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第三話
しおりを挟む「だって父は王城での官職なんて持ってないのよ? そんな王城に大した伝手も無い人が、私の死を知らせる為だけにわざわざ届くかも分からない手紙を送る意味が分からないわ」
「俺が度々君の実家に召喚状という名の政治談議の招待状を送ってるから、義理で伝えてくれたとは思わない?」
「思わないわ。だってもしそれだけなら、お父様はきっと来た手紙にその返信をするだけで済ませるもの。あの人自分に利がある事だと思わない限り、自分から動く手間さえ惜しむ人だし」
その答えには「他に手間を割く暇があれば全て黒い策謀に回す」という理由が実は隠れてる。
敢えて口にはしなかったけど、今までの諸々の愚痴があったから、もしかしたら殿下もその辺は薄々感じ取ったかもしれない。
「どちらにしても直接的な交流が無い相手に対して直接手紙を出すのって、ちょっとぶしつけではあるでしょう?」
「まぁそれはそうだけどな」
「で?」
認めたので事実を促してみれば、彼はまるで観念でもしたかのように苦笑した。
「『もしお茶会の相手をご所望なのでしたら、ビクティーの妹・シリアはビクティーより余程器量が良い娘ですので』だと」
「あぁつまり、私が居なくなった事で空くだろう『殿下の懇意』を、溺愛している頭スッカスカの末娘で埋めたい、と」
納得だ。
父はせっかく手に入れた『殿下の懇意』という如何にも黒い駆け引きに向きそうな肩書をみすみす手放そうとするような人じゃないし、末娘への溺愛ぶりも少し異常なところがある。
多分本気で「アイツが勤められた立場くらい、シリアも得られて当たり前だ」とでも思っているんだろう。
「普段から賄賂が罷り通る世界で生きてるヤツだから、きっと今頃は胸を張って『ビクティーよりも見目の良い娘を献上してやる私は、なんて親切なんだろう!』とか思ってるわね、間違いなく」
思わずそう呟けば、殿下の顔が辟易としたものになる。
殿下、嫌いなのよね。
こういう裏工作も、無用な親切の押し売りも。
「で、どうする予定?」
ちょっとからかい口調でそう聞けば、彼にしては珍しく不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「まるで身分を弁えず、まるで個人を見ていない。そんなものを喜んで受け取ると思われているというだけで、心外すぎて気分が悪い」
やはり領地を腐らせている侯爵だけはあるという事か。
そんな言葉を履いた彼は、実際かなり気分を害しているようだ。
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