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第四章 囚われし呪詛村の祟り編

167話

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「何を言っておる? ここから高清水旅館までは、距離としては20キロ近くはあるのだぞ?」
「少し黙っていてくれ」

 俺は、波動結界を展開しつつ、高清水旅館の内部を調べていくが、人間としての生命反応があるのは二つしか確認できない。
 それ以外は、良くわかないモノが存在している事が分かるが――。

「とにかく時間がないな」

 俺は、階段を駆け上がり、外へと飛び出て、高清水旅館の方へと視線を向けた。

「待ちたまえ! 何をしようとしているのかね?」
「都と純也を連れ戻す」
「何を言って――。君は、自分が何を言っているのか理解しているのか? いま、孫娘が車に乗って遠野市に出かけている。ここから高清水旅館まで歩いて行っては、どれだけ時間が掛かるか分からないのじゃぞ?」
「関係ないな」
「冷静になりたまえ! いまの現状が、どれだけ以上なのかは普通に考えれば分かるはずだ」
「爺さん。言っておくが――」

 返答しかけたところで牛舎の壁が唐突に爆発する。

「――な、なんじゃ!?」
「グルルルルル……」

 獣の嘶き、それと同時に匂う獣の匂い。
 壁が爆発したことで舞い上がっていた粉塵の中から、姿を見せたのは、3メートルを超える角を生やした筋肉隆々のミノタウロス。

「ほう……」
「ば、馬鹿な!? 地獄の鬼……、地獄の極卒である牛鬼だと……? あまりの瘴気の濃さに、普通の牛が、暗転したというのか……? それほどまでの危険な瘴気の結界なぞ聞いたことが……」

 ミノタウロスだと思っていたが、牛鬼というのか。
 牛舎から出てきたミノタウロスの数は60体を超える。
 それらが、俺達の方へ向けて近づいてくる。

「桂木君! さすがにあれは無理だ! 地獄の鬼の力は、一匹で手練れの陰陽師10人を殺すだけの力を持つ! 地下室に避難すれば、あれらの図体から入ってくることは出来ない! 時間を稼ぐしか方法がない。すぐに地下室に――」
「少し黙っていろ」

 俺は近づいてくるミノタウロスに近づく。

「妹が寝ているんだ。こいつらを放置して、都を助けに行っている間に何かあったらどうするつもりだ?」
「馬鹿な! 正気か! 君が、どれだけ強くても地獄の鬼に勝てる訳がない!」

 ミノタウロスとの距離が近づいたところで、鶏小屋と豚小屋からも大きな爆発する物音が聞こえてくる。
 さらに馬小屋の方からも――。

「なん……じゃと……」

 鶏小屋からは、体高5メートルを超えるコカトリスが――。
 豚小屋からは、体高3メートルを超えるオークが。
 馬小屋からは、体高3メートルを超える二本足の馬が、それぞれ出現する。
 その数は、全て合わせると300近い。

「中々、面白いことになっているな」
「何を言っているのだ! 君は! すぐに、こちらへ――、危ないっ! 避けなさい!」
「――ん?」

 俺は、視線をミノタウロスに向ける。
 ミノタウロスは、何処で入手したのか知らないが、刃の部分だけで1メートルを超える中華包丁のようなモノを頭上から俺に向けて振り下ろしてくると同時に、俺へと接触し、周囲に風圧による土が舞い上がり周囲が一瞬、不鮮明になる。

「あ、ああ……。桂木君、まさか……」
「何を勝手に俺が死んだような勘違いをしているんだ?」

 俺は身体強化をした上で、振り下ろされた斧を額で受け止めていた。
 周囲が一瞬見えなくなるほど、土が舞い上がったのは、俺の足場の地面が脆く、足が地面に埋もれたから、押し出された土が周囲に飛び散っただけに過ぎない。

「なん……だと……」
「ふむ」

 俺は、額で受けとめた斧の刃先を素手で掴みミノタウロスごと振り回す。
 重さ十トン近くのミノタウロスが、凄まじい速さで次々とミノタウロスと衝突し次々とミノタウロス達が肉塊へと変っていく。

「――ば、化け物か……」

 厚木が、体を震わせながら恐怖で染まった瞳で俺の方を見てくる。
 まぁ、言いたい気持ちは分かるぞ? ミノタウロスとかオークとかコカトリスとか、陰陽師でも、見る事はあるかどうかは知らないが、数百という数になれば、それは驚くというものだ。
 思考しながら次々とミノタウロスを殺していくが、俺が武器として利用していたミノタウロスの体も限界のようだ。
 それに、こんなところでザコに時間を費やしている暇もない。

「仕方ないな」

 俺は、掴んでいた斧と、斧を握っていたミノタウロスを走って近づいてくるオークの群れへと投げ飛ばすと同時に地面に手を付き体内で増幅した生体電流で地面から砂鉄を抽出し無形の状態の刃を形成。
 
「とりあえず死んでおけ」

 100メートルに及ぶ超振動ブレードと化した鉄製の鞭。
生成した超振動ブレードの鞭を、音速を超える速度で周囲に展開――、振り回し全ての変質した動物を細切れにする。
 殲滅までに要した時間は20秒程度。
 やっぱり全盛期と比べると全くと言っていいほど力が出せない。

「はぁ……」

 本来なら1秒も掛からず殲滅できると言うのに……。
 まぁ、今は、そんなことを気にしている暇はないか。

「爺さん」
「…………」
「おい! 爺さん!」
「あ、ああ……。――い、一体……、君は……、な、何が……、何をしたのかね?」
「見ての通りだ。とりあえず変質したモンスターは全て殲滅した。アンタは、ここに居て妹の身を守っていてくれ。そのくらいは出来るんだろう?」
「……わ、わかった……。それよりも――頼みがある」
「何だ?」
「先ほど、君は高清水旅館を確認したと言っておったが……生存者が二人しかいないとも……」
「そうだな」
「……そ、それは本当かね?」
「俺はブラフを言うとでも?」
「……そうだな……、これほどの力を持っているのなら――、だが……」

 厚木は、俺が殲滅した魔物を見て悲壮感溢れる表情をしたかと思うと口を開く。

「もし、旅館に他に生存者がいたら助けてほしい。君ならできるのだろう?」
「それは時と場合による。そもそも、俺は都を助ける為に行くだけだからな。それに何が起きているのかも、正確には分かってない状況で余計なことをするほど、俺は素人ではない」
「……分かっておる。出来ればの範囲でいい」







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