最強の英雄は幼馴染を守りたい

第四章 囚われし呪詛村の祟り編

199話

「なるほどな――」

　俺は、視線の先に佇み此方を睨みつけてきている安倍珠江を見て納得する。
　彼女の周りの土手に生えていたであろう草花や木が軒並み腐り果てるだけでなく、安倍珠江の肉体の再生が急速に進んだのは、他から生命エネルギーを直接吸収したからだろうと、瞬時に見抜く。

　――まぁ、そんなことは、どうでもいいことだがな。

「やれ！　その偽物を殺せ！」

　女の周囲に生み出された10体のドラゴンが巨大な口を開き、俺目掛けて炎の弾を放ってくる。
　その直系は5メートルほど。
　全ての炎の弾が、同時に着弾すると同時に莫大な熱が、俺を中心にして開放されるが――。

「下らない……」

　瞬時に、放熱を肉体に取り込み腕を振るう。
　竜巻が俺を中心に巻き上がり、熱風を伴った巨大な竜巻が発生する。

「熱波風塵破」

　熱風を伴った巨大な火炎旋風は、屍たるドラゴン10体を吸い込むと炎により焼き尽くし――、風の刃で粉々に粉砕する。

「なん……」
「ここでは戦いたくない――。周りに被害が出過ぎるからな」

　火炎旋風をドラゴンに向けて放つと同時に、一足飛びで安倍珠江に近づき首を掴み西方へと飛び立つ。　
　
「知れ者！　この私――、この私を誰だと思っている！　離せ！　この偽物が！」

　両手で俺の腕を掴み離れようとしてくるが、俺は一瞥しただけで空を移動し続け、眼下に都市が見えてきたところで、海に向けて安倍珠江を投げる。
　彼女の体は海面に衝突すると何度も海面をバウンドしながら、海の中へと消えていき――、すぐに姿を見せた。

「ここは――、日本海ですって！？　この短時間で、ここまで移動してくるなんて……」
「ここなら誰の迷惑にもならないからな」

　俺は、海の上に降り立つと同時に、女の頭目掛けて蹴りを入れる。
　蹴りは、防御をしようとした女の両腕を粉砕――、爆砕させ――、さらに女の体は数百メートルほど西側へと吹き飛ぶ。

「――ッ。再生が……。貴方、一体……何の神と契約を……かはっ」

　女の腹部に蹴りを入れ空中に浮かせたあと、空中に浮いている間に拳で殴り続ける。
　一発一発が、女の再生能力を上回っているのか、雷と同じ電圧を纏った俺の拳は、女の体を削っていく。

「まだ、会話の――」

　俺は、一切答えずに、俺の拳の連打で空中に釘付けになっている女の胴体を、中段右回し蹴りで蹴り飛ばす。

「防御が――、回復が――、再生が一切……、まったく追い付かない……。何なの……、アイツ――。やっぱり力を使うしかないわね」

　その言葉に俺は、粒子を足場に一気に加速し安倍珠江の胴体を蹴り飛ばす。
　安倍珠江の下半身と上半身は、俺の蹴りにより分断され、それぞれ日本海の海上の上で停止する。

「――何だ？」
「神様の力を与えられただけはあるわね……。やっぱり、私も本気にならないと駄目みたいね」

　安倍珠江は、ニヤリと笑みを浮かべると、彼女を中心に赤い結界が展開されていく。
　空も海も赤く染まると同時に、安倍珠江の肉体は瞬時に再生する。

「本当は、もっと生命力を集めたかったけど……、そうも言っていられないわね。神の力を有していることは分かったわ。――でも、貴方は救世主として相応しい人格を有していない！　だから、私が全ての人類を救済することに決めたわ！」

　その言葉を聞いて、俺は――。

「くくくっ――」

　思わず笑ってしまう。
　滑稽だ。
　愚かにも程がある。
　自らの正義を告白している分際で、自身の過ちに気がついていないとは――。

「何がおかしいと言うの？」
「人類を救済？　救世主？　下らねえ。てめーの目的が何かは知らないが、俺の仲間と都に手を出した以上――」

俺は殺気を解放する。

「――お前は嬲り殺しだ！」