裏切られた侯爵夫人なんてお断り~離婚を求められた悪役夫人は踊りだす~

みけの

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悪役夫人、ノリまくる

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 決して狭くない室内に、所狭しと居並ぶ使用人達。

彼らはフデキオ達を見る事もせず、私に一斉に声をかけた。

「奥様、離婚ですね! そして妹様がご懐妊ですか!」
「それは離婚しかないですね!」

 うん、皆頼んだ事を守ってくれている。

『あの2人に対する感情を口にしないで欲しい』

 “愛という罪に酔う”
 漫画のタイトルはまさに彼らの本質を射貫いている。罪を責められる事は彼らにとってご褒美だ。責められても酔うだけ、何も変わらない。

 ならばいっそ完全無視し、存在すらないものとしてやるのが良い。―――つまりシカトだ。

「どけっ! ここを通せ! この屋敷の主は俺だぞ!」

 フデキオの切羽詰まったような声するけど構わない。私は集まってくれた人達に、にーっこりと笑いかけ、明るい声でお礼を告げる。

「皆さん、今日までどうもありがとう! 後は言ってた通りにお願いね」

 これは2つ目の願い事だ。
『フデキオ達にこちらの情報を与えない』

 クリスティアが出て行くと、きっと彼らは思っていない。自分達の愛に縋り、願いを叶えようと尽力を尽くす。そう思っている筈だ。だって今までそうだったから。実際マンガでも、クリスティアを2人でこき下ろす一方で、こうやって仕事を丸投げして出かけてしまうのだから。
  愛を貫くためなら、利用できるものは何でも利用しようとする。それも……まぁ、愛ってやつなんだろう。でも利用される側から言わせてもらえば……。

 ふ ざ け ん な、だ。

 ……さて、ここからどう間をもたそうかな? と思案していたら

「はい奥様、いえクリスティアさん。どうぞお荷物を! こちらにお持ちしました」

キャスとリンが、私のトランクを持ってきてくれた。

 2人の顔を見ると、笑顔の目元にうっすら涙が見える。心の中で頭を下げた。あんた達のおかげで、クリスティアはやって来れたと思うよ。

「ありがとう! あなたにもお世話になったわ。おばあさまを大事にね」
「お、奥様ぁ……」

涙ぐむリン。

「もうリンったら、離婚するのだから奥様はやめて? そうね……」

 クリスティアはもう、フデキオのお嫁さんじゃない。いやもっと前からそんな風に見てもらえなかった。

……そんな過去はここで捨ててしまえ。そんな気持ちで、

「いっその事、“くーちゃん”なんてどうかしら?」

とおどけた顔で言った。

「クリスティア!!」

何かまた、言ってんなー。

「はい! くーちゃん!」

でもそれは、多数の肯定の声にかき消された。

 さーて、ここから2人に捕まらず正門にまで行くには……と思案していたら、

パンッ!

「え?」
突然大きな音が部屋に響いた。

「……フォーレン?」

 音の主はフォーレンだった。追い詰められているような厳しい表情を私に向けている。

途端に場が、水を打ったように静かになった。な、何なんだ……?

 つい顔を引き締め、彼を見ていたら……。

パン! パン! パパパン! パン!

……およ? 何かリズムついてない? って思っていたら

「くーちゃん、最高! くーちゃん、カワイイ! くーちゃん、ナンバーワン!」

ロマンスグレーの、朗々としたバリトンボイスが響いたのだった。


 見て良かったの? これ……。

 厳格有能執事にこんな一面があったとはと驚いていたら、今度は別方向から手拍子が起きる。

そこには……侍女長が……

パン! パン! パパパン! パン!パン! パン! パパパン! パン!

「くーちゃん、最高! くーちゃん、カワイイ! くーちゃん、ナンバーワン!」

 ク、クロエェェェェ!? ど、どうしたのー? 何か変なものでも食べたー?

って慌てたけどすぐに気が付く。

 2人共、私に力を貸してくれてるんだ。
普段生真面目で遊ぶなんて以ての外、って感じの2人が私の、いやクリスティアの為に慣れない事をしてくれている。

 なら、応えなきゃだ!

「ありがとー2人共! だーい好きぃ!!」

 思い切り叫ぶと2人の顔がほころんだ。

そこからあちこちで沸き起こる手拍子。

「くーちゃん、最高! くーちゃん、カワイイ! くーちゃん、ナンバーワン!」

「み、皆さん……」

って、感極まってる場合じゃない! と手拍子に乗ってくるり、とターンの後ポーズを決める。

「ありがとー! 皆、サイコーだよっ!」

 前世のアイドルの真似をして見たら、皆もワッて沸いた。

 「く・う・ちゃん! く・う・ちゃん!!」
「イエ―! イエ―! イエ―!」
皆が手拍子してくれる中、それに合わせて腕を振り、全身でリズムを刻みながら部屋の外へ移動する。
 「く・う・ちゃん! く・う・ちゃん!!」
「素敵ぃー! カッコいい!!」

 うん、皆めっちゃノッてんなー、私も負けられないぞ!
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