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六 充稀 Last years

やっぱり‥‥

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 それからはあっという間だった。

 僕も智哉くんも、
(あ、呼び捨てでいいよって言われたんだけどね、僕にとっては智哉の方がしっくりくるかな)

夢中になれるものを見つけて、毎日、しんどい時もあったけど、ほんとに楽しい高校生活を満喫できてた。
それに‥‥
いつもこんな近くで先生の存在を感じていられる。それだけで幸せだった。

 「新田ぁ―――!」

  長谷川先生が呼んでる。

 急いで先生のとこへ走ってくと、
「今日さ、恵美めぐみ莉子りこ休みなんだわぁ。明日、あいつら検定試験あるから、今日は勉強に専念ってことで‥‥スコア表持ってきてくれる?」

 マネージャーの仕事にもだいぶ慣れてきた。

 恵美さんと莉子さんは二年の先輩で、一年の時からこのハンド部のマネージャーとして支えてくれてるって長谷川先生が頼もしそうに話してくれた。
恵美さんと莉子さんにマネージャーとしての心得?ってのから徹底して教えてもらった。
優しくて頼りがいのある先輩だった。

 僕は高校生になってから人間関係に恵まれてるなって、つくづく思った。

それと、僕と一緒にハンド部のマネージャーを始めた白石くんもとってもいい奴だった。どちらかというと、僕より控えめな感じがする。(こんな僕が言うのもなんだけど)特に人見知りが強いんじゃないかな?人の中にスムーズに入れないタイプ?かという僕はわりとその場には馴染めるタイプだけど、好き嫌いははっきりしてる方かな?
「この人苦手なタイプだわ」って感じたら、即、シャットアウト。だから、周りからすれば愛嬌なしのネクラな奴って思われるんだ。
でも、そんな僕に白石くんの方から話しかけてくれたんだ。

 「え…と、新田くん?」
  ぼそって背後から声がした。

 ちょうどその時、スコアボードに選手の名前を書いてたんだけど、振り返ったらなんか落ち着かなさそうに僕のやってるを見てた。
「あ…白石くん?よろしく!」
「え?あ、う、うん、よろしく」

 白石くんのことは先に長谷川先生から聞いてた。科は違うみたいだけど、こんな子が(って失礼な言い方だね)ハンド部のマネージャーをやりたいって‥‥なんだか僕とおんなじみたいで親近感が湧いた。

 部活で一緒に仕事?をするようになって僕も白石くんも打ち解けてきて、マネージャーの仕事が楽しくなった。始めは簡単なもんじゃなかった。思ってたよりもキツイって感じることが多くて‥‥体力的な仕事も多くてバテたこともあった。
それでも、先生の笑顔をこんな近くで見られてるんだから。がんばんなきゃ!


 「あ…とぉ――‥‥」
  って目をシパシパさせて、いったん僕をじ――って見入ったかと思ったら目頭を押さえるみたいにして人差し指と親指をクリクリって動かしてた。
「‥‥せんせ?」
「…と、ごめん、ごめん。疲れてんのかなぁ」
 独り言みたいにして長谷川先生はそう言った。
「なんてことない、なんてことない。‥‥あ、でさ、ドリンク多めに準備しといて!」
「は、はい。分かりました‥‥」
 僕はちょっと心配になったけど、手を上げながらいつもの笑顔で練習に入ってく長谷川先生の後ろ姿をいつまでも見つめてた。
ハンド部マネージャーの僕の特権だ。

 過酷な夏休みの部活動も、恵美さんと莉子さんになんとか付いていきながらやり遂げられた?かな?
屋内のスポーツとはいえ、体育館の中は風も通りにくいし蒸し暑い。逆に屋外よりバテやすいんじゃないかって思うくらい。


 僕にとって初めての夏を経験して、いつも通りの十六の誕生日を迎えてだいぶ高校生活にも慣れてきた二学期。

 夏の疲れが出てきてるのかな?
今日は朝からおなかの調子が悪い。
胃腸系も弱い僕だから、ストレスや疲れがたまってきた時なんかはすぐおなかにきちゃう。
別に、夕べも朝も至って変わらない食事だったし、二学期始まって季節の変わり目だからって今さら始まったことじゃない。
(ん――‥‥なんだろ。最悪)
 しかも、こんな時にって時にくるんだよねぇ。

 四時限目始まって数分後、僕のお腹の痛みは最高潮まで達してた。
気分が悪い時やは手を上げて静かに教室の後ろから出れば、みんなが共通理解していることだった。


 授業が始まってたから足音立てないようにしながらも急ぎ足でトイレへ。

 授業中だから誰も居ないだろう予測の安心感。だったから?
周りを気にするなんてこともなかったし、トイレで周りを見回しながら入る奴もいないでしょ?
で、トイレのスリッパ履こうとした時だった。

 「‥‥せん‥‥せ」
  奥のトイレで声が?

僕って悪い奴?
そのまま物音立てないようにしてこっそり聞いてた。

 
 「ま、待てって‥‥」

 え――?
この声――?

聞き違えることなんて絶対にないんだから。自信ある!
(長谷川先生―――?)

 なに?なにが起きてるの?
奥のトイレの密室で?!


 「…オレ‥‥先生のことが‥‥」
  聞こえたよ。はっきり。

 確かに男子生徒で、明らかにトイレという密室で長谷川先生とナニかをやってる?!
これって‥‥どういうこと?!

 僕の心臓がバクバクし始めた。それと同時にさらに増してきた腹痛に耐えられなくなった。
(うわぁ――ん!どうしよぉぉ‥‥)
 だからって別階のトイレに行くまでの余力はないし、冷や汗まで出てきた。
(今、入ってしまえば僕ってこと分からないよね?それで用を済ませたらさっさと出てったらバレないよね?)

 うん!サパッとトイレに入り込んで鍵をかけたら、

 ガチャ――‥‥
って、鍵の音が響いたぁぁぁ―――!


 し―――ん‥‥
静けさが耳に響いた。


 お互いに?
誰だか分からない状態で、何もなかった、知らなかったを装って、僕は何とか用を済ませてそそくさにトイレから出てった。


 でも、でも‥‥
耳から離れない、長谷川先生の声が。
まさか、そんなこと‥‥


 それ以来、長谷川先生が、長谷川先生のことが分からなくなった。
頭の中、色んなこと想像してしまって、負のループに堕ちた。

やっぱり、僕って幸せになれないのかな。


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