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もふもふは天国と地獄
しおりを挟むドアを開けるとユーリと目が合う。普段冷静な姿とはかけ離れ、見た事もないほど焦っている。人前では感情を悟られないように鍛えている耳としっぽは見事にペタンと萎れている。レイ皇子が連れてきたであろう従者もこちらに気付いた様で、「レイ様!レイ様!」と小声で訴えかけている。その当の本人はというと…ユーリの手に自分の両手を添えて何やら微笑んでいる。
浮気か?浮気なのか?お前の夫になる男はここに居るのに何故、他の者に触れている!感じた事の無い黒い感情が胸の内に広がっていく。あぁ、こんな感情初めてだ。どうすればいいのか、自分でも理解できない。次第に部屋の空気が冷たくなっていく…ユーリと従者のしっぽが小さく速く動きだす。怖いと感じているのだろう。だが無理だ。自分でも自分の事が抑えられない。
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ユーリちゃんを…いや、ユーリさん…やっぱりユーリちゃんで!ユーリちゃんはポツリポツリ言葉少なげに、ハーデ帝国の事を教えてくれた!やっぱり獣よりの国民が多いみたいだ。もう、天国じゃん。おまけに皇帝陛下は国民想いみたいだし、ここは他の国と比べて差別が少ないんだろう。良い国だな~いや、俺の国も良い国よ?ただ、モフれないだけだから。
「皇帝陛下が民に慕われてる事がよくわかりました。ユーリさん。あなたにお話が聞けて良かった。ありがとうございます。厚かましいのですが、もう一つお願いがあります」
「えっ、もっ、もう一つお願いですか?」
「はい!何も難しい事ではありません!」
「なっ、なんでしょうか?」
おっと、あまりの勢いにユーリちゃんが引いてしまった…。
「んんッ。些細なお願いです?手を見せてください。」
「えっ、手を…ですか…?」
「はい、そうです」
にっこり笑って無言で自分の両手を差し出す。レイモンドがはぁ?意味わからんって顔で見てきてるが無視だ無視!こんなに…!こんなに近くにもふもふが有るのに触れないなんてあんまりだ!拷問か?そうゆうプレイなのか?!ユーリちゃん!!焦らしプレイなの?!穴があくほどユーリちゃんの顔を見つめていると、恐る恐る手を差し出してくれた。そっと壊れ物の様に触れてみる…
「わぁ…凄い…」
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……
いいッ!!いいよ!!ユーリちゃん!!素晴らしい!!コレコレ!!これを求めていたんだよ!!無言でユーリちゃんの肉球を優しく触る。黒くて少し硬いザラりとした肉球。たまらん!!すっかりユーリちゃんの肉球に夢中になってた俺は皇帝陛下が来ることを失念していた。
んっ?なんか部屋の温度がさっきより寒く感じる。不思議に思って顔をあげると、バッチリその人と目が合ってしまった。ドアの入口でこちらを見つめて佇む人と……
バッ!直ぐにユーリちゃんの手を離し立ち上がる。
「もっ、申し訳ありません!気付くのが遅くなりました。バルロから参りました、レイと申します。」
ヤバイヤバイヤバイ!!何がヤバイって…何あの姿!!可愛すぎるんですけどー!!ウルフだ!!狼だ!!真っ黒な毛並みに金色の目。ちょー似合ってるんですけど?!しかもユーリちゃんよりデカい!!これは抱きつきがいがありそうだ…あのもふもふに埋もれたい…俺の脳内はシミュレーションの為に今フル活動している。
「こちらこそ待たせてすまない。クロノ・カエサル・ハーデだ。クロノと呼んでくれ」
「ありがとうございます。私の事はレイと呼んでください」
「長旅で疲れただろう?晩餐会まで休んで欲しい。ただ、少しだけ今から二人で話すことは出来るだろうか?レイの事を少しでも知っておきたくて」
「嬉しいです!私にもクロノの事を教えて下さい」
「レイ様ではドアの前で待機しております」
「陛下、レイ様。自分はこれで、楽しい時間をありがとうございました」
ユーリちゃんとレイモンドは立ち上がり足が縺れる様にして足早にドアの向こうに消えていった。
「さぁ。レイ、座って話そう。聞きたい事が沢山ある。たとえば…そう…何故ユーリの手を握っていたとか、な?」
「えっ。」
えっ?えぇぇ?!
初見で尋問ですかー?!ヤバーイ!!ヤバイ子疑惑浮上したよー!!可愛い者には棘があるってか?!
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