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しおりを挟む翌日、何時もと変わらない朝。心だけは少し浮きだっていた。身支度を整え、尋問室に向かう。扉を開けた先には鎖に繋がれた見慣れた捕虜が顔を下に向けていた。
私が来た事に気づいているはずなのに、捕虜は未だに顔をあげようとしない。少し面白くなくて、コツコツとわざと音を立て石のタイルを強く踏み歩く。
「ご気分は如何ですか?」
「…」
「相変わらずの黙りなんですね」
結局、一言も声を聞くことは出来なかったな。だが、今から私が言おうとしている言葉を聞けば、少しぐらいは反応してくれるかもしれない。
「今日はいい知らせがあります」
「…」
捕虜に近づき繋がれた鎖に手かけた。ガシャンと重みのある音が部屋に響く。そのまま反対側の鎖も同じように外す。これでこの捕虜本来の力を存分に発揮出来るだろう。
「なっ…?!」
目を見開き驚く捕虜に追い打ちをかけるように、剥ぎ去った服と鎧、そして剣を差し出す。混乱しているのだろう。もう鎖で繋がれていないのに、自由に出来る腕を上げたままの状態で固まっている。
「クスッ、貴方でもそんな顔をするのですね」
最後に一泡吹かせてやれたのが愉快で堪らない。だが、早く次の行動に移してもらわないと…。せっかくの計画がダメになってしまう。
「これで貴方は晴れて自由の身です。単身でこの城を落とすも良し。国に帰り兵を連れ攻め入るのもよし。この場で私の首を落とし持ち帰る事だって出来ます」
両腕を広げ微笑めば、何か物言いたげな目つきをしながらも捕虜は置かれた服に手を伸ばした。まだ私を殺す気はないらしい。捕虜を逃したことがバレれたら私は兄達に惨たらしく殺されるだろう。
「もし攻め入る気があるのならば、早めに来てください。私が兄達に殺されるより前にね」
もう一度、微笑みかけ腕を降ろした。慣れた手つきで鎧を身にまとっていく捕虜を一瞥すると、部屋の石造りの壁の前に立つ。何の変哲もない壁だが、1箇所だけ小さくヒビの入った石がある。それを奥に押し込めば、隠し通路に繋がる道が現れた。
「どうかご武運を…」
自分でもどうかしていると思う。この国を滅ぼし、ましてや自分殺すかもしれない男にかける言葉では無い。捕虜は一度だけ振り返り、真っ直ぐな瞳で私を見ると、そのまま通路の奥へと姿を消した。
程なくして我が国は陥落した。
誰もいない尋問部屋で姿なき捕虜に尋問を行おうとしていた時、城内からけたたましい爆発音が響いた。続いて聞こえたのは怒号と金属が激しく交わる音だった。私が居る地下まで聞こえるとは…どれ程の兵を率いてきたのか…。
信頼出来る部下達は既に逃がしてある。ここに残っているのは私が殺されても構わないと判断した者たちだけだ。扉の鍵を内からかけると、粗末な椅子に座り目を閉じた。後は終わりが来るのを待てば良いだけだ。
どれ程の時間待ったのだろう。轟いていた爆発音はなりやみ、地下続く階段を降りる足音が聞こえた。ついにその時が来たのか。
何度か扉を開けようとし、鍵が掛かっている事が分かると、けたたましい音と共に扉が真っ二つに割れた。
私の目の前には以前逃した捕虜が立っていた。剣から滴り落ちる雫を振り払うと、私に向かい剣を向けた。何人殺めて来たのだろう。直に私もその他大勢の中の一人になる。
殺される瞬間、この男を目に焼き付けてやろう。そう思い、真っ直ぐに男を見返す。
男が一歩近づく、あぁ、ついに。そう思った瞬間、男は力強く剣を振り上げ石畳に突き刺した。
「なっ?!」
予想していなかった男の行動に驚きの声が漏れる。そんな私を気にすることも無く男は距離を詰めてきた。まさか、剣を使うまでもないと…手で首を締め上げるつもりか?少しの恐怖心が芽生え男を窺うように見上げる。
猛獣のような目と視線が交わる。弱者は死に方も選べないのか…。男の両腕が延ばされ私の髪に軽く触れた。自分の唾を飲み込む音がやけに耳に響く。
次の瞬間、私は思わず目をつぶった。しかし、いくら待っても男の手が首に触れるない。ゆっくりと目を開けると、目の前の男は面白そうに口元に笑みを作っていた。
「ようやくだ」
そう言ったあと、噛み付くように唇を塞がれた。驚き咄嗟に身を捩り抵抗するが、男の手に頭の後ろ押さえられ動く事が出来ない。一体何故?!この行為も、目の前の男が目を細め私を見ている理由も分からなかった。
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