「冤罪で婚約破棄して申し訳ない」ですか?いえ、今更謝ってももう遅いです。

水垣するめ

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「アリス・プレスコット! お前をフィオナ・ハリソンを虐めて学園から追放した罪で婚約破棄する!」
「そんな……! 私はそんなことをしていません!」

 朝、教室にぞろぞろと入ってきた三人の生徒に突然私は糾弾された。
 制服を着た私の婚約者、ロバート・ハイド王子は私のことを睨んでいる。
 側には王子の側近である公爵家のドミニク・エドマンドと、騎士団長の息子のレオ・ウォーカーもいて、王子と同じように私を睨みつけていた。

 皆、フィオナと親しくしていた者たちだ。

「言い訳をするな! お前がフィオナに話しかけているのを見た生徒が何人もいるんだ!」
「そうです! あなたがフィオナに対してずっと粘着していたのを私たちだって見ているんです!」

 ロバートとドミニクが激しく私を糾弾する。

「違います! それは事情があって──」
「ならそれを今ここで言ってみろ! 何もやましいことが無いなら言えるよなぁ?」

 レオが攻撃的な威圧を放ちながら私へと詰め寄る。

「やましいことはありません。ですが、言うことはできません」
「っ! てめぇふざけてんのか!」

 レオが至近距離で私へ対して怒鳴った。
 騎士団長の息子というだけあり、レオは鍛えていて体も大きいので、かなり恐怖を感じた。

 彼らが怪しいと言う言い分は分かる。

 しかし言えるわけがない。


”フィオナが彼ら三人の強烈なアプローチに嫌気が指して学園から出て行きたがっていたから、私がその準備を手伝っていた”なんて。


 フィオナと話していたのもその目的があったからで、虐めていたなんていうのは勘違いだ。
 しかしそれをどうやって説明すればいいのだろうか。
 面と向かってそのまま真実を述べるのだろうか。いや、できない。
 だから、言えるわけが無いのだ。

「誓って本当です……。ですが、理由は何も話せないのです」

「そんな理屈が通じるか! 何も言えないのはやましいことがあるからに決まっているだろう!」
「同じ公爵家として忠告してあげます。早く真実を述べなさい。それに、あなたがフィオナの教科書を引き裂き、持ち物を燃やしたことも全部知っているんです!」
「冤罪です! 私はそんなことをしていません!」

 私はチラリとある方向を向いた。
 それは、『本当にフィオナの持ち物を燃やした犯人』だった。
 彼女たちは真っ青になって私を見ている。

 レオがダン! と足を踏み鳴らす。

「じゃあそれはお前以外に誰なんだって言ってんだよ! 言ってみろや!」

(言えないわよ! だってあなた達に言ったら彼女たちがどうなるか分からないじゃない……!)

 私の仲介で、フィオナの持ち物を燃やした彼女たちとフィオナの間ではもうすでに秘密裏に和解がなされている。

 なぜ秘密裏に和解が行われたのかと言うと、彼女たちには将来があるからだ。
 確かに虐めたことは許されたことではない。
 しかし、一度の数回フィオナの持ち物を燃やしたからと言ってその後全ての将来が無くなるなんていうのはあまりにも代償が重すぎる。

 そう考えた私が仲介して、和解を促したのだ。

 これにはフィオナも納得しているし、持ち物を全て弁償し、謝罪を行うことで決着がついている。

 だから、名前を言うことは出来ない。

「…………それも言えません」

 突然、バン!と音が鳴った。
 レオが私の顔を殴ったのだ。

 鍛えている男性の力で殴られた私は、簡単に吹き飛ばされた。

「いい加減にしろよテメェッ!!!」

「な、何を……」

 意識が朦朧とする。
 レオは当然手加減なんてしておらず、脳が揺さぶられる程に痛い。
 私はよろめきながら頭を上げる。

 ロバートとドミニクは憎しみの篭った瞳で私を見つめ、拳を固く握りしめている。

「いいだろう。お前がそのつもりなら、俺達もフィオナがされたことと同じことをやり返してやる!」
「私たちはあなたのしたことを絶対に許しません。せいぜい泣いて謝ることですね」

 私は勝手に悪者にされたことに怒りを覚え、言い返そうとするが意識が朦朧として何も出来ない。

(あぁ、駄目だ。意識が……)

 意識が遠のいていく。

 そして視界が暗転した。
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