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第一章 呪いのエレベーター編

21話

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「人間の血液って……ここがどういう場所なのか分からないのに、そんな危険なモノを口に入れるとかありえない……」
「まぁ、普通はやったら駄目だな」

 俺の場合は、30年以上の研鑽により肉体を遺伝子レベルで操作することが出来るから特に問題ないが、普通の人間が、訳も分からない場所で、こんなトチ狂った事をしたら周りからはおかしいと言われるのは普通だろう。
 異世界で旅をしていた時にも、よくパーティメンバーに言われていたからな。
キノコはきちんと調べて食べろと。

「それにしても……」
「まだ、何かあるんですか?」

 呆れた様子で俺に語りかけてくる山崎。

「少し考えてみろ。ダンジョン内に血管が存在していて、その中に人の血液が流れている理由を」
「考えるも何も、こんな変な場所――、超常現象の場所で論理性と整合性を求める方がおかしいと思いますがね」
「そうか? ダンジョンの特性は、その場所が何のために存在しているのかを解き明かすために必要なものなんだがな」
「まるで桂木さんって、こういう場所に何度も来てるような素振りですよね」
「そうでもない」

 少し語りすぎたと思い、俺は前方を見る。
 すると暗く光る物体が人の歩く速度で近づいてきていた。

「あれって――?」
「さあな?」

 顔も体表も何も存在しない真っ暗なナニか。
 それらは体と思わしき人のような肉体から黒の陽炎を吹き上げながら着実に近づいてきている。

「形的には、ウィルオーウィスプに似ているな」
「それって北欧神話の妖精の名前ですよね?」
「それは知らんが、構成物質的には、それに近いな」
「どうして、そんなことが分かるんですか?」
「経験だな」

 まぁ、実際は経験というよりも、生体電流を体内で増幅し波動として照射。
 反響したデータを元に解析したに過ぎない訳だが……。

「――さて、時間がないことだし、さっさと片付けて先に進むとするか」
「ちょっ! ちょっと! 桂木さん!」

 無防備に歩き出す俺。
 それと同時に、ウィルオーウィスプとやらと接近していき、互いに目の前まで来たところで、ウィルオーウィスプが、闇色の触手を俺に伸ばしてくる。
 そして、俺の体と接触したと同時に、全てが消し飛ぶ。

「――は? え?」

 呆けた表情のまま拳銃を構えて固まる山崎。

「なるほど……」

 どういう特性の物か見極めたいという気持ちがあって、相手からの攻撃をわざと受けてみたが、どうやら人の負の感情を喰らい、それにより力を増す存在らしい。
 つまり、すぐには害があるという存在ではないが、こういう非日常的な場所に突然来たばかりの人間にとっては恐怖心を増幅させられパニックになるという悪質極まりない攻撃をしてくると。

「大丈夫なんですか?」
「俺の場合は特に問題はないが、お化け屋敷とか苦手な奴にはきついかも知れないな」

 次から次へと襲い掛かってくる黒いウィルオーウィスプ。
 それらは俺の体に触れて、俺の心を理解しようとした瞬間、悲鳴を上げて消し飛んでいく。
 その様子から、過度な恐怖を一度に受けるとウィルオーウィスプは耐えられないらしい。
 ――いや、ウィルオーウィスプではないのかも知れないな。
 構成は、粒子が集まっただけの物だからウィルオーウィスプだと思っていたが、どうやらそれらとは違うみたいだ。
 俺は、触手を伸ばしてくるウィルオーウィスプもどきを殴り怯んだところで、山崎に押し当てる。
 すると無言になる山崎。
 その表情は徐々に険しくなり、表情は青くなり――。

「うああああああああああああ!」

 唐突に叫ぶ。
そして銃口をウィルオーウィスプに向けると何度も銃声がダンジョン内に鳴り響く。

「――ちっ」

 こんな狭い場所で撃つとは――。
 跳弾し向かってくる銃弾を素手で全て掴む。
 
「はぁはぁはぁ……」
「大丈夫か?」
「……あ、――自分は……」
「もう大丈夫なようだな」
「大丈夫って……。まさか――!?」

 山崎が、カードリッジを確認し深く溜息をつく。

「もう克服したと思っていましたが……。まさか――、さっきのは恐怖を掘り起こす精神浸食みたいなことを?」
「そうなるな」

 俺は肩を竦める。

「ですが、桂木さんは、ずっと、その化け物に攻撃されていますけど、まったく動じてないどころか、化け物の方が消滅してますよね? 悲鳴をあげて……。一体、どういう精神を……」
「よくあることだ。それより、さっさと行くぞ」

 俺は腕を振るう。
 それだけで1億ボルトを超える雷に近い電圧が通路をかけぬけウィルオーウィスプを纏めて消し飛ばし、通路も発生した抵抗による数千度の熱放射に焼けこげる。

「……桂木さん。あなたは絶対に普通の高校生じゃないですよね?」
「失礼な。どこから、どうみても普通の高校生にしか見えないだろうに」

 俺は平和をこよなく愛する一般人だぞ?
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