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六 充稀 Last years
さよなら、僕 (充稀 Lastday)
しおりを挟むだから僕は、この世から居なくなるんだ。
学校から駅まで十五分くらい。
慣れた通学路の帰り道――――
今は日が暮れるのも早くなって、夕方五時を過ぎてくると寂しいくらいに暗くなってくる。
今日はもう部活休んだ。
自分でも何やってるか意識がない。
それに、こんな状態で先生には会えない。先生の笑顔を見れたとしても、もう、今の僕には何の価値もない。長谷川先生の顔を見るのさえも、辛い。
いつもの帰り道はいつもよりも暗く感じた。
学校の正門を出て五十メートルほど先にある信号で立ち止まった。
歩行者信号が赤だってことは無意識の中にも見えてたみたい。
後ろの方から聞こえてきた。
「あ‥‥あいつ、あいつだって。中村がさ、体育館に呼び出した奴―――」
信号が青になって動き出そうとした後ろから、
「じゃぁね~チ〇コくん!」
コソコソって笑いながら追い越していった。
智哉くんのことが分からない。
『充稀にはなんもしないって‥‥』
それはどういうことだったのかな?
あいつらのとこに連れてったのは確かに智哉くん。なのに―――
僕を庇うみたいな言い方?
ごめんね、親友だったはずなのに、智哉くんのことが分かんない。
いつもなら気にも留めない廃墟ビルだった。
多分、解体してこの後にまた新しい施設ができる予定なのかな。一応、立ち入り禁止のバリケードが置かれてる。
ちょっと後ろを振り返って誰も来てないか確認しながら僕は中に入った。
もちろんだけど、中は暗い。それに、コンクリートの壁がやけに冷たく感じた。その壁に掌を当てながら探るようにして進んだ。
暗くて、冷たくて、音なんて何も聞こえない。
怖い――‥‥?
そんな感情なんて今の僕には微塵もなかった。
上に行く階段がある。
手探り状態だったけど、完全に陽は落ちてなかったから、ビルの窓から入ってくる薄いオレンジ色の光に導かれた。
何階目を上がったかな?ちょっと息が切れてきた。
そのまた上を見ながら僕は呼吸を整えて先へ進んで行った。コトン、コトンって僕の足音だけが響いて、耳鳴りじゃないんだけど、ツ――ンとした音が耳を通り過ぎてく。
屋上に着く鉄の戸を僕は身体で押し開けた。
キィィ―――‥‥
重く錆びついた戸は乾いた音をたてた。
やっと屋上にたどり着いた時にはもう陽は沈んでて、空との境が茜色に染まってた。
(きれい――――‥‥)
普段なら見上げるだけの空だけど、僕は両手を広げてゆっくり四方を見回した。
吹き抜けてく風はもう冷たすぎて頬っぺがカチンって固まっちゃいそうなくらい。
くぅぅぅ―――って、頬っぺを押さえながら僕は何だか笑ってた。
反対側の空には星が輝き始めてる。
この空にちょっとだけ近いところで、開放感的な気分になったのかな?どこか、気持ちが楽だった。
こんな僕だから、
誰にも悲しまれない。誰からも惜しまれない。
こんな僕だから、
誰にも望まれない。誰にも必要とされない。
だから、さよなら、僕。
僕も人間だからさ、誰かを妬んで、恨んで、それで自分を蔑んで‥‥
欲塗れの僕だから、きっと地獄の鬼が呼んでるよ。
『鬼さんがこちら~手招きしてる~』
なんて、自作の鼻歌なんか歌って。
僕の身体はいつの間にかビルと空間のスレスレに‥‥
(ここから落ちたら痛いよね‥‥きっと。頭から落ちるのかな?それともお尻から落ちちゃうのかな?)
そんなこと思う?この状況で?つくづく、僕って変。
そうだ。もう僕は判断能力も定かではなくなったんだ。
だったらその方が、
(‥‥‥‥楽――――――――っ‥‥‥‥‥‥)
僕の身体は羽のようだった。
こんな僕は、どんな地獄に堕ちるのかな?
“ジゴク”ってどんなとこなんだろ―――
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