ? ただゾンビはトラウマになったかもだけどな」
「ヤッバ、腐った同士の友情? マジウケル。んじゃ、とっとと済ませてぇ戦極あんたの顔と、サヨナラしたいんですけどぉ?」
「会ったばかりで、さようならは寂しいね。が、一日が早く終わりたいってのには同意したいね」
「ヤバタン、アタシら気が合うじゃん! んじゃ行こうず~」

 真乃依はそう言うと戦極を見ずに歩き出す。
 その後ろから三人はついて行きながら、戦極へと食事を桜が渡す。
 どうやら例の携行食と、肉をパンを挟んだものらしい。

「ありがとう桜。最後の食事、美味しくいただきまっす」
「ちょっと、変なことを言わないでくださいよね!」
「そ、そうですよ戦極さん。縁起でもない」
「あはは悪い悪い。ま、フラグが立たないようにせいぜい気をつけるさ」

 そんな事を言いながら、四人は霧の濃い森の中を歩く。
 やがて遠くに噴水を囲む大きい建物が見えてきた事で、真乃依は立ち止まるのだった。
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