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第二章 逆さ鳥居の神社編

56話

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「どうして?」
「何度も呼び出されるわけないだろ。助けただけなんだから」
「そうかなー」
「それに、俺は面倒事などはごめんだ」

 人の問題に巻き込まれるなんて、異世界での時だけで十分。
 微かに残っている記憶を攫っても、それだけは分かる。
 大体、都が異世界の人間を助けようとしたから……、都は――。

「面倒事ね……、でも優斗」
「――ん?」
「本当に困っている人は助けないと駄目だと思うの」
「俺には分からないな」

 俺に大事なのは、都であって、それ以外でもそれ以上でもない。
 魔王軍を殺して殺して殺して内通している人間も殺しまくって……、その結果……俺は……。

「駄目だよ! 優斗」
「何がだ?」
「優斗が、教えてくれたんだよ! 人のことを思って、行動しないといけないって!」

 俺は首を傾げる。
 そんなことを……、俺は都に言ったのか?
 そんな甘い言葉を――、駄目だな……、そんな記憶なんてものはない。

「そうか……、そうだよな」

 俺は頷く。
 否定しても言い合いになるだけだろう。
 ――なら、ここは流しておくのがいいだろう。

 千葉駅に向かうバスに乗ったあとは、話が途切れる。
 唯一開いていた席に都を乗せたあと、俺は立ったまま手すりを掴み瞼を閉じる。
 すると残った記憶の残滓の一つには確かに存在していた事を思い出す。

 ――優斗! 困っているなら助けようよ!

 そう、異世界に召喚された時に都が語った言葉を思い出す。
 ……だが……、その結果――。

「何を考えているのか」

 俺は、誰にも聞こえない程、小さな声量で言葉を紡ぐ。
 だからこそ――、俺は基本的に面倒ごとはごめんだ。
 山城綾子が、どういう問題に関わっているかは知らない。

 だから、都に関係ないのなら俺が関わる問題ではない。
 すでに魔王軍は存在しておらず女神も存在していない。
 俺が戦う意味なんてものはない。
 だったら――、静観しておくことが一番じゃないか。

 俺は、異世界では英雄だと言われたが、それは結果にしか過ぎない。
 俺は――、都を殺した魔王軍を殲滅したから、そう呼ばれただけだから。

「はー、遠いよね。うちの高校」

 バスを降りて電車に乗り、日向駅に到着し電車から降りたところで、振り向きながら都が語り掛けてくる。

「そうだな。都や純也なら、もっと家から近い高校に行くことが出来たんじゃないのか?」
「……優斗」
「どうした?」

 立ち止まって俯く都。

「優斗は、迷惑だったの?」
「何をだ?」

 何か、俺は気に障るような事を言ったか?

「ううん」

 頭を左右に振る都。
 すぐに都は、歩き出してしまう。
 その表情が少し寂しそうに見えたのは、たぶん錯覚ではないだろう。
 校門前の坂を上り、昇降口で上履きに履き替えていると「あら、桂木君」と声をかけられた。

「生徒会長」

 真っ先に、その言葉を口にしたのは都。
 
「ごきげんよう。神楽坂さん」
「おはようございます。山城先輩」
「それと、おはよう。桂木君」
「おはようございます」
「桂木君。少し時間はあるかしら?」
「時間ですか?」
「山城先輩。これからはホームルームがありますので」

慌てた様子の都が、俺と生徒会長の間に割って入ってくる。

「そう。それは残念。また、あとでね――、優斗君」

 山城綾子は、そう言うと階段を上がっていく。
 どうして、向こうから俺に絡んでくるのか些か疑問ではあったが、何時の間にか俺の腕を掴んでくる都を、まずは何とかしなければいけないだろう。
 上目遣いと、お怒り気味の表情をしている都を。

「優斗!」
「な、なんだよ……」
「いま! 名前で! 呼ばれていたよね!」
「そ、そうだな……」

 そこは、俺も疑問というか不可思議に思っている点だ。

「どういうことなのか説明してっ!」
「説明しろと言われても、下の名前で呼ぶとか許可を出した覚えも無いんだが……」
「そうなの? 昨日、呼び出しを受けてから何かあったとか何もないの?」
「何もないな」
「それって、山城先輩が勝手に優斗の名前を下の名前で呼んだってことでいいの?」
「そうなるな」

 ――というか、どうして下の名前で呼ぶくらいで都は、こんなに怒っているのか。

「はぁー」
「どうした?」
「ううん。何でもないの」

 階段を駆け上がっていく都。

「早くしないとホームルームに遅れるよ!」
「そ、そうだな……」

 先ほどまでお怒り気味だった都は、笑顔で、そう話しかけてくる。
 まったく表情がコロコロと変るよな。
 俺は、都のあとを追いかけるように階段を上がっていく。

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