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35話 気づき始めた心
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そして私はパーティーの会場へと連れてこられた。
会場の中にはアーノルド王子に招待されたと思わしき貴族の人たちがちらほらと歩いていた。
今回で二回目のパーティーだが、突然イザベラ様に連れてこられたせいか、それとも今回のパーティーが昼間に開かれたものだからかは分からないが、不思議と前回のような緊張はしていなかった。
「もう人がいるわね。リナリア、何かわからないことがあったら気にせずになんでも聞いてちょうだい」
「はい、イザベラ様」
「どうしたの」
私は早速イザベラ様に聞きたかったことを質問する。
「私、こういった昼のパーティーに出るのは初めてなのですが」
「そうなのね」
「何をすれば良いのでしょうか」
以前の夜会ではノエル様と一緒に踊ったり、その後も色々とあったせいで何をすれば良いのか、なんて考える必要がなかったのだがこのパーティーでは何をすれば良いのか分からない。
「いつもだと……まずは挨拶をしにきた人の対応をするわね」
「はい」
「その後は……たまにアーノルド王子と踊ったりするわ。ま、今日はダンスは無いけど」
「はい。その後は何をするのでしょう」
「……壁際でパーティーが終わるのをひたすら待つわ」
イザベラ様が気まずそうに目を逸らした。
「で、でもそれはパーティーの中に友人がいなかった場合だから。今日はリナリアがいるから関係ないわ」
「そうですね。友人がいる場合はどうしたら良いのでしょう」
「それは……」
「こんにちはイザベラ嬢、それにリナリア嬢も」
イザベラ様の目が上を向いたり横を向いたりと色んな方向に動き回っていると、突然後ろから声をかけられた。
「ライレン侯爵様……」
振り返るとそこには爽やかな笑みを浮かべたライレン侯爵様が立っていた。
私は先程イザベラ様に指摘されたことを意識して挨拶をする。
「お久しぶりです」
「ハルト様、ごきげんよう」
「これはお二人ともどういったご関係で?」
「私たち、お友達ですの」
「へぇ……それは」
ライレン侯爵はすっと目を細める。
「まさかイザベラ嬢に友人が出来る日が来るとは」
「ハルト様、私は友人は少ないだけでいると何回言ったら分かるのかしら」
「ははは、これはすまない」
イザベラ様に睨まれたライレン侯爵は快活に笑う。
「助けがいるかと思ったけど必要なさそうだね」
ライレン侯爵は私たちの後方を意味深な目で見ると、イザベラ様もニヤリと笑った。
「はい。私にしっかりとお任せください」
私にはどういう意味か分からなかったが、今の会話でイザベラ様とライレン侯爵の間では何か共通の思考のやり取りが行われていたらしい。
「それじゃもう行くよ」
そう言ってライレン侯爵は去っていった。
「全く、ハルト様もお人好しね」
イザベラ様はライレン侯爵の背中を見つめながらため息をついていた。
私がどういうことなのか聞こうとしたその時。
『ほらあれが噂の』
『ノエル様の……』
『不釣り合いですわね』
声がしたので振り返るとそこには数人の令嬢が内緒話をしながら私のことをチラチラと見ていた。
前回のパーティーにいた令嬢達とは別の令嬢達だ。
視線には悪意の棘が含まれており、見られるたびにチクチクと刺されている感覚になった。
「ちょうどいいわ。リナリア、ついてきなさい」
「え? はい」
イザベラ様は私の方を見て話していた令嬢たちの方へと歩いていったので、私は言われるがままその後ろについていく。
いきなり近づいてきたイザベラ様を見て令嬢達は少々怯えた表情になった。
「あなた達」
イザベラ様は威圧のオーラを放ちながら令嬢達の前に立った。
「は、はい」
「私と彼女、お友達になったんですの。これからよろしくお願いしますわね?」
「は、はい……」
イザベラ様が彼女達に向かってそう言うと、彼女達は真っ青な表情になってそそくさと逃げ出した。
「いいリナリア。ああ言うのはこうやって堂々としてればすぐに逃げ出すわ」
多分逃げ出したのはイザベラ様の圧が凄かったからで、恐らく私がやろうとしても無理だろうがそれは言わないことにした。
「どうかしら、これがお友達の威力よ」
「なるほど……確かにすごいですね。でも、私はイザベラ様に返すことが出来ないので、何だか申し訳ないです……」
イザベラ様はこうして私を庇ったりしてくれる。
でも私はそれに見合う何かを返せそうに無い。
そのことが引け目に感じていた。
「何あなた。そんなこと考えてたの?」
イザベラ様は呆れたようにため息をついた。
「あなたからの私への見返りはお友達でいてくれることよ」
「え? ……そんな事で良いんですか?」
「ええ、だってそうして欲しくてお友達になったんだもの。あなたがあなたでいること。それが私にとってのメリットになるの」
「そういうことなら……」
まだ完全に理解した訳では無かったが取り敢えずイザベラ様が大丈夫だと言ったのでそういうことにしておこう。
そして今度は暇になったので、私たちは会場の端に立ちながらお話をすることになった。
私はイザベラ様に以前から気になっていたことを質問する。
「あの、イザベラ様」
「何かしら」
「どうしてイザベラ様はアーノルド王子の政務を手伝っているのですか?」
「それはアーノルド王子の役に立ちたいからですわ」
「役立ちたい?」
「ええ、こう見えても私はその……彼を愛していますから。愛している人の役に立ちたい、といいのはおかしいかしら?」
イザベラ様は頬を赤く染めてそう言った。
私は首を振っておかしくないと否定する。
「いえ! いいえ! 思いません!」
「……そう、ありがとう」
小声で「やっぱり否定しないのね」と聞こえた。
「え?」
「何でもないわ。やっぱり私の目は正しかっただけだもの。それよりあなたもしないの? ノエル様の政務」
「そ、それは……」
私は口ごもる。
「わ、私はただの婚約者なので、それに婚約者の私が政務を手伝いたいなんて言っても迷惑かも知れませんし……」
「関係ないわよ。言ったでしょ、役に立ちたいかどうかだって。あなたはどうしたいの?」
(役に立ちたいかどうか……)
役には立ちたい。ノエル様はいつも政務で忙しいらしく毎日長時間書斎に籠っているのでノエル様の負担を軽減してあげたいと思う。
しかし役に立ちたいからと言ってネイジュ公爵家の政務を手伝いたいと言っても良いものだろうか。
だって私はいずれ婚約破棄される身なのに。
「私は……」
「あなたにとってノエル様は大切な人でしょ?」
「それは……もちろんです!」
私は力強く頷く。
ノエル様は私にとって大切な友人だ。
「じゃあノエル様のことは好き?」
「えっ?」
予想だにしない質問に驚くと私は顔を伏せる。
「好きなのか、なんて言われても……」
ノエル様は大切な人であることは確かだ。
私の過去を受け止めてくれて、その上で友人として屋敷にまだ住まわせてくれている。
ノエル様と一緒にいて楽しいし、ノエル様が笑っていると心がじんわりと温かくなって幸せな気持ちにだってなる。
でも好きなのかと言われてたら、どうなのか分からない。
私には経験が足りていないのだ。
分からない。この気持ちがどんな名前なのか。
「好き……なのかは分かりません」
「そう。でもどっちにしろノエル様が大切なんでしょう? それなら思い切って聞いてみた方がいいと思うわ。迷惑かどうかなんて言ってみないと分からないんだし」
迷惑かどうかは言ってみないと分からない。
確かにそうだ。仮定の話でうだうだしていてもしょうがない。
私は自分自身に気合いを入れた。
「そうですね! 私、聞いてみます!」
「その調子よ」
「はい!」
屋敷に帰ったら聞いてみよう、私はそう決めた。
「……ねぇ」
「はい、何でしょう」
私が気合を入れているとイザベラ様が質問してきた。
「本当にノエル様のことを好きじゃないの?」
「え?」
「だって、あなたのノエル様への態度を見てたらとてもそうは思えないもの。ノエル様を見てると心が温かくなったりしない?」
「し、します! ノエル様と一緒にいると心がポカポカして、幸せになります!」
「……不意な仕草にドキッとしたりしない?」
「します! 不意打ちで褒められたりすると凄くドキッとします!」
「…………本当にノエル様のことが好きじゃないの?」
「それは……分かりません」
私は顔を伏せる。
「えぇ……これ、言っていいの? でもこういうのって私からじゃなくて本人が気づいた方が良いんじゃないの?」
「イザベラ様?」
イザベラ様は頭を抱えて聞き取れないくらい小さな声で何かを呟いていたが、私が声をかけるとすぐに立ち直った。
「いえ、何でもないわ。取り敢えずノエル様に頑張ってもらうことにしました」
「そ、そうですか……」
何やら分からないがノエル様が頑張らないといけないらしい。
「私もノエル様の負担が減るように頑張りますね!」
「……そうね」
イザベラ様に顔を逸らされた。
会場の中にはアーノルド王子に招待されたと思わしき貴族の人たちがちらほらと歩いていた。
今回で二回目のパーティーだが、突然イザベラ様に連れてこられたせいか、それとも今回のパーティーが昼間に開かれたものだからかは分からないが、不思議と前回のような緊張はしていなかった。
「もう人がいるわね。リナリア、何かわからないことがあったら気にせずになんでも聞いてちょうだい」
「はい、イザベラ様」
「どうしたの」
私は早速イザベラ様に聞きたかったことを質問する。
「私、こういった昼のパーティーに出るのは初めてなのですが」
「そうなのね」
「何をすれば良いのでしょうか」
以前の夜会ではノエル様と一緒に踊ったり、その後も色々とあったせいで何をすれば良いのか、なんて考える必要がなかったのだがこのパーティーでは何をすれば良いのか分からない。
「いつもだと……まずは挨拶をしにきた人の対応をするわね」
「はい」
「その後は……たまにアーノルド王子と踊ったりするわ。ま、今日はダンスは無いけど」
「はい。その後は何をするのでしょう」
「……壁際でパーティーが終わるのをひたすら待つわ」
イザベラ様が気まずそうに目を逸らした。
「で、でもそれはパーティーの中に友人がいなかった場合だから。今日はリナリアがいるから関係ないわ」
「そうですね。友人がいる場合はどうしたら良いのでしょう」
「それは……」
「こんにちはイザベラ嬢、それにリナリア嬢も」
イザベラ様の目が上を向いたり横を向いたりと色んな方向に動き回っていると、突然後ろから声をかけられた。
「ライレン侯爵様……」
振り返るとそこには爽やかな笑みを浮かべたライレン侯爵様が立っていた。
私は先程イザベラ様に指摘されたことを意識して挨拶をする。
「お久しぶりです」
「ハルト様、ごきげんよう」
「これはお二人ともどういったご関係で?」
「私たち、お友達ですの」
「へぇ……それは」
ライレン侯爵はすっと目を細める。
「まさかイザベラ嬢に友人が出来る日が来るとは」
「ハルト様、私は友人は少ないだけでいると何回言ったら分かるのかしら」
「ははは、これはすまない」
イザベラ様に睨まれたライレン侯爵は快活に笑う。
「助けがいるかと思ったけど必要なさそうだね」
ライレン侯爵は私たちの後方を意味深な目で見ると、イザベラ様もニヤリと笑った。
「はい。私にしっかりとお任せください」
私にはどういう意味か分からなかったが、今の会話でイザベラ様とライレン侯爵の間では何か共通の思考のやり取りが行われていたらしい。
「それじゃもう行くよ」
そう言ってライレン侯爵は去っていった。
「全く、ハルト様もお人好しね」
イザベラ様はライレン侯爵の背中を見つめながらため息をついていた。
私がどういうことなのか聞こうとしたその時。
『ほらあれが噂の』
『ノエル様の……』
『不釣り合いですわね』
声がしたので振り返るとそこには数人の令嬢が内緒話をしながら私のことをチラチラと見ていた。
前回のパーティーにいた令嬢達とは別の令嬢達だ。
視線には悪意の棘が含まれており、見られるたびにチクチクと刺されている感覚になった。
「ちょうどいいわ。リナリア、ついてきなさい」
「え? はい」
イザベラ様は私の方を見て話していた令嬢たちの方へと歩いていったので、私は言われるがままその後ろについていく。
いきなり近づいてきたイザベラ様を見て令嬢達は少々怯えた表情になった。
「あなた達」
イザベラ様は威圧のオーラを放ちながら令嬢達の前に立った。
「は、はい」
「私と彼女、お友達になったんですの。これからよろしくお願いしますわね?」
「は、はい……」
イザベラ様が彼女達に向かってそう言うと、彼女達は真っ青な表情になってそそくさと逃げ出した。
「いいリナリア。ああ言うのはこうやって堂々としてればすぐに逃げ出すわ」
多分逃げ出したのはイザベラ様の圧が凄かったからで、恐らく私がやろうとしても無理だろうがそれは言わないことにした。
「どうかしら、これがお友達の威力よ」
「なるほど……確かにすごいですね。でも、私はイザベラ様に返すことが出来ないので、何だか申し訳ないです……」
イザベラ様はこうして私を庇ったりしてくれる。
でも私はそれに見合う何かを返せそうに無い。
そのことが引け目に感じていた。
「何あなた。そんなこと考えてたの?」
イザベラ様は呆れたようにため息をついた。
「あなたからの私への見返りはお友達でいてくれることよ」
「え? ……そんな事で良いんですか?」
「ええ、だってそうして欲しくてお友達になったんだもの。あなたがあなたでいること。それが私にとってのメリットになるの」
「そういうことなら……」
まだ完全に理解した訳では無かったが取り敢えずイザベラ様が大丈夫だと言ったのでそういうことにしておこう。
そして今度は暇になったので、私たちは会場の端に立ちながらお話をすることになった。
私はイザベラ様に以前から気になっていたことを質問する。
「あの、イザベラ様」
「何かしら」
「どうしてイザベラ様はアーノルド王子の政務を手伝っているのですか?」
「それはアーノルド王子の役に立ちたいからですわ」
「役立ちたい?」
「ええ、こう見えても私はその……彼を愛していますから。愛している人の役に立ちたい、といいのはおかしいかしら?」
イザベラ様は頬を赤く染めてそう言った。
私は首を振っておかしくないと否定する。
「いえ! いいえ! 思いません!」
「……そう、ありがとう」
小声で「やっぱり否定しないのね」と聞こえた。
「え?」
「何でもないわ。やっぱり私の目は正しかっただけだもの。それよりあなたもしないの? ノエル様の政務」
「そ、それは……」
私は口ごもる。
「わ、私はただの婚約者なので、それに婚約者の私が政務を手伝いたいなんて言っても迷惑かも知れませんし……」
「関係ないわよ。言ったでしょ、役に立ちたいかどうかだって。あなたはどうしたいの?」
(役に立ちたいかどうか……)
役には立ちたい。ノエル様はいつも政務で忙しいらしく毎日長時間書斎に籠っているのでノエル様の負担を軽減してあげたいと思う。
しかし役に立ちたいからと言ってネイジュ公爵家の政務を手伝いたいと言っても良いものだろうか。
だって私はいずれ婚約破棄される身なのに。
「私は……」
「あなたにとってノエル様は大切な人でしょ?」
「それは……もちろんです!」
私は力強く頷く。
ノエル様は私にとって大切な友人だ。
「じゃあノエル様のことは好き?」
「えっ?」
予想だにしない質問に驚くと私は顔を伏せる。
「好きなのか、なんて言われても……」
ノエル様は大切な人であることは確かだ。
私の過去を受け止めてくれて、その上で友人として屋敷にまだ住まわせてくれている。
ノエル様と一緒にいて楽しいし、ノエル様が笑っていると心がじんわりと温かくなって幸せな気持ちにだってなる。
でも好きなのかと言われてたら、どうなのか分からない。
私には経験が足りていないのだ。
分からない。この気持ちがどんな名前なのか。
「好き……なのかは分かりません」
「そう。でもどっちにしろノエル様が大切なんでしょう? それなら思い切って聞いてみた方がいいと思うわ。迷惑かどうかなんて言ってみないと分からないんだし」
迷惑かどうかは言ってみないと分からない。
確かにそうだ。仮定の話でうだうだしていてもしょうがない。
私は自分自身に気合いを入れた。
「そうですね! 私、聞いてみます!」
「その調子よ」
「はい!」
屋敷に帰ったら聞いてみよう、私はそう決めた。
「……ねぇ」
「はい、何でしょう」
私が気合を入れているとイザベラ様が質問してきた。
「本当にノエル様のことを好きじゃないの?」
「え?」
「だって、あなたのノエル様への態度を見てたらとてもそうは思えないもの。ノエル様を見てると心が温かくなったりしない?」
「し、します! ノエル様と一緒にいると心がポカポカして、幸せになります!」
「……不意な仕草にドキッとしたりしない?」
「します! 不意打ちで褒められたりすると凄くドキッとします!」
「…………本当にノエル様のことが好きじゃないの?」
「それは……分かりません」
私は顔を伏せる。
「えぇ……これ、言っていいの? でもこういうのって私からじゃなくて本人が気づいた方が良いんじゃないの?」
「イザベラ様?」
イザベラ様は頭を抱えて聞き取れないくらい小さな声で何かを呟いていたが、私が声をかけるとすぐに立ち直った。
「いえ、何でもないわ。取り敢えずノエル様に頑張ってもらうことにしました」
「そ、そうですか……」
何やら分からないがノエル様が頑張らないといけないらしい。
「私もノエル様の負担が減るように頑張りますね!」
「……そうね」
イザベラ様に顔を逸らされた。
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